俺たち関係ないだろ?…年金月33万円・72歳おしどり夫婦を戦慄させた一通の督促状。元凶は、36歳“出戻り息子”宛てに年金機構から届いた「赤い封筒」【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月25日 16時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
20歳以上60歳未満のすべての国民には、「国民年金保険料」の納付が義務づけられています。会社員の場合、給与から天引きされるため気にならない人も多いかもしれませんが、自営業の人などは納付のお知らせが届きます。なかには、安易な気持ちで未納にする人もいるようですが、滞納を続けていると本人だけでなく、家族を巻き込んで大変な事態に陥りかねないと、牧野FP事務所の牧野寿和CFPはいいます。70代夫婦と30代息子の事例をもとに、国民年金の仕組みと注意点についてみていきましょう。
都内に就職したひとり息子が、33歳で「出戻り」したワケ
72歳のAさんと同じ年の妻・Bさんは、ある地方都市の戸建て住宅に住んでいます。すでに住宅ローンの支払いは済んでおり、現在は夫婦合わせて月33万円の年金を受給しながら、穏やかな老後を過ごしています。
Aさんは、60歳の定年まで地元にある企業に勤めたあと、2年間同じ会社で嘱託社員として勤務。10年前、62歳で完全リタイアしました。定年後は、妻と散歩をしたり、買い物に出かけたりと、近所でも評判の「おしどり夫婦」です。
2人には、36歳になるひとり息子のCさんがいます。
Cさんは、高等専門学校に進学したのち、20歳で都内にある大手電気工事会社に就職。そこで10年ほど勤務したあと、33歳で独立を決意し、実家に戻りました。現在は、個人で電気工事事務所を営んでいます。
開業するにあたって、Cさんは市役所や税務署で所定の手続きを済ませました。それまでは会社員でしたから、手続きのなかには、国民年金や国民健康保険への加入も含まれています。国民健康保険料は世帯ごとの納付であるため、自分の分はAさんに渡すことにしました。
その後、事業は順調に推移。3年が経ち、今年の事業所得は400万円近くになりそうです。
また、Cさんは本業の傍ら、投資も行うようになりました。Aさんが現役時代から株式投資を行っていたため、それを見習って始めたのだそうです。父親のアドバイスのかいもあり、こちらも成果は上々でした。
突然届いた「督促状」。その中に書いてあった「驚愕の内容」
そんなある日、Aさん宅に一通の督促状が届きました。見ると、差出人は「日本年金機構」となっており、「大切なお知らせです。必ず開封してください」と書いてあります。
「なんだこれは……」驚いたAさんは、Bさんに声をかけ、早速2人で中身を確認してみることにしました。
読んでみるとどうやら、息子のCさんに「国民年金保険料」の未納があるようです。「指定した期日までに未納分を納付しなければ、①財産の差押え ②未納分に延滞金が課せられる」と書いてあります。
さらに、差し押さえの対象はCさん(被保険者)だけでなく、Aさん(連帯納付義務者=配偶者や世帯主)にもあてはまるというのです。
「冗談じゃない。いったいなにがあったんだ」Aさんは、すぐにCさんに電話をかけましたが、打ち合わせ中なのか何度かけても繋がりません。
(そうこうしているあいだに、自分の財産が差し押さえられるかもしれない。そもそも、なぜ成人した子どもの保険料を関係ない親が払うことになるんだ? もしも今後自分が息子の国民年金保険料まで払うことになったら、家計にどのくらい影響があるんだ?)……心配事が次から次へと頭を駆け巡ったAさんは、以前、相続の相談をしたことがある筆者のFP事務所に連絡したのでした。
「国民年金保険料」の仕組み
電話をかけると、Aさんの動揺を感じ取り「早く解決したほうがいい」と判断したFPは、すぐに対面での面談を組んでくれました。
Aさんは困惑した表情で、次のように言います。
「私はずっと会社勤めだったもんですから、年金のことは明るくなくて……。なぜこんな封筒が届いたのかもよくわかりませんし、会社員なら本人の給与から天引きされて、妻の保険料負担もありませんでした。なぜ国民年金では、本人になにかあったときに親が肩代わりしなくちゃならんのか、納得できません」。そこで筆者はまず、Cさんが加入している国民年金について説明することにしました。
まず、会社員であっても自営業であっても、20歳以上60歳未満のすべての国民は、国民年金の加入が義務づけられています。職業や状況によって、次の3タイプいずれかに分類されます。
■第1号被保険者……第2、3号被保険者でない自営業者や農業者、学生、無職などの者。原則65歳からは、老齢基礎年金を受給する。
■第2号被保険者……70歳未満の会社員や公務員など、厚生年金に加入している者。厚生年金保険料を、給与から天引きされる形で納付する。厚生年金加入者は同時に国民年金の加入者にもなっているため、65歳から受給する老齢厚生年金には、老齢基礎年金も含まれる。
■第3号被保険者……第2号被保険者に扶養される、20歳以上60歳未満の配偶者。第3号被保険者でいるあいだは、国民年金保険料を納付する必要がなく、「保険料納付済期間」として65歳以降受給する老齢基礎年金の年金額に反映される。
Aさんは会社員だったため「第2号被保険者」、配偶者であるBさんは「第3号被保険者」です。Cさんは独立して自営業となったため、上記のうち「第1号被保険者」にあてはまります。第1号被保険者が納める国民年金保険料は、本人(Cさん)または保険料連帯納付義務者の世帯主(Aさん)・配偶者が納めることになっています。なお、AさんがCさんの保険料を納付した場合、確定申告で所得控除を受けることが可能です。
ここまで説明したところで、CさんからAさんのもとに「家に帰った」と連絡があったため、この日はいったん帰宅されました。
「財産の差し押さえ」までには、いくつかの段階がある
家に帰ると、青ざめた表情のCさんが待っていました。「本当にごめん、実は……」。Cさんは重い口を開き、Aさんに事の顛末を話し始めました。Aさんにはいきなり「督促状」が届いたように思われましたが、すでにCさんのもとには、日本年金機構からの書面が何度も送られていたようです。
1.紫色の「国民年金保険料のお知らせ」
Cさんに最初に届いたのは、「国民年金保険料のお知らせ」と記された圧着ハガキでした。このハガキは、開封すると「国民年金未納保険料納付勧奨通知書(催告状)」と記載されており、これまでの国民年金保険料の未納月数と未納額が印字されています。
しかし、このハガキを受け取ったCさんは(国民年金って、ちゃんと納めても老後少ししかもらえない※って聞いたことがある。どうせこれだけじゃ暮らせないし、本業も株式投資も順調だし、別に納めなくてもいいだろ)と思い、放置したそうです。 ※ 令和6年度の国民年金保険料は月1万6,980円。20歳から60歳まで毎月保険料を納めた場合、老齢基礎年金の受給額は満額で月6万8,000円。
その後もたびたび、Cさんのもとには同じ色の催告状が届きました。未納額は30万円弱と、Cさんほどの稼ぎがあれば納付できない金額ではありません。しかし、「納付するか」と考えたときに限って手元に納付書が見つからず、また自身の事業の忙しさもあり、時間だけが過ぎていきました。
2.青→黄→赤(ピンク)の「特別催告状」
すると今度届いたのは、未納の国民年金保険料を納付する指定日まで記された「特別催告状」。封筒の色は1度目は青でしたが、次に黄色、そして赤(ピンク)に変わりました。この赤(ピンク)色の特別催告状を「最終催告状」といいます。
3.赤色の「督促状」
Cさんはしかし、最終催告状が届いてもなお、未納の保険料を納付しませんでした。そしてついに、「督促状」がCさんだけでなく、世帯主のAさんのもとにも届いたというわけです。
Aさんに連れられ、Cさんは年金事務所へ
こうして、A夫妻に事の顛末をすべて話したCさんは、2人に急かされるように年金事務所へ。未納分を納めるとともに、保険料を口座振替で納付する手続きを行いました。
厚生労働省「日本年金機構の令和5年度業務実績の評価」によると、強制徴収は「控除後所得300万円以上かつ7月以上保険料を滞納している方」を対象に確実に実施されており、差押実施件数は3.1万件となっています。
督促状が届いてもなお未納を続け放置していると、「差押予告通知書」が届きます。今回はこれが届く前に支払いを済ませたため、すんでのところでA家は財産の差し押さえを免れたということになります。
A夫妻の資産には問題なし
数日後、AさんはCさんを連れて再び筆者のFP事務所を訪れ、上記の内容を筆者に伝えたうえで、A家の家計を試算してほしいと頼まれました。
もともとA夫妻は、年金受給額が月33万円で支出は月25万円前後と、収入の範囲内に収まっていました。今回の未納分や延滞料はCさんが自分の資産から支払ったため、Aさんの資産には影響がありません。
したがって、今後海外旅行や自宅の修繕、介護などまとまった支出があっても、今後10年間で500万円ほどの貯蓄は確保できる見込みです。A夫妻は今後も、問題なく悠々自適な老後を送ることができるでしょう。
侮るなかれ…国民年金は「生涯保障」
国民年金保険料は、納めた期間が10年(120月)以上あれば、原則65歳以降に「老齢基礎年金」を受給することができます。
20歳から60歳までの40年間(480月)納付した場合、満額の81万6,000円(月額6万8,000円)受給できます※。しかし、1年間未納すると、受給額は年額約2万円減ってしまいます。 ※令和6年度
また国民年金は、老齢年金のほかに、被保険者が障がいを負った場合に受給できる「障害基礎年金」や、被保険者が亡くなった際、生計を維持されていた高校3年生までの「子のある配偶者」または「子」がを受給できる「遺族基礎年金」があります。しかし、保険料を未納していると受給できなくなることもあるため、注意が必要です。
なんらかの理由で保険料が納付できない場合には、Cさんのようにむやみに放置せず、市区町村の担当窓口や年金事務所に相談し、善後策を検討することをおすすめします。
具体的には、「保険料免除制度」や「納付猶予制度」といったものが挙げられます。詳しい内容は次のとおりです。
1.保険料免除制度
失業などのさまざまな理由で「本人・世帯主・配偶者」の前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下の場合、つまり保険料を納めることが経済的に困難な場合は、「保険料免除制度」を利用することで規定額の納付が免除されます。
利用するには、本人が申請書を提出し、承認される必要があります。なお、免除される額には、全額・4分の3・半額・4分の1の4種類があります。
2.納付猶予制度
20歳以上50歳未満で、「本人・配偶者」の前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下の場合、「納付猶予制度」を利用することで保険料の納付が猶予されます。利用するには、本人が申請書を提出し、承認される必要があります。
Cさんがこのまま個人事業主を続けた場合、以前会社で加入していた厚生年金の分を含め、65歳からの老齢年金受給見込額は月約10万円です。
これだけで生活するとなると厳しい金額ですが、この10万円は65歳以降、生涯受給できる保障額といえます。ここに、現在Cさんが継続している株式投資などで上積みする資産を形成し、老後の生活に備えるといいでしょう。
Cさんは、「安易な気持ちで滞納を続けたために、親を巻き込んで大変な事態に陥ってしまいました。大事な生涯の保障額を受け取るために、これからはしっかり納付します」とうつむき加減でそう言いました。
牧野 寿和 牧野FP事務所合同会社 代表社員
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