母さんに寄生したくせに。…老母の介護を背負わされ、別居の姉・弟に「使い込み」を疑われた50歳バツイチ女性、号泣。母の貯金「2,000万円」が減り続けた本当の理由【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月18日 11時15分
(※画像はイメージです/PIXTA)
超高齢化が進む日本。子どもは高齢の親の介護に手を尽くしたことで、時間や仕事を失うばかりか、人生設計まで大きく狂うといった、つらい状況に陥ってしまうことがあります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。
ひとり暮らしの高齢母、父の七回忌以降急速に弱り…
筆者のもとに、相続トラブルの相談が持ち込まれました。
相談者は、近藤さん(仮名)とおっしゃる50歳の独身女性です。女性は3人きょうだいの真ん中で、4歳年上の姉、2歳年下の弟がいます。
女性の父親は12年前に亡くなっており、そのときは、母親がすべての遺産を相続しました。父親の財産の内容は、横浜市の郊外の2LDKの一軒家と、約2,000万円の現預金です。
「70代半ばで亡くなった父は、遺された母の生活のことをとても気にしていました。両親は同い年の夫婦で、とても仲がよかったのです」
そのため、子どもたちは遺産相続を放棄し、すべて母親の老後生活のために充てることで同意しました。
母親は父親が亡くなったあとも、思い出の詰まった自宅でひとり暮らしを続けていましたが、年齢が高くなるに従い、だんだん体が弱り、生活のサポートが必要になりました。
「父の七回忌を終えたあたりから、母が急に弱ってきまして…」
「あなたがそばにいれば安心」…同居&介護を引き受ける羽目に
近藤さんは20代半ばで結婚し、夫の仕事の都合で長年関西に暮らしていましたが、父親を見送った数年後に離婚。お子さんはいません。その後は契約社員の仕事に就き、実家から数駅離れたエリアの賃貸アパートで独り暮らしをしていました。
姉はさいたま市で自分の家族と生活しており、弟は東京都のマンションで、やはり自分の家族と暮らしています。
母親と近居の近藤さんは、生活のサポートが必要になった母親を見て、姉と弟に「実家を売却して母親に施設へ入ってもらってはどうか」と相談しました。
「ところが、姉と弟からは〈施設なんてとんでもない〉と、大変な反発がありました。おまけに、姉から直接母へ話が行ってしまい、母には〈私が邪魔ってことなのね?〉と号泣されてしまって…。私ひとりが悪者です。泣きじゃくる母親をなだめるのは、本当に大変でした」
しかし、母をそのまま置いておくのは心配です。
「そのため〈きょうだいで順番に様子を見に行くのはどうか〉と提案しました。しかし、姉は距離と家族の世話を理由に渋り、弟は仕事が多忙なうえ、フルタイムで働く妻にも負担はかけられないというのです」
すると姉から、賃貸暮らしで身軽な近藤さんに、母親との同居を提案されました。
「姉からは〈あなたの家賃も助かるし、私もできる限り援助するから〉、弟からは〈お姉ちゃんが一緒にいてくれたら安心。お金もサポートする〉といわれて…。なにより、施設の話で母親に泣かれたときに〈お母さんのことは一番大事〉〈できることなら面倒を見たい〉と慰めた言葉で、自分自身を縛ることになってしまいました」
サポートのそぶりも見せない姉と弟、仕事まで失い…
しかしその後、近藤さんの姉や弟が、母親のサポートに出向くことも、金銭的な援助をすることも一切ありませんでした。
さらに大変なことに、近藤さんの勤務先が業績不振に陥り、不採算部門を整理することになりました。近藤さんもそのあおりを受け、失職してしまったのです。
「勤務先は10時6時で残業もなく、有休もとりやすくて感謝していたのですが…。姉にそのことを話し、〈就職活動しなければいけないから、落ち着くまで少し手伝ってほしい〉といったところ、〈夫の世話があるから無理〉とバッサリ…」
近藤さんはなんとかパート従業員の職を見つけ、勤務しつつ介護していましたが、なし崩し的に介護の比重が増えていき、いつしか介護だけの生活へと突入してしまいました。
「母の介護をした分、遺産を手厚くしてほしい」「はぁ!?」
母親が亡くなったのは、近藤さんが完全な介護生活へシフトしてから2年後のことでした。
「脳梗塞でした。どうやら、私が出かけてすぐ倒れたらしく、銀行やらスーパーやらで用事をすませて戻ったときには意識がなく…。搬送先の病院で、数日後に亡くなりました」
母親が亡くなったことで、相続が発生。近藤さんは、郊外の老朽化した自宅を売却し、母親の介護をしたぶん手厚く遺産をもらい、あとは姉と弟で2分割すればいいと考え、それを姉と弟に提案しました。
ところが、姉と弟はその話を聞いて激怒。その理由は以下のようなものでした。
●母親のお金で生きていたのだから、本来なら贈与を受けたのと同じでは。相続額が大きくなるのはおかしい。
●介護したかもしれないが、その分は生活費と相殺では。譲歩しても遺産分割は3等分が妥当。
●お金の不安があるのならきょうだいに相談すべきなのに、それがなかった。「介護のせいで離職した」というのは甘え。母に寄生していたも同じ。
●母親は遺族年金をもらっている。それなのに、預貯金が減っているのはおかしい。使い込みでは。
「母の介護という制約がなければ、再就職はできたと思っています。そもそも、親の家で、親を介護しながら暮らすことが生前贈与になるのでしょうか?」
「母のお金は断じて使い込みしていません。母の遺族年金は14万円で、生活するだけでギリギリです。貯金は病院代やタクシー代、エアコンや給湯器の買い替え、日常の生活のこまごました出費で預貯金が目減りしました。いずれにしろ、母の頼みで支払いを決めたものばかりです」
そういうと近藤さんは、ボロボロとこぼれる悔し涙をぬぐいました。
遺言書ナシ、口頭での主張のみで遺産分割への配慮はむずかしい
近藤さんは母親の介護のために同居し、世話をするなかで、多くの時間と労力を使っていますが、遺言書がない以上、母親が亡くなれば、介護に一切の手出しをしなかった姉や弟にも、同等の相続権が生じます。
さらに、介護に追われて適切な書類整理ができず、さまざまな領収書や、日々の生活に伴うレシートなどが手元に残っていないという状況も、近藤さんにとって痛手でした。
姉と弟はお金の流れが不明瞭だとしたうえで、近藤さんが母親の貯金を使い込んだ挙句、年金も好きに使ったと決めつけ、話し合いが不可能な状況にまでこじれてしまったのです。
結論から申し上げると、近藤さんの依頼によって弁護士が介入し、家庭裁判所の調停にて話し合いが行われたものの、寄与分を正面から認めてもらうことはできず、自宅は売却のうえ、100万円ほど多く近藤さんが多く受け取ることで着地しました。
「親の家で同居する子どもは、生活面の恩恵を受けているのでは」という主張もしばしば聞かれますが、よほど特殊な事情がない限り、法律でそのような判断をされることはありません。
一方で、母親の介護と無職であることの因果関係を証明することはむずかしく、その点を遺産分割に反映するのは、法的にもハードルが高いといえます。
年齢を重ねた親への思いと、周囲からの「身軽な人がやるべき」という圧力に押され、自宅に戻ってしまった近藤さんですが、結局、母親の相続時には、きょうだいとのトラブルと決別という、つらい思いをすることになってしまいました。
介護と相続の問題は、親族間でしっかりと話し合っておかないと、あとでトラブルになる可能性が極めて高いといえます。ましてや、今回のケースのように、1人に負担が偏るような状態を放置することは、ぜひとも回避すべきだといえます。
(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)
山村法律事務所 代表弁護士 山村暢彦
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