〈年金月25万円・預貯金2,000万円〉70代夫婦の“慎ましい暮らし”が一転、老後破産の危機に…元凶は大企業勤務・43歳“自慢の息子”の5年ぶりの帰省【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月21日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
十分な退職金と年金収入で老後生活の見通しが立っている場合、「定年後は働かずにゆっくり過ごしたい」と考える人も多いのではないでしょうか? 70歳の杉田さん(仮名)も、定年後「年金暮らし」を選択したうちの1人です。しかし、慎ましい老後を過ごしていても、「想定外の出来事」で老後破綻危機に陥ってしまう可能性があると、CFPでFP事務所MIRAI代表の山﨑 裕佳子氏はいいます。夫婦が危機に陥った驚きの理由について、本記事で詳しくみていきましょう。
定年後、年金暮らしで幸せな老後を送る夫婦だったが…
成人年齢とは裏腹に、自立するスピードは遅くなっている?
成人年齢が18歳に引き下げられてから約2年が経過しました。しかし反対に、昔と比べて子どもが精神的自立や経済的自立を獲得してくれるまでの期間は長くなっているように感じます。
家族ですから、困ったときに助け合うのは当然ですが、自分たちの生活を脅かすほどの援助は再考したほうがよさそうです。
子育てはとっくに終わったはずの70代夫婦のもとに帰ってきた、「自慢の息子」。予想外の出来事を契機に、夫婦が「老後破綻」に怯える日々が始まることに……。
年金収入の範囲内で穏やかに暮らす杉田さん夫婦
杉田正さん(仮名・70歳)は、同い年の妻と千葉県内に暮らしています。正さんは専門学校を卒業後、自動車整備士として、定年まで真面目に勤めあげました。現在は年金暮らしです。
また2人には、ひとり息子の康介さん(仮名・43歳)がいます。夫婦の住まいは、康介さんが小学校へ上がるタイミングで購入した建売住宅です。住宅ローンは定年までに完済し、資産はコツコツ貯めた預金と退職金を合わせて2,000万円ほどあります。
総務省の家計調査報告(2023年)※1によると、65歳以上の夫婦のみ高齢者無職世帯の実収入(老齢年金+その他)の平均額は24万4,580円。対して、税金や社会保険料を含めた支出平均額は28万2,497円となっています。
ただし、上記のデータはあくまで平均値であり、実際の家計収支は人それぞれ異なります。
現在の杉田家の収入は、月25万円の年金収入のみです(夫:月19.5万円、妻:5.5万円)。夫婦は消費意欲がそれほど高くなく、お金のかかる趣味もないため、夫婦2人の生活費は年金の範囲内で賄えています。
幸い、夫婦ともに大きな病気をしたこともなく、持病もありません。2人はそれぞれ、ボランティア活動や地域のサークルなどに参加し、穏やかな老後生活を楽しんでいました。
しかし、そんな生活がある日を境に、大きく変化することになります。
愛息が5年ぶりに帰省。その理由とは?
杉田さん夫婦にとって、康介さんは自慢の息子です。幼いころから勉強もスポーツも得意で、高校卒業後は都内の有名私立大学に進学しました。「就職氷河期」といわれる時代に就職活動を余儀なくされたものの、康介さんは高い倍率を突破し、上場企業の事務機器メーカーに入社。正社員として雇用されました。
息子から内定の連絡を受けた夫婦は、2人とも大喜び。息子の成功を心から喜ぶ一方で、「これで肩の荷が下りた」と、長きにわたる子育てが終わり内心ほっとしたそうです。
月日が経ち、今年で43歳になった康介さん。ここ5年ほどは仕事が忙しいために、実家に帰ることもなくなっていましたが、数ヵ月に1度はLINEで連絡を取り合い、お互いの安否確認をしていました。
なかなか帰ってない息子に寂しい気持ちはあったものの、「便りのないのはよい知らせ」と、息子に対して特に不満や不安を感じることはありませんでした。
そんな息子から、お盆を過ぎたころ突然連絡が入りました。「もしもし? 今度の週末、久しぶりに帰るよ。ちょっと相談したいことがあってさ」。
康介が5年ぶりに帰ってくる! 愛する息子の久々の帰省に心を躍らせる一方で、なにかあったのかと2人は心配しながら帰りを待ちました。
数日後。疲れた顔で姿を現した息子は開口一番、次のように言いました。
「実は俺、ちょっと前に会社辞めたんだ」。
聞けば、他部署から異動してきた上司とそりが合わず、2年ほど前から人間関係に悩んでいたようです。「しばらく頑張ってみたんだけど、思い切って辞めることにした」と康介さんはいいます。
また、「俺くらいのキャリアとスキルがあるなら、もっといい条件で好待遇の職場に移れるんじゃないかと思うんだよね」と、いまの職場から離れ転職を考えているそうです。
実際、厚生労働省の「雇用動向調査」※2によると、転職した人のうち賃金が前職より上がった人の比率は、若い世代ほど高いことがわかっています(図表)。
康介さんの年齢である40歳~44歳の区分をみると、転職後に前職より賃金が増加した人が43.9%、減少した人が26.1%と、賃金が増えた人のほうが多いことがわかります。
ただし、転職後に賃金が上がるのは40代まで。50代以上になると、逆に、転職後の賃金が減少する人の割合が増えています。こう考えると、康介さんはいいタイミングで転職を決意したといえます。
相談というよりは事後報告でしたが、いい大人である息子がそこまで言うならと、夫婦は納得。正さんは、「そうか、わかった。仕事が決まるまで、しばらくこっちでゆっくりしたらいい」と言いました。
数十年ぶりに、親子3人での生活です。共同生活もあまり長くないだろうと思っていたため、特に生活費について話し合うことはなく、夫婦が負担することにしました。
"すまん、金貸して”…自慢の息子が懇願した、驚きの理由
康介さんには、住宅ローンとマイカーローンで毎月22万円の支払いがあります。大企業に就職したことから給料に不満はなく、また独身の康介さんは、収入の使い道もすべて自分次第です。そのため、これまでローンの返済に困ることはありませんでした。
一方で、一人暮らしを謳歌する康介さんには「お金を貯める」という意識があまりなく、収入はほぼすべて使い切る日々を送ってきました。
そんな折、8月初旬の「日経平均の大幅下落」が、康介さんの資産を直撃しました。
今年に入って「新NISA」がスタートしたことをきっかけに、康介さんは株式投資を始めました。預金500万円の8割にあたる400万円を、いくつかの個別株投資へ振り分けたそうです。
年初から日経平均株価の続騰により、順調に含み益を増やしていた康介さんでしたが、ここに来てあの大暴落です。もともと、投資機運に乗り遅れまいと十分な勉強をせずにスタートしていたこともあり、いわゆる"狼狽売り”で株を手放してしまいました。その結果、投資資産は25%ほど目減りし、400万円が300万円に。仕事を辞めてから無収入だった康介さんは、「このままではローンがまずい」と、帰省を決断したようです。
3人での暮らしが始まってしばらく経ち、ある日の夕食後に、康介さんはその重い口を開きました。「すまん。申し訳ないんだけど、お金貸してくれない?」。
「なにがあったのかわからないけど、いくら必要なの?」と母が尋ねると、「500万円」だといいます。「いまのままだと、ローンの返済がかなり厳しくなりそうでさ……。次の就職先が決まったら、必ず返すから」。
息子から見ると、両親は余裕のある生活をしているように見えたのかもしれません。しかし、杉田さん夫婦は25万円の年金収入で慎ましく生活している夫婦ですので、康介さんが思うほどゆとりはありません。
息子が帰ってきてから、食費や光熱費、日用品代など、生活費は当然増えています。年金だけでは足りないため、預金から取り崩している状況です。2人は悩みましたが、愛する一人息子が恥を忍んで頼み込んでいるのですから、断ることはできません。老後資金を使い込むことに不安がないとは言い切れませんが、夫婦は息子の言うとおり、預金から500万円を融通することにしました。
静かな老後が一転、「老後破綻」に怯える暮らしに
このまま息子との同居が続いた場合、毎月4万円~5万円は赤字になりそうです。仮に5万円ずつ預金を取り崩した場合、1年で60万円ずつ資産が目減りすることになります。
また、生命保険文化センターの調査※3によると、日本人の健康寿命は男性で72.68歳、女性は75.38歳となっています。現在は夫婦ともに健康ですが、年齢から考えると、この先遠くないうちに介護が必要となる
同調査によると、要介護となった場合、介護費用の月額平均は在宅介護で4.8万円、施設介護で12.2万円ですから※4、大事な老後資金を食いつぶすいまの状況は、不安になるのも無理はありません。
穏やかな生活から一転、息子の帰省により、老後破綻に怯える毎日となってしまいました。
最優先すべきは、息子の頼みよりも「自分たちの生活」
一人息子可愛さに助けてあげたい親心はわかりますが、杉田さん夫婦が最優先で考えるべきは、自分たちの資産を守ることです。
息子さんの退職と、投資の失敗はあくまで自己責任です。康介さんはすぐに次の仕事を見つける必要があります。住宅ローンやマイカーローンの支払いに窮するのであれば思い切って売却を考えるなど、次の手を講ずる必要がありそうです。
同居が長くなるようであれば、生活費を一部負担してもらうことも考えてもらいましょう。夫婦の資産防衛のために必要なことです。
また、お金を貸す場合は親子間でも「借用書」を作成することをおすすめします。年間110万円を超える資金の移動は、贈与税の対象となるためです。
お互いが自立した状態にあることを前提に、可能な範囲でサポートし合えることが理想です。
<参考・出典> ※1 総務省統計局「家計調査報告 〔 家計収支編 〕 2023年(令和5年)平均結果の概要 」P18 (https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2023.pdf)
※2 厚生労働省「令和5年上半期雇用動向調査結果の概要 3 転職入職者の賃金変動状況(表6-1)」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-1/dl/kekka_gaiyo-03.pdf )
※3 公益財団法人生命保険文化センター「健康寿命とはどのようなもの? 」 (https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1160.html)
※4 公益財団法人 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」 (https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1116.html)
山﨑 裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
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