政権交代で増税必至!英国の超富裕層が国外脱出を計画中?ビートルズの名曲「タックスマン」にある所得税率95%もあり得るのか
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月23日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
英国では長らく政権を担ってきた保守党から労働党に政権が交代しました。これによってメディアでは英国内では超富裕層に対して大増税を実施するのではないかと報じています。状況によっては、超富裕層による出国ラッシュが訪れることも否定できません。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。
政権交代で超富裕層の出国ラッシュに?
英国では2024年7月に政権交代があり、労働党のキア・スターマー氏が首相に就任しました。保守党による政権が長らく続きましたが、労働党政権に移行したのです。
英国BBCの報道によると、レイチェル・リーヴス財務相主導のもと、2024年秋に税制改革が行われ、所得税等の増税を行った場合、超富裕層が英国から出国するのではないかと懸念されています。
フランスも超富裕層が隣国に出国
フランスのフランソワ・オランド前大統領は、2013年からは2年間の時限措置で年収100万ユーロを超える個人に対して所得税率を40%から75%に引き上げる案を示しました。この税は2015年に廃止されましたが、オランド前大統領はこの税の導入を大統領選挙の公約に掲げ、サルコジ大統領を破って当選しました。
この税制改正の結果、フランスの富裕層の100人以上が、フランスの隣国であるベルギーに移住しました。
これと同じような現象が英国で起ころうとしているというのが上記BBCの報道です。
英国は法人税率を段階的に引き下げ、2021年には19%としましたが、2023年から25%に引き上げています。その背景には、新型コロナウイルスにより財政支出の増加等があったものと思われます。
所得税率95%を皮肉ったビートルズの名曲「タックスマン」
1966年に発売されたビートルズの7番目のアルバムに収録されている「タックスマン」という楽曲があります。これは、当時の労働党のウィルソン内閣が所得税の最高税率を95%に引き上げたことを皮肉った内容となっています。前述したBBCの報道内容が約60年前のビートルズの楽曲を思い出させます。
英国における増税案では、保守党政権時代のリシ・スナク内閣のジェレミー・ハント財務相が2022年11月に増税と支出削減の方針を発表しています。この時の英国の所得税の最高税率は45%でした。
余談ですが当連載の共同執筆者である大阪学院大学の八ッ尾順一教授は、このビートルズの曲を聴いて、日本に税金の歌がないことに気が付いて、現在、11枚の「税金ソング」(作詩と歌唱)のCDを作成しています。「タックスマン」がきっかけになったのです。
ロンドンは、世界の富裕層が多く住む都市の一つにあげられています。英国が所得税率を引き上げた場合、多額の納税をしている超富裕層の国外脱出を促す効果がありそうです。結果として、財政を悪化させるのではないかという意見が出されています。
英国では超富裕層の出国に際して「出国税」を課す案もあるようです。フランスも2024年10月に法人税率の引き上げと年収50万ユーロ(約8,000万円)以上の世帯に所得税を増税することを決めました。
また日本は2023年度税制改正において、「ミニマム税」を創設しました。2025年4月以降の実施予定です。
ミニマム税の対象者は年間の合計所得金額が約30億円を超える納税者です。合計所得金額から特別控除額である3.3億円を引いた金額に、税率22.5%を掛けます。その金額が通常の所得税額を超えた場合、その差額分を申告納税しなければなりません。
デジタル課税の次に押し寄せる波
法人課税の分野では、OECDが中心となって活動を行ってきた大手IT企業に対する「デジタル課税」が2024年のリオデジャネイロ宣言において、国際間の課税ルールとすることが決まりました。
もう1つの課題が超富裕層への課税です。冒頭から英国の事情を説明してきましたが、フランス、あるいは日本と、富裕層への増税攻勢は続いています。今後は、個人の納税地となる「住所」をどこに定めるのか、また財産の所在地をどこにするのか等が、超富裕層にとって喫緊の課題となるものと思われます。
さらに超富裕層の場合は、相続税の課税も視野に入れる必要があります。インドの財閥タタ・グループの元会長である実業家ラタン・タタ氏が2024年10月に死去しました。インドは、中国と並んで経済成長が著しい国ですが、相続税がありません。超富裕層は、所得税と相続税を「両にらみ」で、タックスプランニングをする必要に迫られます。
矢内一好
国際課税研究所首席研究員
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