老後資金を増やすはずが…年金月22万円・66歳男性に年金機構から「年金支給停止」の通知が届いた〈まさかの理由〉【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月31日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「老後資産を増やすため」「生活資金のため」「生活にハリを出すため」など、さまざまな理由から定年後も働く人が増えています。しかし、65歳以降も働く場合には、「在職老齢年金」の仕組みについて知っておく必要がある、とファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏はいいます。今回、66歳の谷口徹さん(仮名)の事例をもとに、詳しくみていきましょう。
“普通の年金生活”を送る谷口さんが、「再就職」を決めたワケ
谷口徹さん(仮名・65歳)は、同い年の妻・和恵さん(仮名・65歳)と2人で暮らしています。徹さんは長年、電気工事士として働いており、夏の繁忙期には土日を返上して勤務することもしばしばありました。
そんな忙しい現役時代を送ってきた徹さんですが、このたび65歳で定年を迎え、1,000万円の退職金を受け取り退職しました。以前から「退職後は趣味の釣りを思う存分楽しむぞ」と決めていたため、新しい釣り竿選びにいそしむ毎日です。
妻の和恵さんは専業主婦として、夫の繁忙期にも体調を崩さないよう配慮した料理をつくるなど、献身的に家庭を守ってきました。現在の趣味は英会話で、週に1度、近くの英会話教室でレッスンを受けています。
65歳以降、谷口さん夫婦が受け取っている年金額は徹さんが22万円(老齢基礎年金6万8,000円+老齢厚生年金15万2,000円)、和恵さんが老齢基礎年金6万円の合計28万円です。そのほか、先述の退職金1,000万円と、貯金が300万円あります。
一方、現役時代にまずまずの収入があったことから、支出は月に31万円ほど。夫婦で28万円の年金収入となると毎月3万円程度の赤字ですが、徹さんは「1,300万円も資産があるのだから、問題ないだろう」と考えていました。
“もう一度力を貸してほしい”…会社の求めに応じ、66歳から「再就職」することに
その後、のんびりとした年金生活を楽しんでいた谷口夫妻でしたが、ある日以前の勤務先から連絡が入りました。聞けば、「退職者が出たせいで人手が足りず、もう一度徹さんの力を貸してほしい」というのです。
悩んだ徹さんでしたが、和恵さんにも相談し、再度働くことを決意しました。
むしろ2人は、徹さんが再就職できることを大変ありがたく感じていました。実は定年後、趣味や旅行、車の買い替え、自宅の修繕などで出費がかさみ、1,300万円あった資産が900万円まで減少。そのため、今後の老後生活が心配になり、どうすればよいか悩んでいたところだったのです。
給与面についても45万円と満足のいく条件が提示され、徹さんは「これで老後の資産を増やせる」と前向きな様子でした。
「年金の一部が支給停止」…突然届いたハガキの内容に動揺
1年ぶりの職場は、ブランクがあったものの、慣れ親しんだ業務内容だったこともあり、徹さんはスムーズに適応することができました。従業員も顔見知りが多く、大きなストレスを感じることなく勤務できています。
そんなある日のことです。いつものように帰宅しポストを開けると、年金事務所からハガキが届いていました。「年金決定通知書・支給額変更通知書」と書いてあります。
夕食後、中身を読んでみると、驚きの内容が書かれていました。なんと、徹さんの年金の一部が支給停止になるというのです。
「支給停止って、いったいどういうことだ?」心当たりのない徹さんは、間違いかもしれないからとりあえず話を聞きに行こうと、妻を連れて年金事務所へ。状況を説明し、なぜこのようなハガキが届いたのか、徹さんが尋ねると、担当者は次のように答えました。
「谷口さまの場合ですと、現在総報酬月額相当額が45万円、厚生年金の月額が15万2,000円あります。これを合わせると60万2,000円と、在職老齢年金の基準である50万円を超えることになるため、届いた通知のとおり、年金の一部(月々5万1,000円)が支給停止になってしまいますね」。
在職老齢年金の仕組み
「在職老齢年金」とは、老齢厚生年金の受給者が厚生年金保険に加入しながら給与収入を得た場合、年金の一部または全額が支給停止になる制度です。支給停止額の計算方法は以下のとおりです※1。
【支給停止額】
(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)×2分の1
今回の徹さんのケースをあてはめてみると、
(15万2,000円+45万円-50万円)×2分の1=5万1,000円
徹さんの年金支給停止額は、5万1,000円となります。
担当者が言うように、基本月額(厚生年金)と総報酬月額相当額の合計が50万円を超えてしまうと、在職老齢年金の対象となります。
会社の求めに応じてもう一度働いたのに、年金が減ってしまった……徹さんは腑に落ちません。納得できない徹さんは、以前相続のことでお世話になったファイナンシャルプランナーに相談することにしました。
どれがベスト?…徹さんがとれる「3つの選択」
「老後資産を増やすために再就職したのに、年金が減らされるのが納得いきません。なにかいい方法はないでしょうか」と徹さんがFPに尋ねると、FPは「谷口さんには、3つの選択肢があります」と、下記のような説明をしてくれました。
1.現在の雇用形態を維持する
2.雇用形態を業務委託契約に変更してもらう
3.給与を34万8,000円に減額し、年金を全額受け取る
1.現在の雇用形態を維持する
「まず、徹さんはいま1の状況にあります。今後も現在の雇用形態を維持する場合、収入は保たれるものの、おっしゃるように年金の一部が支給停止となり、損をした気持ちになるかもしれません。
2.雇用形態を業務委託契約に変更してもらう
そこで、2つ目の選択肢があります。雇用形態を社員から業務委託契約に変更してもらった場合、徹さんは個人事業主となるため、加入する年金が厚生年金から国民年金に変更となり、在職老齢年金の対象外となります。そのため、年金の支給停止は回避することができるでしょう。
しかし、一方で個人事業主になる場合は帳簿などの会計処理を自身で行い、決算後は確定申告が必要となるため、いままでにはなかった手間がかかります。さらに、社会保険料も会社員のいまよりも増えてしまう可能性があるほか、有給や傷病手当金などがなくなってしまうといったデメリットがあります。
3.給与を34万8,000円に減額し、年金を全額受け取る
そこで、3つ目の選択肢が考えられます。給与を現在の45万円から34万8,000円以下に減額してもらうことで、年金と総報酬月額相当額との合計が50万円以下になりますから、在職老齢年金の対象外となります。
とはいえ、年金は減額されませんが、総額でいえば1を選択したほうが収入は高くなります。したがって、収入を最大限に保ちたい場合は1のほうが有利です。
もし3を選択するならば、給与(総報酬月額相当額)を減らしてもらう代わりに勤務時間などを調整できないか相談してみるのもひとつの手です。
これら3つのなかから、谷口さんのライフスタイルにもっとも適したものを選択するとよいでしょう」。
給与を減らし、年金を満額受け取ることを決めた徹さん
FPの説明を聞いた徹さんは、「では、3つ目にしようかな。給与を減らして、年金を全額受け取ることにします」といいました。FPは少し意外そうな表情を浮かべましたが、徹さんに迷いはないようです。
その後、徹さんは勤務先に相談。給与を34万8,000円に減額してもらい、それにあわせて勤務日数も週5日から週4日に変更してもらったようです。
あまり悩むことなく決断した様子を見て、FPがその理由を聞くと、徹さんは次のように言いました。
「目減りした資産は元に戻したいと思っているので、やはりある程度の収入は必要です。だけど、一応定年は過ぎているし、自分の時間や家族との時間も大事かな、と」。
徹さんは週に4日働き、残りの3日のうち1日は自身の趣味に、2日は家族との時間に充てることで、生活バランスを整えるようです。
個々のライフスタイルにあわせて、最適な選択を
在職老齢年金は、厚生年金に加入している人が対象となるため、個人事業主やフリーランスの人は在職老齢年金に該当せず、年金の支給停止が生じることはありません。そのため、年金を受け取りながら働く場合は、個人事業主やフリーランスで働いたほうが収入面においては有利になる可能性があります。
今回の谷口さんのケースでは、家族や趣味の時間を優先するために給与の減額を選択しましたが、収入面などを意識したい人であれば、個人事業主やフリーランスとして働くことも選択肢の1つになってくるでしょう。
また、在職老齢年金以外にも、「高年齢雇用継続給付金」を受け取る場合にも年金が支給停止になる可能性があります。
そのため、年金を受け取りながら労働を続ける場合には一度FPなどに相談し、自身のライフスタイルに適した選択肢を見極めることが重要です。
辻本 剛士 ファイナンシャルプランナー
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