あまりにもムシがよすぎるだろ!熟年離婚を切り出された58歳夫、財産分与で55歳妻に4300万円渡すも1年後にきた「まさかの請求」に再びキレたワケ【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月1日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
厚生労働省の発表によると、2022年に離婚した夫婦のうち、同居期間が20年以上だった「熟年離婚」の割合が過去最高に達したとのこと。夫は妻との老後を考えてせっせと資産形成にも勤しんでいたのに妻は……というケースも。本記事では、CFPなどの資格を持つトータルマネーコンサルタントの新井智美さんが、熟年離婚の財産分与について解説します。
妻も一緒に地元に戻るものだと思っていたのに…
夫との生活から離れたいと考え、離婚に至るケースもあれば、両親の介護が原因で離婚に至るケースもあります。敏夫さん(58歳)のケースもまさにそうでした。
敏夫さんは東北地方出身でしたが、東京の大学に進学し、そのまま東京で就職しました。そして同じ職場にいた恵子さん(55歳)と結婚したのです。
仕事柄、海外での生活が多かった敏夫さん。妻も喜んで駐在先に帯同していたと言います。2人の子どもに恵まれながらもヨーロッパやアジア、南アメリカなどさまざまな都市での生活が続き、50歳を過ぎたころから東京での勤務に落ち着くことになりました。
子ども2人も成人し、定年まであと少しとなったとき、盛岡の実家にいる父親が脳梗塞で倒れ半身不随の状態になってしまったのです。
実家から少し離れたところに妹が住んでいるものの、妹も結婚して生活があるため、妹に頼むことはできません。そもそも敏夫さんは、定年後は地元に戻ってゆっくりしようと思っていたのです。当然、妻もそれに付いてきてくれると思っていました。
悩んだ末、会社を辞めて地元に帰り、両親と一緒に住むことに決めた敏夫さん。会社を辞めた後も盛岡に拠点がある関連会社に転職が決まったこともあり、「これからは環境が変わるけど、よろしく頼むな」と恵子さんに話しかけたのです。
すると意外な言葉が返ってきました。恵子さんは「私は一緒には行かないわよ。私も両親の面倒を見るつもりだから、地元に帰るなら離婚してからにして! もちろん財産分与も忘れないでね!」と言ってきたのです。
恵子さんは1人娘だったため、親の面倒を見なければならないのは事実です。しかし、「それなら同じ理由じゃないか。財産だけよこせなんてムシがよすぎるだろ!!」と怒る敏夫さん。しかし、恵子さんの考えは頑として変わりませんでした。
離婚後の財産分与
民法では、「離婚にあたり、どちらか一方が相手に対して財産の分与を請求できる」※2としています。つまり、婚姻期間中の財産は2人共通の財産であり、一方はそれを分けてくれと言えるのです。該当する財産には以下のものがあります。
・預貯金などの金融資産
・不動産
・保険金
・退職金
など
ただし、結婚前から持っていた預貯金や相続財産は含まれません。
そして、財産分与の割合は基本的には半分ずつです。つまり婚姻期間中の保有財産の2分の1をそれぞれが保有することになります。
ただ、話し合いで「6:4」など割合を決めることもできます。
年金まで持っていかれるなんて…
敏夫さんは会社の社宅に住んでいたため、不動産はありません。そのため、30年間の婚姻期間中に貯めた預貯金や株式などを後でもめることのないように半分ずつに分けることにしました。
敏夫さんは海外生活が長かったことから、運用を取り入れた資産形成を早くから行っていました。そのため、離婚時点での金融資産は7,000万円ありました。それは婚姻期間中に貯めたものです。よってそのうちの3,500万円を恵子さんに譲ることになったのです。
敏夫さんも頭にはきていたものの、やはり長年支えてくれた妻への感謝の気持ちもあったのでしょう。受け取った退職金約2,000万円については、婚姻期間を考慮し800万円を恵子さんに譲ることに。
離婚後、敏夫さんは地元に帰って働きながら親の面倒を見る生活が始まりました。
ところが、地元での生活にも慣れてきた1年後、恵子さんから連絡があり、年金分割を請求されました。まさに青天の霹靂です。ビックリするとともに頭に血が上り「これまでの財産分与はもう済んだじゃないか! 年金まで取ろうとするのか!!」と怒鳴ってしまいました。しかし、年金も離婚における財産分与の対象になるのです。
正式には年金分割といいますが、婚姻期間中の敏夫さんの厚生年金部分を恵子さんは半分受け取りたいと言ってきたのです。
年金分割には合意分割と3号分割があり、3号分割とは夫婦で話し合うことなく恵子さんが一人で手続きできます。しかし、2008年4月1日より前に婚姻期間が開始している場合は合意分割の対象となり、話し合って分割しなければならないのです。
調べてみると婚姻期間中の厚生年金は年額100万円だったため、そのうちの半分である50万円を恵子さんが受け取ることになりました。
離婚を切り出され、最後は年金まで取られるとは思わなかった敏夫さん。最終的に自分が受け取れる年金がいくらになるのかを計算し、それに見合った老後生活を送ることを考えています。
財産分与請求には時効がある
敏夫さんは恵子さんと話し合い、全て2分の1ずつ分け合うことで話がまとまりましたが、中には話がまとまらないケースもあります。ただ、家庭裁判所の処分も2分の1となるケースが多く※3、夫婦平等にという考えがあるようです。そして、年金分割によって変動する額は月3万円程度というデータもあります。
月3万円でも年間に換算すると36万円。長い目でみるとまとまった金額になります。
敏夫さんが早くから資産形成に取り組んでいたのは、老後は恵子さんと2人でゆとりのある生活ができるようにと考えていたからこそ。しかし、その夢はかないませんでした。両親の亡き後は相続した家で1人で暮らすことになります。それを考えると、がむしゃらに働いた自分の人生は何だったんだろうと寂しく感じることも……。
2人の子どものうち1人は結婚し、東京に住んでいます。今の敏夫さんの楽しみは、年に数回、孫の顔を見に行くことです。
婚姻期間が長ければ長いほど、財産分与の対象となる金額も大きくなります。熟年離婚を防ぐためにも、日頃から夫婦でコミュニケーションを取っておくことも大切かもしれません。
民法の改正により財産分与請求の時効が5年に延長!?
2024年5月に国会にて民法の一部改正が可決されたことから、今後離婚における財産分与請求の時効が5年に延長されることが決まっています。具体的な時期はまだ発表されていませんが、おそらく2026年までには施行されることになっています。
もちろん適用されるのは施行後に離婚した場合に限られますが、これからリタイア後の生活を考えている方は注意しておく必要があるでしょう。
■参考サイト
※1:「熟年離婚」の割合が過去最高に長寿社会、役職定年も背景に:朝日新聞デジタル(asahi.com)
※2: 民法|e-Gov法令検索(768条)
※3: gaiyou_r03.pdf(mhlw.go.jp)(29ページ)
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP
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