やめておけばよかった…勤続38年・60歳の中小企業サラリーマン、「退職金1,000万円と貯蓄300万円」で「住宅ローン完済」も、10年後思い知る過ち
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月24日 8時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
長いお勤めの末に手にする退職金。大切な老後資金の一部ですが、「退職金で住宅ローンを完済」と考えている人も多いようです。返済負担から解放され、「よし、これから資産形成だ」と頑張っても、そううまくいく話ばかりではありません。
70歳の予定を10年早めて…60歳定年で住宅ローン完済
今年、70歳になるという中嶋昭さん(仮名)。ちょうど10年前、60歳で定年を迎えたときの決断を悔やんでいるといいます。
――30代の半ばで家を買いました。35年ローンで、完済予定はちょうど70歳
――でも定年後は収入が減るじゃないですか。住宅ローンの返済を続けていくのは大変だと思い、思い切って退職金と貯金を合わせて、ローンを完済したんです
当時は住宅ローン金利がいまのように安いときではなく、「4%か、5%か、それくらいだったと思います」と中嶋さん。3,000万円を借りて、毎月の返済額は13.2万円程度。60歳の定年時には1,300万円ほどの残債がありました。中嶋さんが勤めていたのは都内の中小企業。転職して2社目の会社でしたが、勤続は35年を超えていました。退職金は1,000万円程度。このとき預貯金は700万円ほどあったといいますが、そこからも取り崩して住宅ローンを完済します。
東京都産業労働局『中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)』でモデル退職金(学校を卒業してすぐ入社した人が普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準)をみていくと、定年退職の場合、高校卒で994.0万円。月収換算で23.2ヵ月分。つまり直近の月収は42.8万円だったということです。大学卒では1,091.8万円と1,000万円超え。月収換算で22.8ヵ月分。つまり直近の月収は47.8万円。
【勤続年数別「東京都中小企業・会社都合の場合の退職金」】
■高校卒
勤続10年…122.3万円
勤続15年…214.8万円
勤続20年…328.4万円
勤続25年…465.6万円
勤続30年…604.6万円
■大学卒
勤続10年…149.8万円
勤続15年…265.8万円
勤続20年…414.7万円
勤続25年…578.2万円
勤続30年…754.2万円
――毎月のローン負担はやっぱり大きく……ゼロになったときはすごい解放感でした
中嶋さん、60歳で住宅ローンを返し終わったときの気持ちを振り返ります。
60歳以降、思うように資産形成が進まず…「退職金が残っていれば」
60歳で住宅ローン返済から解放された中嶋さん。老後を見据えた貯金は残り400万円。それまで働いていた会社はやめて再就職。契約社員での採用で、月収は30万円ほどと、それまでの4割程度になりました。
――契約社員であること、勤務時間が正社員よりも短いことを考えたら、妥当な金額だと思いました
60歳以降、住宅ローン返済分をそのまま貯蓄にまわすことができるため、5年で800万円ほど貯められると考えていました。しかし給与が減ったり、想定外の支出もあったりして、目標額の半分くらいにとどまったといいます。
65歳で貯金800万円。そして65歳から受給を開始した年金は夫婦で月22万円。手取りにすると19万円ほどです。
――正直、苦しいですよ。でも年金のなかで暮らしていかないと破産してしまう。仕方がないですよね
総務省『家計調査 家計収支編 2023年平均』によると、高齢夫婦の1ヵ月の支出は平均25万0,959円。このなかには住居費1万6,827円が含まれているので、持ち家であれば月23万円程度が平均的な支出でしょうか。財布をきゅっとして無駄な出費を抑える……「思い描いていた老後は、もっと楽しいはずだったのに」。そんな思いも沸いてきたといいます。
そして70歳。大きな出費で、万一のために確保していた800万円を取り崩すことになります。まずは家の修繕。このまま住み続けるか、それとも住み替えるか。2択に迫られましたが、前者を選んだ中嶋さん。屋根、外壁、そして今後も住み続けることを想定してバリアフリーのリフォームも行いました。総額350万円。
そして中嶋さんの93歳になる母親が大往生。子どもたちに負担をかけたくないから自分たちの代で、という思いで墓じまいをすることにしました。お墓の撤去、お布施、離檀料、埋葬費、入檀料……総額120万円ほどかかったといいます。
この2つで、残り300万円ほど。先のことを考えると、不安で不安で仕方がない貯金額だといいます。
――最近は物価が高くて。それでも孫にもお金を使いたいですし、たまに赤字になって少し貯金を取り崩すこともあります。これからは自分たちの医療費や介護費も増えていくでしょうし……300万円ほどの貯金で対応できるのでしょうか
――あのとき、住宅ローンを完済せずに退職金を残しておく選択をしたら違ったのかな。でも、70歳までローンを抱えているのも現実的ではありませんでしたし……どうするのが正解だったのでしょうか。そもそも家を持つこと自体、私たちには身の丈以上だったのかもしれません
70代にしてつきまとうお金の不安。中嶋さんの場合、これからリカバリーするのは大変なこと。年金と貯金で、なんとか生き抜いていくしか方法はありません。
昨今は住宅の購入年齢があがり、それに伴い、完済年齢が75歳、80歳ということも珍しくありません。年金生活に入ってからのローン返済は大変なのは目に見えているので、「退職金で完済」を織り込み済みという場合も多いでしょう。しかし退職金で住宅ローンを完済した場合、老後、生活が困窮する場合があります。
退職金で住宅ローンを完済するのがいいのか、それとも止めておいたほうがいいのかは人それぞれ。綿密なシミュレーションのもと、決断したいものです。
[参照資料]
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