ビジネスモデルはそのままに「利益1億円超え」を実現…会社が「ビジョン」を策定することの重要性【経営コンサルタントが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月29日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
会社は社員が頑張るだけでは儲かりません。どんな目標のために・なにをすればよいか「会社のビジョン」を決定し、その計画の一環として現在の経営・業務を行うことが重要です。今回は経営コンサルタントの石原尚幸氏が具体的な相談例と共に、親族経営をしている経営者に向けて「会社にビジョンが必要な理由」を解説します。
「ビジョンって作ったほうがよいですか?」
「ビジョンって作ったほうがよいですか?」
親族経営をしている経営者からよく聞かれる相談です。あなたの会社にはビジョンがありますか? 結論、私の顧問先ではビジョンを定めています。私のコミュニティや勉強会に参加する人たちにもビジョンを作りましょうとお伝えしています。それはビジョンが会社を存続させ、成長させるためには必要だと考えているからです。
そこで今回は、そもそもビジョンとはなにか? なんのために必要なのか? ビジョンがあるとどんなよいことがあるのかをお伝えします。ビジョンを作りたいとは思っていたけれど、どうもよくわからない。一度作ったけれど机の引き出しにしまったまま……という方は、ぜひご一読ください。
ビジョンがないことで「低迷スパイラル」に陥っていたA社
創業50年を迎え、地元では名の通ったA社。2代目K社長から「自分も社員もがんばっているのに儲からない。どうしたら会社がよくなるか一緒に考えてほしい」との依頼を受けました。
内情を見てみると、社員さんは真面目で皆さん頑張っています。でも、利益は残らない……その原因を探ると1つの要因が見えてきました。
厳しい経営環境のなかですから、とにかく生きていかねばなりません。「目先の目標を達成するぞ!」と本社からは号令が出ます。特に策がないため、現場ではお願い営業と価格競争に巻き込まれ、叱咤激励をしながら気合いで乗り切ろうとします。
その結果、組織は疲弊し、人が定着しません。習熟度が上がらないため生産性は低く、利益も残せない。利益が出ないから目先の目標に追われる……このように、頑張っても頑張っても利益が出ない「低迷スパイラル」に陥っていました[図表1]。そして、この低迷スパイラルを断ち切らないことには、業績は回復しないことがわかってきました。
ビジョンを再構築し「ビジョン実現サイクル」へ転換
このスパイラルを断ち切るべく、スパイラルのスタート地点に戻って経営を見直すことにしました。
スパイラルのスタート地点は「目先の目標」を立てている点です。人は目先の目標だけでは頑張り切ることはできません。アイデアを出せと言っても、出てくるのは過去に行った策の上書き程度でしょう。斬新なアイデアは期待できません。
その逆に、人はわくわくする未来があることがわかれば、頑張ろうとする気持ちがわいてきます。イメージしてみてください。3ヵ月後に海外旅行に行くことが決まったとしたらワクワクしますよね? 観光地に行ったら何をして遊ぼうか? どんな交通手段があるか? などなど考えますよね。経営も同じです。
わくわくした未来を設定することで、そこに集うメンバーもやる気となり、そのわくわくした未来を実現するために何をしたらよいか自発的に考え始めます。そこで、社長と合宿を行い、目先の目標ではなく、中長期(3年後~10年後)の目標を定めることにします。この中長期の目標を「ビジョン」と呼びます[図表2]。
社長との議論した結果、10年後に業界ナンバー1の利益を上げる、社員の給与を倍にする、保養所を作る、海外社員旅行を実現するなど、わくわくする未来を定めることができました。
このビジョンを実現するために、戦略(誰に、何を、どこで売るか)を定め、お願い営業と価格競争と決別することを決意します。気合系のマネジメントは排除し、計画→実行→検証を科学的に繰り返すPDCAサイクルを定着させました。次第に定着率は改善していきます。
ビジョン実現のために計画的に育成プログラムを作ります。ビジョンを表明していくことで、一緒にビジョンを実現したいという社員も採用できるようになりました。このサイクルを継続することで3年。
頑張っても頑張っても利益が残らなかった会社が、ビジネスモデルは変えることなく利益が1億円を超えるまでに成長しました。私はこれを「ビジョン実現サイクル」と名付けました。
低迷スパイラルをビジョン実現サイクルへ転換できる、これがビジョン構築の最大のメリットです。
ビジョンとは改めてなにか?
改めてビジョンを定義すると、「ありたい姿を言語化し数値化したもの」と言語化できます。
ビジョンを定めましょうとの提言をすると、「ビジョンで飯が食えるのか?」という疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。この意図は、「なにが起こるかわかりもしない未来の話をしたところで、いったいそれで売上や利益がのびるのか?」でしょう。よくわかります。
ですが、先の事例のように低迷スパライルをビジョン実現サイクルへ転換するためにはビジョンの再構築は必須です。さらに具体的には次の2つの観点から、ビジョンには定める意義があります。
ビジョンを定める2つの意義とは?
まず1つ目の意義は「わからない未来を見える化できる」点です。
未来のこと、それがたとえ明日のことであっても人は予知することはできません。ましてや10年後の未来などわかるはずもないです。では、それにもかかわらず、なぜ10年後の姿を描くのか。
それは山登りに例えればわかりやすいでしょう。山に登る際に、そもそもどの山に登るのかも決めずに登れますか? 無理ですよね。そして、登る山が定まったとしても、その山までの距離と高さがわからなければ、どれだけの準備をしていけばよいかすらわかりません。
つまり、登りたい山までの距離と高さがビジョンとなります。登りたい山がわからなければ登りたくても登れないのと同じように、ビジョンがなければ組織は方向性を見失い、ビジョンを実現したくても実現できません。
ビジョンを作るもう1つの意義は、「課題が見える化できる」点です。
逆説的ですが、未来のビジョンを定めることで、今やるべきことが明らかになります。ビジョンを立てる際には、理想的な状態を先に想像します。理想的な状態とは「心からそうなりたい」と思う姿です。
売上・利益はいくらで、そのためにどんなモノやサービスを売り、どんな組織を作り、どんな人を仲間にし、その結果、世の中や社員、顧客にとってどのような存在となっていくかを数字と言葉で表現していきます。
これは、「イメージストリーミング」という脳科学のノウハウを採用しています。人は現状の延長線上の目標を立てるだけでは、脳が新しい挑戦をしようとせず、結果的に目標達成が難しくなると言われています。
これを克服するためには、現状の延長ではない「ぶっ飛んだ」目標(例えば売上を倍にする、シェア1位になる等)を立てることが脳科学的には有効とされています。そうすることで、脳は新しい行動を促し、目標達成に向けて積極的に動き出すようになるとされているからです。
こうしてビジョンを定めれば、必然的に現状とのギャップが生まれます。例えば現在の売上が100で、ビジョンを200としたとします。そうすれば▲100がギャップとなります。このギャップが生まれると、人の頭は「このギャップをどうしたら埋まるだろう?」と考え始めます。こうなればしめたものです。
▲100のギャップを埋めるためには、新しい客層を開拓しよう、新しい商品を増やそう、セールス力をもう一段アップしようなど、今やるべき課題がたくさん浮かんできます。これが「課題の見える化」です。
現状だけを見て、どうしようどうしようと言っている間は、課題は見えてきません。課題を見つけたければ、ビジョンを定め、現状とのギャップを掴むことが早道です。
実際にビジョンを作るときに気をつけること
ビジョンを作成する意義がわかったところで、実際のビジョンのワークをしてみましょう。まず10年後の自社をイメージしてみます。10年後の売上、利益、扱う商品、ターゲットとする顧客、活動エリア、組織、人員数や集う人のスキルやノウハウやマインド、財務体質を思うままに書いてみます。
このときに大切なのは、できるorできないで考えないことです。できるorできないで考えると、しょぼいアイデアしか出てきません。先述のように「イメージストリーミング」を活用し、先にぶっとんだ目標を立てましょう。
できるorできないはあまり意味がありません。なぜなら、いまのあなたにはできないことだとしても、世のなかを探せばきっとそれをやっている人はいます。つまり、いまのあなたがやり方を知らないだけで、やり方は存在しているからです。
ビジョンを描くときは、やりたいorやりたくないです。やりたいことを目一杯書いてみましょう。ここから、逆算して5年後、3年後、1年後の目標を立てていきます。脳は漠然としたオーダーより具体的なオーダーを実現しようとするため、売上や利益、社員数など、数値化できるビジョンは数値化することがポイントです。
また、ビジョンを策定する際には、会社側(経営者側)の視点だけではなく、社員にとっての理想の会社像や、地域社会における貢献視点からのビジョンを考えるとビジョンがみんなのものとなり、ビジョンが社内に浸透しやすくなっていきます。
さらに、経営者の場合、プライベートのビジョンも重要です。公私混同といって経営とプライベートを混同することが悪とされている現在ですが、経営者にとって公私は混同どころか一体です。全財産を投げうち、銀行借入の連帯保証まで捺印し、24時間会社のことを考えているのが経営者。プライベートがうまくいかなければ会社も上手くいきません。
プライベートの目標がないと、ある日突然「どうして俺はがんばっているんだろう?」とウルフルズの流行歌のように途方に暮れてしまいます。プライベートも遠慮せずビジョンを描くことで、会社を発展させる動機付けになっていきます。
このようにしてビジョンを立て、それに向けて逆算して目標を設定することで、目指すべき姿、そこまでの距離、高さ、さらにはビジョンを実現するための課題が明らかになります。ここまで明らかになれば、あとは行動あるのみです。
親族経営の場合、決まった社員が決まった商品を決まった顧客が売るため、どうしても日々を成り行きで過ごしてしまいがちです。会社を一定年数存続させるだけであればこれで問題はないでしょう。
ですが、もしあなたがいまの会社をもっとより良くしたい、5年、10年ではなく20年、30年、50年と続いていく会社にしたい思うのであれば、ビジョンの策定は必須です。上記を参考にぜひビジョン策定に取り組んでみてください。
石原 尚幸
株式会社プレジデンツビジョン 代表取締役
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