株価のパフォーマンスと企業収益の「断ち難い関係」とは【資産運用のプロが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月30日 8時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
投資をするにあたって知っておきたい株価のパフォーマンスと企業収益の関係性について、「大きく負けない運用」を実践する本庄正人氏(キャピタル アセットマネジメント株式会社)が詳しく解説します。
株価のパフォーマンスと企業収益には断ち難い関係がある
証券投資、とりわけ株式投資に携わる人々にとっては、企業業績が将来どうなるかを考えないことは無いでしょう。プロとして株式投資に携わる私達にとっても、アナリストであれファンドマネジャーであれ、仕事の役割やアウトプットとして求められるものは違いますが、企業の業績、収益性について考えること-公開されているデータに加えて、その企業が属する業種のライバル企業や扱う製品、原材料、規制、資本政策等の情報収集と分析に多くの時間とエネルギーを注いでいます。
ファンドオブファンズを運用する立場からすると、ロングオンリーのファンド(大別してバリュー、グロース、クォンツなどのスタイルがあります。)、ロング・ショート・ファンド(ある銘柄を買うと同時に他の銘柄を空売りして、両方のポジションからリターンを狙うもの)、イベント・ドリブン・ファンド(企業のM&Aに関する情報から買い手と売り手の銘柄のフェアバリュー(妥当な株価)からの乖離を利用する戦略)など、様々な運用戦略を実行に移し、リターンを上げる様子を観察しています。
実に様々な運用のスタイル・戦略があるものですし、また夫々の戦略によって同じ企業の収益を調査していても着眼点、将来予測の期間(年数)、業績モデル、求められる厳密さが異なります。大抵はアナリストの部門長(Research Director)がいて、運用会社としての規律やアウトプットである業績予測の品質管理をすべく配下のアナリストの調査、分析活動を管理、補助しています。このほかにも、企業経営者との対話、競合他社、規制当局の方向性、直観を含むありとあらゆる情報に基づいて、検討対象の銘柄ごとに適した分析を行います。
また、上記の伝統的な運用手法以外にクォンツ(定量的)運用では、コンピューターに入力が可能なモデル、データに基づいてシステマティックな投資を行っています。伝統的手法とは異なり、最終的な売買の意思決定には人間の判断、干渉が入り込む余地はありません。人間が考える余地は、モデルの中身を改良する場合に限られます。
クォンツ運用では、非定量的な方法では簡単に処理できないような洗練された方法でアイデアを処理することで、多数の分散化された小さな取引のそれぞれにおいて小さな優位性を作り出そうとします。
大量のデータ処理、組み合わせによって市場参加者が即座には価格に織り込まない可能性のある関連性を特定します。この関連性に基づいて取引(執行)シグナルを生成するコンピューター・システムを構築し、取引コストを考慮したポートフォリオの最適化を行い、秒ごとに何百もの注文を送る自動化された執行方法を用いて取引きします。
株式投資の複数の形態にはいくつか相違がありますが、いずれも対象とする企業の業績に基づいた株式評価、その解釈を拠り所とします。株式の本源的価値は株式評価の中心であって、企業の(一株当たりの)利益やフリー・キャッシュフローの実績、予測が投資を実行するうえでの中心です。
【バリュー投資】
定義としては容易で割安と評価される株式を買い、更に場合によっては割高と評価される株式を空売りする投資スタイルです。考え方としては、著名なGraham and Dodd(1934)まで遡り、現代のWarren Buffetが代表的なバリュー投資家と言えます。
世間一般の通念に逆らって大部分の人からは好まれている株式の保有は避け、嫌われている株式を買うことですが、「言うは易く行うは難し」です。下落した、あるいは見向きもされない株式を買いにいくのですから自信と勇気が必要です。
実践する方法は様々で、本源的価値の定義、保有期間、ポートフォリオの構築方法(割安と信ずる銘柄だけに集中するのか、ある程度マーケットとの連動性を考慮するのか)などによって実践は異なります。
筆者が実際に目の当たりにしたバリューだけに投資する米国のBアセットマネジメント社ではアナリストに徹底した調査をさせることで有名でした。
ドット・コム相場(2000年当初のインテルの暴落で終焉を迎えるIT銘柄ブーム)のさなかに、割安に放置されていると思われる紙・パルプセクター担当のアナリストと面談したときのことです。彼女はある企業が保有するすべての製紙工場を訪問、調査しており色々な種類の紙製品ごとの製造原価、輸送コストを、工場のエンジニアへの取材も含めて知悉しているのでした。紙製造過程で使われる様々な装置・機械の型式等にも注目するのでした。(償却費用が整合的かなどをチェックするため)膨大な時間と調査の結果です。
また、各種の紙のユーザー(新聞紙、段ボール紙、コート紙、ティシューなど、紙にも様々な種類があるものです。)に直接あたり、仕入れ値、数量、ライバル会社の動静などを調べます。生産工程から最終市場まで。「紙パ」ビジネスの端から端までの内容を知らなければ投資はできないと語っていました。キャッシュフローの予測も5年以上にわたります。
徹底的な調査が売り物の投資運用会社ではありましたが、このような調査に対する態度を持ったアナリストが業種ごとに配置されているので、その内実は投資運用会社というよりも、シンクタンクといった様相でした。彼らは割安に放置されている銘柄を発見しては、綿密な調査の上で購入し、本源的価値に達するまで忍耐強く保有し続けるのです。
このような調査に資源をかけなくても、比較的単純にPBRやPERの低さに着目して投資するバリュー投資家も存在します。その代わり、クォンツ手法を発展、応用した手法が多いように思われます。
【ファンダメンタル分析】
バリュー投資家は株式の本源的価値の計算に多くの場合、配当割引モデルやそれを改良したモデルを用いているようです。
モデル自体はロジカルで容易に理解されますが、難しいのは先ほどのアナリストの仕事のように、モデルへの入力値を求める作業です。このモデルへの入力値を求めるプロセスはファンダメンタル分析と呼ばれます。調査、分析は様々で、前述した著名な投資会社以外にも、人を重視する投資家、業界動向(グローバルな)を重視する投資家も存在します。
【安全余裕率】
バリュー投資家は将来の利益を推定した後に、この将来利益の現在価値を求めます。これが推定される本源的価値ですが、この数値は入力された値の影響を受けます。特に割引率、成長率の推定値に影響されるので、通常の場合は本源的価値の取り得る値の範囲を考えることが多いです。Graham and Doddも投資家に対して「安全余裕率」(margin of safety)を使うことを勧めています。
【バリューの罠】
ディープ・バリュー(本源的価値と比べて極端に割安な株式)の投資家は、特売価格が付いた銘柄に投資しようとします。この場合(例えば、PBRが0.3倍であるとか)必ず次の問に答える必要があります。すなわち、本当に割安なのか、あるいは安いには真のファンダメンタルズが壊れかかっているために割安に放置されているのか、です。
株式市場には多数の人々が参加し株価には大量の情報が反映されています。従って、ある株式がもし割安に見えれば、通常それには理由があり、成長が平均以下になりそうなことを表しています。バリュー投資家が根本的な問題を抱えた会社に投資してしまうことを称してバリューの罠(value trap)と言います。バリューの罠は株式のクォリティ特性に注目することによって少なくとも部分的には回避できます。
【クォリティ投資】
バリュー投資が最も注目するのは株価ですが、一方でクォリティに注目する投資もあります。
「クォリティ投資とは」、簡単に言えば「良い」会社を買うことです。では、「良い」会社、つまり、クォリティの高い会社とは何でしょうか? 一つには、投資家が高い価格を払うのを厭わないであろう特性として、クォリティを定義できます。
通常の配当割引モデルを前提とすると高クォリティ特性(すなわち、より高いバリュエーションレシオを正当化する特性)は幾つかあり得ます。
-高い収益性(Profitability ≒ ROE)-高い成長率(Growth)
-高い安全性(Safety)
-高い配当性向(Payout)
市場効率性の信奉者はクォリティの高い企業が特定可能であることには、まず同意するでしょう。
しかし、市場が効率的であれば、そうした企業の株価は既に割高でその後の(リスクに対する)リターンは平均的なものになることが示唆されます。つまり効率市場仮説に立つと、高クォリティの会社への投資が低クォリティへの投資より優れているとは言えないと考えます。
対照的に、クォリティ投資家は、クォリティは完全には価格に織り込まれていないため、将来のリターンは平均以上であり、クォリティを見つけることは割りに合うと考えます。
【成長】-良い成長と成長の罠―
多くの投資家が次のアップル、グーグル、マイクロソフト等を見つけようと成長株を探し回っています。確かに初期投資の何百倍にもなっているという話はだれでも聞いたことがあると思います。
しかしながら、夢のような成長話ばかりで足下の収益性が全く無いような株式は投機的で過大評価されている可能性があるのも事実です。(コンセプト銘柄と言われるような銘柄の)成長企業が優れた投資対象となるのは、その成長が市場価格に十分に織り込まれていない場合のみでしょう。
もう一つ考えられる落とし穴は、会社の成長すべてが必ずしも価値を高めないことです。良い成長とは、フリー・キャッシュフローの成長につながる持続可能な利益の成長を指します。悪い成長とは、利益以外の数字の成長です。
例えば、資産の成長-企業規模を大きくする。高価な買収や軽卒な事業拡大等々によって-。もう一つは、製品価格を過剰に割安にすることで引き起こされる売り上げの成長があり、売上高利益率の悪化をもたらします。また、会計操作によって一時的に会計指標の改善が現れることもあります。持続不能ですし、実際には後で正しい数値に修正しなければなりません。
【収益性と利益のクォリティ】
収益性の高い会社は収益性が低い会社よりも明らかに価値が高いと言えます。収益性を測るには、公表される利益以外にキャッシュフロー関連指標や粗利益があり得ます。投資家は会社が真の経済的利益を持続可能な方法で獲得し続ける能力について判断します。また、会計実務の妥当性を意味する「利益のクォリティ」にも注目します。
実際、会社は事業活動を報告する様々な項目の中から都合の良い部分を選択することができます。ある項目をバランスシートから外す。費用を先送りする。あるいはアクルーアル(現金収入を伴う質の高い利益かどうかを見極める指標)を用いて収益を早期認識する等の手法で一時的に実態よりも利益を嵩上げすることは可能です。
【安全性】
次の指標は安全性です。他の条件が等しければ、投資家は安全な株式に対して低い収益率を適用するはずです。より高い価格を払うのを厭わないわけです。
株式のリターンに基づく標準的な指標は市場ベータやトータルボラティリティにも注目することがあります。
【配当性向と経営クォリティ】
クォリティ指標として、株主に対する会社の態度が挙げられます。友好的か否か。配当や自社株買いによって株主に利益が還元されているかどうか。経営者自らの報酬のために現金を生み出すことに熱心なものや、コスト高な買収に興じて王侯のように振舞いたい経営者もいます。
一般的な意味におけるマネジメント能力が高い経営者は高い評価を得ます。リーダーシップ、従業員の動機付け、様々な施策によって持続可能な企業価値の向上を成し得る経営陣かどうか?
良い経営が行われている会社を買おうとする投資家がいれば、劣悪な経営によって割安になっている会社を買って、それを改善することで利益を得ようとする投資家もいます。特に後者のような投資家は経営に直接影響を及ぼして株主価値を高めようとする試みは「アクティビスト投資」と呼ばれ、最近、日本企業を対象に活動する向きも増えているようです。
【二つの世界観】
以上、企業業績をどう使うのかによって投資家のタイプが割安株(バリュー)投資家と成長株(グロース)投資家に分かれるということを申し上げましたが、現実には両者を折衷した投資スタイルもあるものです。
下添の図1と2は典型的なディープバリュー投資家と成長株投資家の売買タイミングを示したものです。
株価が、例えば群集心理によって売り続けられ下落し本源的価値を下回ったとします。本源的価値は短期的な株価の変動には、余り左右されないので株価の下落はバリュー投資家に買いのチャンスを与えます。経営改善等が奏功して株価が上昇、本源的価値を上回ってきたところが、バリュー投資家のエグジット・ポイント(出口点)となります。[図表1]
一方、成長株(グロース)投資家は、今後急速に成長すると考える銘柄に投資していきます。株価も回復し、既に上昇している場合が多いものです。かつては割安銘柄とみなされていたものが、成長ポテンシャルありとして評価され得ます。バリュー投資家にとって、本源的価値は安定したものと思われていますが、成長株投資家には本源的価値そのものが株価よりも早く上昇したものと認識します。
どちらが正しいのか? -結論としてはどちらも正しいのでしょう。
[図表2]は成長株投資家の世界観を示したものです。今後急速に成長すると予想される会社は、過去において、既に成長の実績を示した会社が多いものです。バリュー投資家が価値の上昇した株式を売るかもしれないのに対して、成長株投資家は、そのような株式を買うかもしれない。本源的価値に対する見方は全く異なっています。
過去の例を見てみますと、高クォリティ株は低クォリティ株をアウトパフォームしてきました。バリュー投資とクォリティ投資の双方が機能するため、これらの概念を組み合わせればさらに優れたものにできると考えたのが、「適正価格の成長株」(Growth at a reasonable price, GARP)と総称される投資戦略です。
また、運用者の調査能力や企業のどういった部分に着目するのかといった問題とは別に、市場ポートフォリオ(米国におけるS&P500株価指数)をPBRの水準で二つのグループに分け、各々時価総額ウェイトでポートフォリオを組んで指数化したデータがあります。もう一つ、異なった動きをする銘柄群があり、小型株で、ラッセル2,000小型株指数で代表するのが通例です。
リーマンショック(Great Financial Crisis)から底打ちした株式市場全体の傾向としてはバリューよりもグロース優位の展開となっていたことがわかります。また、株価の上昇が特定の大型成長株式に集中してきたことも事実で、小型株指数は、当該期間ではS&P500に劣後しています。[図表3]
※本稿のデータは過去の実績や結果であり、将来の動向やファンドの運用実績を示唆あるいは保障するものではありません。
本庄 正人
キャピタル アセットマネジメント株式会社 運用本部 副本部長
日本証券アナリスト協会検定会員
東京大学法学部卒業。みずほ(旧安田)信託銀行にて外国資産運用部長として運用業務を統括。企業の分析、ポートフォリオの計量的リスク管理能力を強化するため、外資との提携戦略を行う。ニューヨーク、ロンドンのアナリストグループの企業リサーチ活動を指揮する。スイスPBであるロンバード・オディエ・ダリエ・ヘンチ社の東京CIOを経て、カレラアセット・マネジメントで代表取締役社長。キャピタル アセットマネジメント株式会社ではオーケストラ ファンド(オルタナファンドや米国株ファンド等に投資するFoFs)を担当。
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