<医師のセカンドキャリア>終末期医療の専門医が、キャリアアップとして「在宅診療」をすすめる理由
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月14日 8時15分
(画像はイメージです/PIXTA)
在宅診療医の野末睦氏は、終末期医療を行う在宅診療医として活躍するには、初期研修を終えてすぐに携わることを勧めていません。初期研修を終えて6年程は、他の科で経験を積むのが好ましいと考えています。在宅診療は医師のセカンドキャリア、もしくはサード以降のキャリアとして携わるのが好ましいと考える理由、今後の展望について解説します。
終末期医療には専門的な医療スキルが求められる
医療の専門科目として、患者が小児なら小児科、女性なら婦人科、妊婦なら産婦人科があります。同じように終末期医療もまた、総合診療ではなく専門医療として位置づけられるべきであると考えます。なぜなら専門スキルが必要な医療だからです。
終末期における専門スキルは2種類に大別されます。1つ目は医療スキルです。たとえば、在宅診療における鎮痛剤の使い方や、寝たきりになると引き起こされる褥瘡(じょくそう。別名、床ずれ)の治療。神経難病における治療や腹膜透析の検討判断。その他、食事がとりづらい患者さんに個人宅でどのように食事をとっていただくか、といった摂食嚥下の問題。食事がとれなくなると引き起こされる口の中の乾きや汚れ対する、症例に合わせた口腔ケアの提供等です。どれ1つをとっても、回復期や慢性期の患者さんとは異なる応が求められます。
加えて、リハビリに関する知見が必要となります。倦怠感や疲労感、体を動かせないことによって生じる痛み……といった、痛み止めでは足りない症状に対して適切なリハビリを行うことを緩和リハビリテーションといいます。緩和リハビリテーションは薬よりも効果的な場合があるため、それらの知識に基づいた治療・ケアが欠かせません。
在宅診療医に求められるコミュニケーションスキル
終末期における専門スキルの2つ目は、患者さんやご家族と接する際のコミュニケーションスキルです。人生の最期に向かって過ごすという場面は極めて濃度が高く、特殊といえます。専門的な知識や経験をもつことが大切です。さらに、死生観や人生の価値観は時代とともに変わりゆくため、アップデートし続ける姿勢が必要です。
この記事を読んで「在宅医療に参入したい」と考えている先生たちは、これまで医療に対して積極的に頑張ってこられた方々でしょう。これまでの経験を存分に活かしてほしいと思うと同時に、終末期医療に携わる在宅診療医として新たに学んでいかなければならないことを理解してほしいと思います。ここを理解することで将来患者さんに提供できることが大きく変わってくるのです。
細分化される医療…チーム制の導入で互いに補う必要あり
医療の細分化が進む昨今です。もとより専門的に研究していた先生、特定分野の臨床経験が豊富な先生――医師にはそれぞれ得意分野があるものです。もちろん、すべての分野にわたる知識を備えバランスに優れた治療やケアが提供できるのが理想ですが、現実的ではありません。
そこで私たちのクリニックでは、多人数の医師で医療を提供するチーム制を導入しています。そうすることで各々学びの時間や余暇を確保しながら、互いに補い合い学んでいく――こうした仕組みが必要であると考えます。とはいえ、多人数の医師でチームを組むにはまだまだ医師が足りないのが現状です。
在宅医療に携わるなら、広い分野で6年間経験を積むべき
ここまでお伝えしてきた通り、在宅医療は人間力が問われる仕事です。そのため、初期研修を終えるや否や在宅医療の世界に入るといったキャリア形成はおすすめできません。
私は初期研修を終えた後も6年くらいは、なるべく広い分野であらゆる医療の経験を積んだり専門医資格をとったりする時間をもつべきと考えます。
もし今後「医師になってすぐに携わりたい」という人が増えるのであれば、大学医学部と連携して人材を育てていく――という教育システムの整備が不可欠かと思います。6年間という数字は、ある程度医師としての基礎が完成するのに、最低必要な年数と考えるためです。6年程を過ぎた頃に、重ねてきた経験やスキルのパーツがカチっと噛み合い、一気に成長していけると感じます。
在宅医療…今後はいかに教育制度を提供できるかが重要に
10年ほど前から「人間を総合的に診る」という観点では終末期医療との類似点のある、総合診療科のスキルが学べる医療機関が各地に登場しました。病院の総合診療科でトレーニングを受けた40歳前後の医師が、やっと私たちのグループにも入ってくるようになりました。
そうした医師はとてもバランスがよく、さまざまな側面を考慮したうえで医療を提供できます。若い頃にさまざまな分野で経験を積むのはとてもいいことだと、つくづく思わされます。
また、在宅医療の教育機会を提供することは今後、私たちの役目になるでしょう。マンパワーの確保や、洗練された教育の仕組みづくりなど課題は山積みですが、実現に向けた取り組みを現在進めています。
野末 睦 医師、医療法人 あい友会 理事長
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