お義父さん、とても言いにくいのですが…逆さ仏で最愛の息子に先立たれた67歳・料亭花板の父、四十九日後に嫁から要求された〈4,500万円〉に絶句。「相続税対策がアダに」【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月3日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
遺す家族に負担をかけたくない。そんな思いから、相続対策の手段として真っ先に思い浮かぶのは生前贈与でしょう。しかしなかには、安易な生前贈与により、あとになって後悔する人もいるようで……。本記事では、Aさんの事例とともに相続税対策の注意点について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
相続税対策がアダに
平成27年の相続税法の改正に伴い、相続税をいかに節税できるかという課題への関心は高まりを見せる一方です。相続対策というと、相続「税」対策を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。財務省の発表によると、平成26年は死亡者数127万3,025人、相続の課税価格11兆4,881億円、相続の納付税額1兆3,904億円だったものが、令和4年には死亡者数156万9,050人、課税価格20兆7,178億円、納付税額2兆8,007億円と増加の傾向にあります。
所得税、住民税などの納税を経たうえで築き上げた大切な資産ですから、最後に待つ相続税をできるだけ少なくしたいと思う気持ちはよく理解できるところです。しかし、相続税の節税だけに着眼してしまうと後々思わぬことが起きてしまうことがあります。
今回は相続税の節税のために事前に打った策がアダになってしまった一例を紹介していきます。
※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。息子を想い、相続税の節税のため生前贈与を活用することに
Aさん(67歳)は一代で築いた料亭を経営していました。いち板前の身からお店を繁盛させ、Aさんの息子Bさんも後継者候補の専務として勤務しており、経営も順調でした。代替わりを意識し始めたAさんは相続税の負担のことが気にかかっていました。会社の決算を担当している税理士に相談したところ、生前に贈与をする手法を教えてもらいます。
Aさんの資産は、株式をはじめとする有価証券、現預金、不動産など。Aさんはバブル時代の財テクを、大きな損失を出さずに乗り切った経験があり、株の取引はエンターテインメントの一環のごとく、いまでも売買をするのがライフワークになっていました。そういった個人的な好みもあり、有価証券や現金は生前の贈与の対象になりにくい状況でした。
そこで注目したのが、Aさんの保有する不動産です。料亭の建物は会社名義だったのですが、土地はAさん個人の名義となっていました。2,000万円ほどの資産価値のある土地でしたから、持分を最低限の贈与税の負担の範囲でAさんからBさんに生前に贈与することで、相続税の節税に繋げようとしたのです。
贈与税には110万円までの贈与であれば課税がされない非課税枠があります。この非課税枠を活用しながら生前に贈与をすることは、相続税の節税でよくあるスキームの1つです。また、Aさんは会社に土地を貸すことで、家賃を受け取っていたため、家賃収入による資産を増やさないようにするという意図もあったようです。
いずれにせよ、料亭として利用している土地を息子のBさんに贈与することに、Aさんには心理的な抵抗はほとんどありませんでした。
贈与完了のタイミングで、息子がまさかの…
10年ほどの時間をかけて、料亭の立つ土地の贈与が完了したそのとき、まさかの事態が訪れます。Aさんの息子Bさんが交通事故により突然他界してしまったのです。
Bさんに事業を任せて社長を交代して経営も軌道に乗り始めていたタイミングでの出来事に、会長に退いていたAさんも慌てます。すでに70歳の後半に差し掛かっていたAさんですが、やむをえず社長として現場に復帰せざるをえませんでした。最愛の息子を失った悲しみを抱えながらも、仕事を1つひとつなんとか落ち着かせていったAさん。しかし、Bさんの相続手続きを経て、どうにもできない事態と向き合うことに。
急逝したBさんには妻のCさんと小学生の子供が1人おり、この2人がBさんの相続人でした。Bさん所有の料亭の存する土地はBさんの妻Cさんが相続をしていました。CさんはBさんと結婚してから仕事を退職、主婦として過ごしており、Aさんの料亭の事業に関わったことはなく、今後も関わる気持ちはありません。
幼い子を残して急逝してしまったBさん、Cさんは子どもの将来を守るべく再び仕事を始めており、AさんとCさんとの関係は希薄なものとなっていました。四十九日が経ったころ、AさんのもとにCさんから連絡が入ります。
Cさんは遠慮げに口を開きます「お義父さん、とても言いにくいのですが……。いただいている家賃が少ないと思います。不動産業者さんにも相談したのですが、この土地には価値があるという助言を受けました。これから子供を育てていくのに不安もあります。土地を売却しようと思っているんです」。
料亭の経営を再び安定させたいAさんとしては、Cさんの意向に一定の落としどころを見出さないと経営に集中もできません。家賃を増額することも検討したのですが、その先またややこしいことを言い出すのではないかという不安もよぎります。
社業を守ることを優先したいAさんはCさんに「どの程度の金額での売却を希望しているんだい?」と尋ねると、4,500万円という金額がCさんの口から出てきました。Aさんは思わず言葉を失います。とてもではありませんが、受け入れがたい金額です。引越しなども検討したのですが、永年培ってきたお得意さんとの関係や、その地への愛着も簡単に手放せるものではありません。
もともと自分の土地であったものを買い戻すことに、当然腹立たしい思いもありましたが、AさんはCさんの要求の大半を受け入れる形で土地を買い戻します。その後、AさんとCさんの関係は言うまでもなくますます希薄なものとなっていきました。
贈与の前にひと呼吸おいて…本当に生きているうちに渡して後悔しないか?
結果論にはなってしまうのですが、今回のケースは料亭の土地は普通に遺言書を書いてBさんに相続させることにしておくのが最もよかったケースでした。万が一Bさんが他界してしまっても、そのあとその土地をどうするかはAさんが改めて判断することができます。
もちろん結果論ですから、今回のような事態に備えて、買い取り資金の保険をかけておくなど一定の対策をうったうえで、生前贈与を実行するという手もあるといえばあります。しかし、新たなコストをかけたうえで相続税の節税を図るというのは良策とも思えません。
普通に相続して、普通に相続税を支払うというのが、全体を俯瞰したうえで最良の方法だった可能性が高いのです。生前贈与は相続税の節税のためには有効な方法の1つであることには間違いないのですが、すべての権利は受け取った側が有することになります。贈与する側の気持ちや意図はおよばないところに移ってしまうのです。
贈与自体は相続を円滑にするうえで有効な手段になりえるのですが、本当にその贈与が必要なものなのか、金銭的な損得だけを見た贈与でないかはじっくり検討する必要があるといえそうです。
森 拓哉
株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン
代表取締役
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