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罰金「10万円」だけじゃない…相続登記を放置したアパートオーナーが直面するリスク【司法書士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月2日 14時15分

罰金「10万円」だけじゃない…相続登記を放置したアパートオーナーが直面するリスク【司法書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

2024年4月から不動産の相続登記が義務化されました。相続登記をするべき理由は、「義務化されたから」「ペナルティができたから」だけではありません。放置することで直面するリスクやデメリットは、義務化される前から存在しています。本記事では、事例とともに、相続登記を放置することによるリスクについて司法書士の近藤崇氏が解説します。

増える「所有者不明土地」…不動産の相続登記義務化へ

不動産の相続登記が、2024年4月1日から義務化されました。

相続によって不動産を取得した人は、これを知った日(または遺産分割が成立した日)から、3年以内に相続登記をしなければなりません。今後は、これらの相続登記について、正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の対象となる可能性があります。

こうした相続登記や住所変更登記を怠っていた場合、いざ売却などする際に登記の記録が一致しないという不都合がありましたが、これまではこうしたペナルティがありませんでした。

都市部などの価値の高い土地の場合は、費用や時間を掛けても登記をするメリットは大きいはずですが、司法書士である筆者は都市部でも、長年亡くなった方名義のままとなっている土地や建物を多く見て来ました。

さらに、比較的価値の低い郊外や山間部の不動産の場合、費用や手間をかけてまで登記の申請をしたくないという人は、都市部より多く存在するでしょう。

実際こうした登記の名義人と実際の所有者が一致しない「所有者不明土地」が全国で問題となっており、空き家問題の原因のひとつとなっているといわれています。このような土地が日本各地で増加しており、その面積を合わせると、九州の面積よりも広いといわれています。

今後、所有者不明土地は、さらに増えていくと予想されていることが、今回の不動産の相続登記の義務化に繋がっています。

登記を放置したアパートオーナーの遺族、10年後の大混乱

司法書士である筆者は、相続登記が放置されたがゆえに複雑になった相続事案を経験してきました。特に子供のいないご夫婦の相続の場合、複雑化の度合いがより顕著です。

首都圏に一戸建ての自宅と、同敷地内に2階建て木造アパートを所有していたご夫婦がいました。ご夫婦には子供がおらず、夫が平成26年に死亡、妻は令和5年に死亡しました。本来ならば夫の死亡時に、所有する不動産は夫から妻に所有権移転登記をするべきです。

しかし、妻の死亡時になってもすべての不動産は、以前に亡くなった夫名義のままでした。以下に相続関係図をまとめます。

夫の死亡時、遺言がない場合、夫の遺産分割協議に参加するのは図表A~Dまでの夫の兄弟全員と妻です。妻の親族によると、A~Dの夫の兄弟姉妹も、妻が夫の財産を相続するのに異論はなかったとのことです。

しかし妻が令和5年に死亡するまで、自宅の土地建物についても、アパートの土地建物についても、その登記名義人は夫名義のままでした。

不動産は毎年の固定資産税さえ納付していれば、市区町村も相続登記をするように指導などは行いません。また、銀行のローンなどもすでに返済を終えていたため、余計に相続登記の懈怠を指摘する方もいなかったのでしょう。

さらにアパートも管理会社なども通さず、直接夫婦が入居者から家賃を受領していたため、余計に問題は表面化しなかったのかもしれません。

夫の相続税の申告をされたかは不明でしたが、妻が相続をする場合、相続税の申告義務はあったとしても1億6,000万まで相続税は課税されませんので、これも登記するように指摘をされる機会が失われた理由かもしれません。

妻の死後、自宅やアパートを売却することになり…

さて問題が顕在化したのは妻の死亡後です。妻の死亡後、相続税納税などもあることから、妻の相続人である兄弟姉妹や甥姪たち(図表②~④)はこれら自宅やアパートを売却することにしました。しかし登記名義は亡き夫のままです。ここで慌てて司法書士のもとへ相談に訪れました。

夫の死後、夫の残りの兄弟の4名(A~D)のうち、AとDの2名が相次いで亡くなっていました。相続は、その後何年経過しようが、その人の「死亡日」時点まで遡って考えます。このため仮にBとDが死亡していても、それぞれの子に相続の権利が引き継がれるだけです。外形的には一見Bさんの財産だったと思われる土地建物を売却しようにも、そもそもの不動産登記の名義が変わっていませんので、もう一度、夫の死亡時の相続から始めなければなりません。

夫の死亡時、法定相続分としては当時存命だったA~Dの兄弟姉妹「全員」で4分の1。妻が4分の3の相続分です。しかしすでにAとDは死亡しているため、各々の子ら全員にまた遺産分割協議書に実印を貰わなければ亡き妻名義に登記することすらできません。また、運の悪いことにBが重度の認知症を発症しており、成年後見人として別の司法書士が選任されていました。

Bの成年後見人である司法書士としては、わずかな相続分(4分の1に兄弟の頭数の4分の1を掛けた16分の1)であっても、これを放棄することが立場上できません(成年後見人を監督する家庭裁判所の許可が得られないためです)。このためB(とその成年後見人)は、少なくとも法定相続分については、否が応でも立場上、相続をせざるを得ない状況になります。

「Bが相続するならば」と存命のC、および亡きAやDの子ら全員も、「どうせならわずかでも相続分が欲しい」となるのが人情です。

こうして1億程の不動産を売却するために、亡き夫の相続人8名、そして妻の相続人4名の合計12名で、2回にわたる遺産分割協議を行うことになってしまいました。登記や遺産分割の詳細は割愛しますが、その手間やコストなどは、一般に法律や相続登記になじみのない方でも、想像が容易いのではないでしょうか。

将来の2次・3次相続のリスクを増やさないために

もし仮に夫の死亡時に、妻とそのとき存命の兄弟A~Dとのあいだで遺産分割や相続登記を怠らずに進めていたらどうだったでしょうか。仮定の話になってしまいますが、もし妻の親族の言うとおり、本当に当時はA~Dともに心よく妻が夫の財産を相続することに協力してくれたのだとしたら、そしてきちんと相続登記をしていれば、今回の相続ではここまでの手間がかかることはなかったと思われます。

相続登記をしないということは、その時間的な損失・経済的な損失をただ先延ばしにしているだけではなく、将来に発生するであろう2次・3次の相続のリスクを増やしているともいえます。人は誰しも間違いなく死を迎えますので、これらのリスクが発生する可能性はありますが、減ることはありません。ただでさえ面倒な多人数の相続に加えて、これが2回3回と積み重なることで、その手間もコストも雪だるま式に増えてしまいます。

今般、不動産の相続登記義務化される背景には、こうした複数回の相続発生による複雑化を未然に避けようという狙いもあります。過料などのペナルティを避けることはもちろんですが、問題の先延ばしをせず、自らの大切な財産である不動産を承継していくためにも、不動産登記については速やかに準備を進めたほうがいいことはいうまでもでもありません。

また、こうした対応を速やかにしたほうが、結果的に全般的な手間やコストも低く抑えられるのではないでしょうか。相続が発生したら、まずは士業や金融機関等、お近くの専門家などに相談されることを強くおすすめします。

近藤崇

司法書士法人近藤事務所 司法書士

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