「遺産4,100万円すべてを長女に」遺言を遺し他界した祖父…親が亡くなり代襲相続した「孫」が遺留分請求できる“妥当な金額”【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月2日 14時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
孫には原則として遺留分が遺言書をありません。しかし、例外的に遺留分の権利を有するケースも。孫へ相続が発生する場合、のちのちのトラブルを避けるためには、事前の準備が肝要です。本記事では、孫に遺留分があるケースについて、Authense法律事務所の堅田勇気弁護士が解説します。
「遺留分」とは?
遺留分とは、亡くなった人(「被相続人」といいます)の配偶者や子どもなど一部の者に保証された、相続での最低限の取り分です。ただし、遺言書が遺留分を侵害する内容のものであっても無効となるわけではありません。
たとえば、相続人が長男と長女の2名であり、「長女に全財産を相続させる」という内容の遺言書があったとしても、これは有効です。長女はこの遺言書に従って、遺産である不動産を名義変更したり、預貯金を解約したりすることができます。
しかし、この遺言書は、長男の遺留分を侵害しています。そのため、長男は長女に対して、「遺留分侵害額請求」をすることができます。遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分相当額を金銭で支払うよう請求することです。この請求をされたら、長女は長男に対して、遺留分相当額の金銭を支払わなければなりません。
とはいえ、遺産は預貯金などすぐに換金できるものであるとは限らず、自社株や自宅不動産など換金が難しいものが大半を占めることも多いでしょう。この場合は、長女は遺留分侵害額の支払いに苦慮することとなりかねません。
遺留分侵害額請求がなされてトラブルに発展する事態を避けるため、どの相続人にどの程度の遺留分があるのかを確認したうえで、遺留分に配慮した遺言書を作成することが必要です。
孫の遺留分
孫には原則として遺留分がない
遺留分の権利を有するのは、次の者です。
・配偶者相続人:被相続人の法律上の夫または妻
・第1順位の相続人:被相続人の子ども。子どもが被相続人より先に死亡したり相続欠格に該当したりして相続人ではなくなったときは、その相続人ではなくなった子どもの子ども(被相続人の孫。代襲相続)。代襲者である孫が同様に相続人ではなくなったときは、孫の子どもも相続人となり得ます(再代襲)。
・第2順位の相続人:被相続人の父母。父母がいずれも死亡しており祖父母のうち存命の者がいる場合は、祖父母遺留分の権利は、相続人であることが前提とされています。
被相続人の孫は原則として相続人ではないことから、遺留分の権利もありません。
孫に遺留分があるケース
例外的に、孫が遺留分の権利を有する場合があります。ここでは、孫が遺留分を有することとなるケースを4つ紹介します。
1.孫が被相続人の養子となっている場合 2.孫の親(被相続人の子)が死亡している場合 3.孫の親(被相続人の子)が相続人から廃除された場合 4.孫の親(被相続人の子)が相続欠格となった場合
1.孫が被相続人の養子となっている場合
1つ目は、孫が被相続人の養子となっている場合です。相続において、養子は実子と同等に扱われます。そのため、孫が養子となっている場合、実子と同じく相続人としての権利を有し、遺留分の権利も有することとなります。
なお、養子は相続税の計算上は一部において実子とは異なる取り扱いがなされるものの、相続分や遺留分など民法上の権利は実子と変わりがありません。混同しないようご注意ください。
2.孫の親(被相続人の子)が死亡している場合
2つ目は、本来相続人になったはずの被相続人の子ども(孫の親)が、被相続人の死亡以前に死亡している場合です。この場合は孫が代襲して相続人となり、同時に遺留分の権利も有することとなります。
3.孫の親(被相続人の子)が相続人から廃除された場合
3つ目は、本来相続人になったはずの被相続人の子ども(孫の親)が、相続人から廃除された場合です。「廃除」とは、相続人になるはずであった者が次のいずれかに該当する場合に、相続人の権利を剥奪することです(民法892条)。
・被相続人に対して虐待をした ・被相続人に重大な侮辱を加えた ・そのほかの著しい非行があった
相続人からの廃除は、被相続人自らが生前に家庭裁判所に請求するか、被相続人が遺した遺言に従って遺言執行者が家庭裁判所に請求することでなされます。廃除は代襲原因となるため、被相続人の子どもが廃除されると、その廃除された子どもの子ども(被相続人の孫)が相続人となり、遺留分の権利も有することとなります。
4.孫の親(被相続人の子)が相続欠格となった場合
4つ目は、本来相続人になったはずの被相続人の子ども(孫の親)が、相続欠格に該当した場合です。相続欠格とは、相続人になるはずであった者が次のいずれかに該当する場合に、相続人の権利を自動的に失うことです(民法891条)。
・故意に被相続人または先順位若しくは同順位の相続人を死亡させたことや、死亡させようとしたことで刑に処せられた者
・被相続人が殺害されたことを知ったにもかかわらずこれを告発しなかった者や、告訴しなかった者(その者に是非の弁別がないときや、殺害者が自己の配偶者または直系血族であった場合を除く)
・詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者
・詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
・相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
相続欠格は、代襲原因となります。そのため、被相続人の子どもが欠格事由に該当すると、その欠格事由に該当した子どもの子ども(被相続人の孫)が相続人となり、遺留分の権利も有することとなります。
孫の遺留分割合
親などの直系尊属のみが相続人となる場合を除き、全体の遺留分割合は、2分の1です。これに法定相続分を乗じて、個々の遺留分割合を算定します。では、孫が遺留分権者となる場合、孫の遺留分割合はどの程度なのでしょうか? 2つのパターンにわけて解説します。
被相続人の「養子」である場合
孫が被相続人の養子である場合、孫の遺留分割合は被相続人の実子と同じです。被相続人の相続人が、配偶者、長男、長女、長男の子どもである孫(被相続人の養子)である場合、それぞれの遺留分割合は次のとおりです。
・配偶者:2分の1(全体の遺留分割合)×2分の1(法定相続分)=4分の1
・長男:2分の1(全体の遺留分割合)×6分の1(法定相続分)=12分の1
・長女:2分の1(全体の遺留分割合)×6分の1(法定相続分)=12分の1
・養子(孫):2分の1(全体の遺留分割合)×6分の1(法定相続分)=12分の1
孫の親が死亡/廃除/相続欠格の場合
孫の親である被相続人の子どもが、死亡や廃除、相続欠格で相続権を失っている場合、孫の遺留分割合は、その相続権を失った者の相続分を孫の数で等分した割合となります。被相続人にはもともと配偶者、長男、長女がいたところ、長男が被相続人より先に死亡した場合、長男に子ども(被相続人の孫)が2名いた場合の遺留分割合はそれぞれ次のとおりです。
・配偶者:2分の1(全体の遺留分割合)×2分の1(法定相続分)=4分の1
・長男の子(孫)1:2分の1(全体の遺留分割合)×4分の1(本来の長男の法定相続分)×2分の1(長男の子である孫2名で等分)=16分の1
・長男の子(孫)2:2分の1(全体の遺留分割合)×4分の1(本来の長男の法定相続分)×2分の1(長男の子である孫2名で等分)=16分の1
・長女:2分の1(全体の遺留分割合)×4分の1(法定相続分)=8分の1
代襲相続がある場合、法定相続分や遺留分割合の計算はやや複雑となります。お困りの際は、弁護士へ相談したほうがよいでしょう。
孫「自分の遺留分はいくらなのか?」
孫に遺留分がある場合、孫が自分の具体的な遺留分を計算するにはどうすればよいのでしょうか? ここでは、ある男性の相続が発生した例から、次の前提で遺留分を計算する流れを解説するとともに、計算例を紹介します。
・相続人:配偶者、先に死亡した長男の子(孫)2名、長女 ・被相続人の遺産総額:4,100万円 ・被相続人の負債総額:100万円 ・被相続人が亡くなる3年前に、長女に対して贈与した財産:2,000万円 ・被相続人は長女に全財産を相続させる旨の遺言書を遺しており、負債も全額長女が負担した
とはいえ、実際に計算しようとすると、計算に迷ってしまうことも少なくないでしょう。実際のケースで遺留分計算にお困りの際は、弁護士への相談をお勧めします。
遺留分計算の基礎となる財産を計算する
はじめに、「遺留分計算の基礎となる財産」を計算します。遺留分計算の基礎となる財産は、次の式で算定します(同1043条1項)。
遺留分計算の基礎となる財産=被相続人が相続開始の時において有した財産の価額+一定の贈与財産の価額-債務の全額「一定の贈与財産」とは、被相続人がした贈与のうち、次のいずれかに係るものです。
・相続人以外の者に対して、相続開始前の1年間にした贈与 ・相続人に対して、相続開始前の10年間にした贈与 ・時期を問わず、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与
例のケースに当てはめると、遺留分計算の基礎となる財産は次のとおりとなります。
遺留分計算の基礎となる財産=4,100万円+2,000万円-100万円=6,000万円自分の遺留分割合を確認する
次に、自分の遺留分割合を確認します。先ほど解説したように、例のケースにおける各相続人の遺留分割合は次のようになります。
・配偶者:4分の1 ・長男の子(孫)1:16分の1 ・長男の子(孫)2:16分の1 ・長女:8分の1
遺留分割合を乗じて遺留分額を算定する
遺留分計算の基礎となる財産の額に遺留分割合を乗じて、各相続人の遺留分割合を計算します。例のケースにおいて、それぞれの遺留分額は次のとおりです。
・配偶者:6,000万円×4分の1=1,500万円 ・長男の子(孫)1:16分の1=375万円 ・長男の子(孫)2:16分の1=375万円 ・長女:8分の1=750万円
つまり、例のケースにおいて、孫1と孫2はそれぞれ長女に対して375万円の遺留分侵害額を金銭で支払うよう請求できるということです。
孫「遺留分侵害されている!」…気づいたときの対処法
孫が自身に遺留分があり、その遺留分が侵害されていることに気づいたらどのように対処すればよいのでしょうか? 最後に、遺留分侵害をされた場合の対処法を解説します。
できるだけ早期に弁護士へ相談する
被相続人が遺した遺言や生前贈与で遺留分が侵害されていることに気付いたら、早期に弁護士へ相談するべきでしょう。遺留分侵害額請求は自分で行うこともできますが、請求後に遺留分侵害額などについて交渉が必要となることが多いためです。自分で請求する場合、不利な内容で合意してしまうかもしれません。請求してしまってから後悔しないよう、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。
期限内に遺留分侵害額請求をする
弁護士へ相談したら、期限内に遺留分侵害額請求をします。遺留分侵害額請求の期限と請求方法は次のとおりです。
1.遺留分侵害額請求の期限
遺留分侵害額請求の期限は、被相続人の死亡と遺留分侵害の事実(遺言書の存在など)を知ってから1年間です(同1048条)。また、これらを知らないままであっても、被相続人の死亡から10年が経過するともはや遺留分侵害額請求をすることはできません。そのため、遺留分侵害額請求は、特に期限に注意して行う必要があります。
2.遺留分侵害額請求の方法
遺留分侵害額請求の方法について、法律上の制限はありません。しかし、実務上は、内容証明郵便で請求することが一般的です。なぜなら、内容証明郵便で請求することで、確かに期限内に請求したとの証拠が残るためです。口頭や普通郵便で請求した場合、相手方から「期限内には請求されていない」などと主張され、これを覆せないおそれが生じます。
なお、遺留分侵害額請求をしても、相手方が請求に応じないこともあります。また、遺留分侵害額についての意見が相違し、交渉がまとまらないこともあるでしょう。この場合は、裁判所に調停を申し立てて解決を図ります。調停とは、裁判所の調停委員が意見を調停し、合意をまとめるための手続きです。
調停でも意見がまとまらない場合は、訴訟へと移行します。訴訟では、裁判所が具体的な遺留分侵害額を認定します。裁判所が下した結論(判決)には、期限内に控訴の手続きを取らない限り、双方が従わなければなりません。
孫への相続、遺留分対策
遺留分と孫について、解説しました。孫は原則として相続人でないことから、遺留分の権利もありません。ただし、孫が被相続人の養子である場合や代襲して相続人となる場合には、例外的に遺留分の権利を有します。
孫が遺留分侵害をされてお困りの際や、財産を遺す立場として遺留分対策を講じたい場合は、弁護士へ相談することを勧めます。
堅田 勇気
Authense法律事務所
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