最初はよかったのですが…60代元地方公務員総務の几帳面夫〈年金月32万円・貯金3,000万円〉で妻と過ごす緻密な老後を計画も、「はしゃいだのは退職後1年間だけ」【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月2日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
安定のイメージが強い公務員。定年退職したあとのセカンドライフもゆとりがあるのだろうな……多くの人はそう思いますが、意外にも生活が苦しいと訴える人が多いようです。本記事では、Aさんの事例とともに、先行き見通せぬ時代における生涯のジョブプランの必要性についてFPの川淵ゆかり氏が解説します。
退職後は緻密に計算した「遺産ゼロ」プランを実行
Aさんは2019年に60歳で定年退職をした元地方公務員の男性(65才)です。子ども達とは別居しており、専業主婦の奥さん(62才)と2人暮らしをしています。
長男は医師、次男は一級建築士で、それぞれ立派な資格を持って独立しており、教育にはお金がかかりましたが、親としてはなにも子どもの将来を心配する必要はありません。自慢の息子をもって夫婦は鼻高々でした。
Aさんは在職中から奥さんとの豊かな老後の生活を夢見ており、コツコツと資金づくりをしてきました。定年退職までに住宅ローンも完済してしまい、安心して老後を過ごすために退職金で一部リフォームも行ったため、住まいにかかる負担もありません。
Aさんは、長年総務の仕事をしており、非常に細かい性格です。たとえば、イベントや式典、来客の接待などがあると、分単位でスケジュールを組むような性格で、部下などは遅れが出るとヒヤヒヤしたものです。
自身のマネープランも同様。Aさんは、自分自身が過去に兄弟との相続トラブルを経験したことで、息子たちの生活は息子たちに任せよう、という気持ちから、亡くなったあとは死亡保険で死後整理費用だけを残す、いわゆる「遺産ゼロ」のライフプランを実行するつもりでいます。2人の老人ホームの入居資金も預貯金等のほかは自宅の売却資金で賄うつもりで、Aさんのプランによると子どもたちには頼らないですむ計画。リフォーム後の残りの預貯金残高は3,000万円ほど。
定年退職当時は「老後2,000万円問題」といった言葉が流行りだしたころで、ほかに不動産もあるAさんは、余裕で老後資金を残せることができたと思っていました。そのため、毎日の生活費は年金以内(妻も65歳になった時点で2人合わせた年金額は月32万円)で賄えるようにし、そのほかは、預貯金の残高を自作のマネープランと比べながら趣味のゴルフや妻と2人での海外旅行や外食などを自由に楽しみながら暮らしていくことにしました。
老後2,000万円問題
老後2,000万円問題とは、2019年に金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書がきっかけとなって広がった老後の資金に関する問題をいいます。報告書では、2017年の高齢夫婦無職世帯の平均収入から平均支出を引くと毎月5万5,000円不足するという結果を報告しており、30年間で約2,000万円が不足することになります。
しかし、あくまでも平均値からの算出額ですから、それぞれの家庭での収入や支出によって金額は当然変わってきます。
コロナ禍以後「老後はいくら必要か?」
定年退職後のAさんは、自宅のリフォームのあと、趣味に旅行にと夢に見た悠々自適の生活をスタートさせます。
しかし、そんな夢のような生活は長くは続きませんでした。「最初はよかったのですが……」Aさんは切なげに振り返ります。緻密な計算が崩れだしたのは、新型コロナが国内で広がりだしたころ。外出もままならなくなり、大好きなゴルフや旅行などもできず、妻と2人で引きこもる生活が続きました。
そして、2022年ごろからは海外との金利差等の理由から円安が加速し、いろいろなものが値上がり。食料品に日常品に光熱費、まさにありとあらゆるものが値上がりとなってきたのです。
今年に入るととうとう主食であるお米の値段まで上がりだして、さすがにAさんも贅沢な生活はできなくなってきた、と感じ始めました。
「新型コロナのころは、また外国旅行をしたいけど収まるまでは我慢しようね、と妻と話し合っていたんです。ところが、新型コロナが収まると今度は予想もしなかった円安で海外旅行も楽しめなくなってきました。私の老後プランでは、円安や物価高なんてまったく考えてもいなかったんですよ。これからは働き手もどんどん減っていくから、まだまだ物価が上がっていきそうですね。税金なんかもまだ上がるんでしょうか。空き家も増えるというし、家もちゃんと売れるのかどうかも心配になってきました」Aさんは続けます。
「地震や災害も心配ですが、テレビのニュースも戦争の映像が多くなりましたよね。北朝鮮からのミサイルの数も増えましたし。景気が悪いせいか、詐欺のニュースも増えたような気がします。『闇バイト』という言葉も働いていたころはありませんでした。妻が怖がってしまってニュースを見ているとチャンネルを変えてしまうんですよ。定年退職したあとはなんだか世界が一変したような気持ちです」
ここ数年のあいだに世界情勢や国内の状態などが大きく変化しました。「老後はいくら必要か?」と考えても、なにが起きるかわからない時代に突入してしまいましたから、「これで安心」とは明言できなくなっています。
老後も働くなんて…
Aさんは、老後は悠々自適の生活を送るため、しっかりとマネープランを組んで定年退職を迎えたつもりだったので、老後に働くということなど一切考えたことはありませんでした。現役時代は総務事務がほとんどで、特にこれといった資格や特技もなく、デスクワーク中心でしたから、これから身体を使った仕事などとても考えられません。
若いころから「公務員だから一生安泰」と思ってきましたが、老後を楽しめたのは定年退職してからはたった1年間のみ。
「同期の人間は親戚の会社に頼んでアルバイトを始めたと聞きましたが、私はどうしても働く気力が起きません。働くことはもともとあまり好きではないんです。贅沢をしなければなんとか暮らしていけると思いますが、いつなにが起きるかわからないと思うとお金が使えなくなりました。夫婦2人で自宅で過ごすことが多くなりましたよ。これからもこんな暮らしが続くのかと思うと気持ちが暗くなります。これからの時代は老後も働くことが当たり前の時代になっていくんでしょうね」肩を丸めて大きなため息をつくAさん。
定年後も働きたいと考える公務員が8割超
「令和5年 退職公務員生活状況調査報告書」によると、定年退職後も働きたいと思った人は83.3%となっており、また、定年退職後は働きたいと思わなかった人でも54.1%が収入を伴う仕事に就いている、と発表しています。
なお、定年退職後も働きたいと思った理由や働き続けたいと思った年齢については、次のグラフのようになっており、公務員といえども暮らしに余裕があるとはいえなくなってきていることがわかります。
Aさん夫婦はいまはまだ60代で健康ですが、将来病気になったり介護状態になったりした場合、高齢化が進む日本ではいくらお金がかかるかわかりません。
団塊世代のすべてが後期高齢者になる「2025年問題」もとうとう来年になってしまいました。なにが起こるかわからない時代、老後は健康でできるだけ長く働くことが重要になります。そのためには現役時代からの準備も大事です。マネープランだけでなく、若いうちから生涯のジョブプランも考えておきましょう。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所代表
ファイナンシャルプランナー
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