臆病なシニアの資産運用…「GPIFの運用をまねる+銀行預金の割合を調整する」方法がお勧めなワケ【証券アナリスト資格を持つFPが助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月30日 11時15分
(画像はイメージです/PIXTA)
シニアの年齢に達した方々が、これまで経験してこなかった資産運用にチャレンジするのは、かなり勇気が必要でしょう。しかし、投資は多くの研究が行われており、学術的に裏打ちされた堅実な運用手法も存在します。元銀行員で大学教授のキャリアを持ち、いまも教壇に立つFPが、シニアのための堅実な資産運用について解説します。
資産運用の不安、FP等を頼るのもアリだが…
シニア世代が投資の不安と向かい合うのは大変です。一般的に、不安に対するときにはよい相談相手に頼ることが大切で、金融詐欺対策としても効果的でしょう。
米国ではFA(ファイナンシャル・アドバイザー)と呼ばれることもあるFPは、ファイナンシャル・プランニング(生活設計)と投資アドバイスを主な業務としており、退職後の所得設計、ファイナンシャルプランニング、ポートフォリオ・マネジメント等のサービスを提供しています。
そして、顧客が投資アドバイスを依頼するときに重要なのは「付き合いやすい、配慮深い」などFPの人柄であり、また「わかってくれる、聞いてくれる、説明してくれる」ことです。重要なことは必ずしも投資実績は重視されていないことであり、顧客の話をよく聞くことや誠実さをふくめ、FPは何より人柄が重要となっているという調査報告があります(杉田浩二「米国のフィナンシャル・プランナー ―その現況と新しい動き」日本証券経済研究所2015年)。
米国のFPの所属先は投資顧問会社のほか、証券会社、銀行などであり、いずれの場合も地域密着型となっています。我が国でも、投資信託を購入した顧客の投資損益がプラスとなっている割合は、預金取扱金融機関のなかでは信用金庫等の協同組織金融機関78%、メガバンク等71%、地域銀行67%と、狭い営業区域で地域密着型営業を行う信用金庫等がいちばん高くなっているという調査報告があります(金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析」2024年)。「地域密着型営業」とは、リレーションシップを活用した営業活動ということです。
実際、地域最大の金融機関である地方銀行より信用金庫のほうが、投資信託の購入経験のある顧客の割合が多い傾向がみられるとする報告もあります(飯塚徹他「地域金融機関の将来の在り方 Ⅰ-長野県の地域金融機関を事例に(個人取引編)-」松本大学松商短期大学部、2024年)。
公的年金の資産運用をマネる+銀行預金の割合を調整する
また、別の不安への対処策として、資産運用のモデルを他に求めてそれに頼るという方法があります。たとえば、分散投資の資産配分について、シニアの方に身近な公的年金の資産配分を模倣することがあげられます。独力で資産運用に取り組むより、不安は大きく減るでしょう。
そして、公的年金の資産運用を模倣した運用を自分の財産の状況に合わせるには、運用する金額で調整すればよいのです。
ノーベル経済学賞を受賞したトービンは、「トービンの分離定理」と呼ばれる考え方を示しました。
これは、投資家はリスク資産と安全資産の配分の割合だけ考えれば適切な資産運用ができるという理論です。投資するにあたって、投資家のリスク許容度に関わらず、リスク資産のポートフォリオの中身は同じでよく、リスクの度合いは、安全資産(銀行預金など)をどれくらい持つかで調整すればいい、と考えます。
リスク資産の内容は「市場ポートフォリオ」と呼ばれ、あらゆるリスク資産の時価の比率で分散投資されたポートフォリオとなることが理論的にわかっています。これは、実際の債券・株式の運用でいえば、全世界の債券と株式のインデックス運用を行う投資信託に近いものとなります。
しかし、世界の債券・株式に広くインデックス運用を行う投資信託と公的年金の運用のような内外の債券・株式に均等投資を行う投資信託では、リターンの値はグローバルなインデックス運用のほうが大きいのですが、リスクも大きく、そのシャープレシオ、すなわち投資の効率性の指標に大差はないのが実情です(過去10年で共に0.7程度:筆者推計)。
そこで、公的年金の資産運用の模倣と銀行預金との割合だけを変化させる資産運用はシンプルですが、堅実な手法ではないかと思います。
シニア世代の方々は、心理的、理論的、実践的な手法を組み合わせ、投資の不安に対処されてはいかがでしょうか。
藤波 大三郎 中央大学商学部 兼任講師
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