お母さんは毒親だったよね…94歳〈認知症〉母の面倒を見る70歳女性、弱っていく母に自分の将来を重ねて戦慄!娘たちに迷惑をかけないためにとった行動の中身とは?【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月16日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
2040年問題をご存じでしょうか? 団塊世代の子ども世代が65歳以上になり、そのときには認知症の患者数が約584万人に上り、その数は65歳以上の高齢者の15%を占めるといわれています。自分、もしくは親が認知症になった場合の財産の管理方法はどうすればよいのでしょうか? CFPなどの資格を持つトータルマネーコンサルタントの新井智美さんが、認知症に不安を感じる人に向け、今できる対処法について解説します。
「お母さんは毒親だったのでは?」募る母への恨み
9月に70歳の誕生日を迎えた登美子さんは最近自分でも物忘れがひどくなっていることに危機感を覚えていました。実は登美子さんには同じ市内の老人ホームに入居している94歳になる母親がいるのですが、認知症で意思表示が困難な状態。母親が暮らしていた実家は登美子さんが管理しています。
近所の人からは孝行娘として知られる登美子さんですが、実は母親のことを恨んでいました。登美子さんの母親は当時の女性としては珍しく東京の医学専門学校を卒業した看護師で、バリバリと働いていました。そんな母親から登美子さんは厳しく躾けられました。そして、高校を卒業したら東京の大学に進学したいと希望した登美子さんに母親は猛反対。
「地元の短大しか進学は認めない」と言われ、泣く泣く登美子さんは地元の短大に進み、お見合い結婚しました。何かと厳しかった母親への積年の恨みは募るばかりですが、世間体もあってイヤイヤ母親の世話をしているという状況です。
登美子さんは密かに「うちの母親は今で言う毒親だったのでは?」と思うことがあります。
登美子さんには2歳年下の妹がいるのですが、母親の自分への接し方と妹への接し方は明らかに違いました。妹は東京で暮らしているのですが、自分勝手なところは母親にそっくりで登美子さんの苦労も知らず「お姉ちゃんはお母さんの遺産を狙っているんじゃない?」と言ってくる始末。
もともと姉妹の仲はよくなかったのですが、母親が死んだあとは揉めることは必至で、登美子さんは気が重くなるのでした。
そんな事情もあって登美子さんは自分の将来についても心配になってきました。日に日に弱っていく母に自分の将来の姿が重なります。登美子さんの夫はすでに亡くなっていますが、登美子さんには2人の娘がいます。
「最近は物忘れもひどいし、いつ認知症になってもおかしくない。自分が死んだあとも娘たちが遺産のことで揉めないように今のうちに対策をしておこう」と思い立ち、専門家に相談することにしました。
認知症および軽度認知障害(MCI)の現状
厚生労働省の発表資料によると、2022年の65歳以上の高齢者における認知症者は約443万人となっており、65歳以上の高齢者の約12%を占めています。また軽度の認知症と診断された人も約559万人おり、65歳以上の高齢者の約16%を占めている状態です。
そして今後問題視されているのが2040年問題です。2040年問題とは、団塊世代の子ども世代が65歳以上になり、そのときには認知症の患者数が約584万人に上ることで、その数は65歳以上の高齢者の15%を占めるといわれています。
人生100年時代そして少子高齢社会をむかえ、認知症患者は今後さらに増加するといわれていることからも、認知症に対する問題はもはや他人事ではなくなってきています。
家族に財産を管理してもらう家族信託
認知症になると、本人に判断の能力がないと見なされ、銀行口座は凍結されてしまいます。そうなると家族でも登美子さんのお金を引き出すことはできません。いくら自分が認知症になったときのためにとお金を貯めていても、結局家族は使えないことになってしまうのです。
家族信託とは、本人の財産を管理する方法の一つで所有権を「財産権(財産から利益を受ける権利)」と「自分の財産を管理もしくは運用、処分できる権利」に分けて、後者を子どもに託す契約です。そのため、登美子さんの財産から得た利益は登美子さんしか受け取れません。
家族信託を利用することで、登美子さんが今後認知症になったとしても、子どもに財産の管理や運用を任せることができるのです。
家族信託は、契約を締結する必要があり、その際には
- 委託者:財産について信託する人(登美子さん)
- 受託者:財産の管理や運用、処分などを行う人(登美子さんの子ども)
- 受益者:財産から得られる利益を受け取る人(登美子さん)
と3つの役割に分け、財産の管理方法や運用、処分方法について話し合い、その内容を契約書にまとめる必要があります。
また、家族信託で委託できる財産は「現預金」「不動産」「生命保険」「有価証券」と決めあれています。
家族信託を利用することにより、賃貸物件を経営している親が子どもに経営を任せることができますし、自分の口座のお金を治療や介護費用にあてることも可能になります。
また、家族信託は認知症だけに当てはまる問題ではありません。たとえば、子どもが知的障害を持っている場合、自分たちが亡くなったあとは兄弟などにその子どもの財産管理を任せるといった使い方もできます。このような使い方は障害のある子どもを持つ親にとってはとても有効な方法ではないでしょうか。
ただし、家族信託では財産の管理や運用、処分する権利のみを委託されます。そのため、今後仮に施設への入居などが必要になったとき、登美子さんが契約当事者となる契約を子どもたちが結ぶことはできません。ここで必要になるのが成年後見人です。
成年後見人制度とは?
成年後見人制度とは、認知症などで正確な判断ができなくなる前に、自分が選んだ人に代わりに契約を行ってもらうなどを決める制度です。後見人は自分で選ぶことができ、選ばれた後見人は任意後見人という立場になります。
ただし、任意後見人制度を利用するには公証役場で公証人が作成する公正証書で契約を締結しなければなりません。その際には以下の費用が発生することも覚えておきましょう。
- 契約書作成手数料:11,000円
- 登記嘱託手数料:1,400円
- 登記に関する手数料(登録免許税):2,600円
また、契約を結んだからといって登美子さんが認知症になった際、任意後見人である子どもがすぐに契約などを結べるわけではなく、まず任意後見制度を締結したあとに、登美子さん自身が自分の判断力に不安を感じたら、任意後見監督人選任の申し立てを裁判所に対して行わなければなりません。
そして任意後見監督人が選任されたら、その監督人のもとで任意後見人である子どもが登美子さんに代わって契約手続きなどを行えるようになるのです。
家庭裁判所に申し立てる際には手数料が800円かかることも覚えておきましょう。
任意後見監督人には弁護士や社会福祉士など第三者が選ばれることが一般的で、親族などはなれないことになっています。
地域を挙げての取り組みが課題
今後認知症になった場合の不安を取り除く方法として「家族信託」そして「成年後見人制度」があります。どちらも契約を交わす必要があり、成年後見人制度のほうが手続きが複雑です。
ただ、家族信託では本人に代わって契約をすることまではできないため、登美子さんは成年後見人制度の活用も合わせて考え始めています。
認知症に対しては国も取り組みを始めており、認知症の人を手助けする人を養成しています。ただ、まだその存在が知られていないことや、認知症の人に対してどのように接していいのかわからないといった問題が残っているようです。
また、自治体独自で認知症の人の支援を行う仕組みを検討しているところもありますが、現在ではまだ全国の2割程度に留まっています。
特に一人暮らしの高齢者が認知症になった場合は、より周囲のサポートが必要です。孤独社会に問題が取り上げられている今こそ社会のあり方を見つめ直し、今後は日々人との関わり合いが持てるような社会になるように意識しながら行動する必要があるのかもしれません。
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP
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