「身寄りのない年金18万円の90歳叔父」を仕方なく引き取った65歳姪、死後は遺産800万円をもらうはずが…納戸に捻じ込まれた「残酷な冥土の置き土産」を発見。悪魔の囁きに悶絶【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月4日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
相続トラブルはお金持ちだけの問題ではありません。自分には関係がないから、と相続に関して正しい知識を持たずにいると、後悔することも……。本記事では、南さん(仮名)の事例とともに、相続放棄の注意点について、FPの小川洋平氏が事例とともに解説します。
可哀そうに思って引き取った叔父
南裕美子さん(仮名/65歳)は、夫の誠一さん(仮名/68歳)と年金を受け取りながら、パート勤務をして働いています。90歳になる叔父を引き取り、パートの傍らデイサービスへの送り出しや出迎えなども行い、献身的に介護をしながら生活していました。
裕美子さんは、少し堅苦しく融通が利かない叔父のことが昔から苦手でした。裕美子さんの子供のころは親戚の集いも頻繁に行われており、度々顔を合わせていましたが、なるべく遠くの席に座るようにしていたほどに。しかし、ほかに身寄りがなく、引き取った当時も本当は知らんふりをしたかったのですが、晩年を一人で過ごすのはさすがに可哀そうだと思い、仕方なく同居をすることにしたのです。
もともと自営業者であった叔父でしたが、任意加入していた年金もあり、安定した収入として月18万円ほど受け取っていました。独り身の自分を献身的に介護してくれている裕美子さんの誠意が伝わったのか、残り800万円程度の預金は、自分が死んだらすべて受け取ってくれと言ってくれたのです。真面目な叔父は口約束にせず、遺言書も作成してくれました。裕美子さんは少しだけ報われたような気がします。
裕美子さんには兄弟がいますが、離れて暮らしており、叔父の介護に関わることは難しい状況です。そのため、叔父の介護を担っている南さんが全額遺産を受け取ることにも納得してもらっていました。
裕美子さんにとっても、夫婦2人の年金を合わせて月額で20万円程度、資産も1,000万円程度と、まだまだこの先もパートをしながら生活費を支えないと老後が不安です。そのため、叔父の遺産はありがたいものでした。遺産を受け取れる安心感もあり、叔父が遺言書を作成してからは、吹っ切れたような気持ちで介護を続けるようになりました。
そんなとき、叔父はついにこの世を去ることに。葬儀を終え、叔父の持ち物を置いていた納戸を整理しているとき、一枚の干からびた書類が、彼女の期待を打ち砕いたのです。
書類の中身
書類は一枚のメモとともに綴じられていました。水分がすっかり抜け、カサカサの紙。内容を確認した裕美子さんは仰天します。叔父はまだ現役で事業を営んでいた30年前、資金繰りに苦しみ、共同経営者だった知人から借り入れを行ったようです。その額なんと1,000万円。利息も含めると、さらに大きな金額になると予測されます。しかし、貸主はその後に他界。身寄りもわからなかったために叔父はそのままにしてしまったと、メモには書かれていました。
叔父が亡くなり、遺言どおりに全財産を相続した場合、その借金の返済義務は南さんに引き継がれる可能性がありました。遺産をもらえるどころか、逆に負債を負わされてしまうという恐怖。
「これを知っているのは私だけ、誰にも言わなければきっと借金を請求されることはない……」裕美子さんはこのように考えもしましたが、後からその借金について誰かが自分に請求してくるかもしれないという不安がありました。
そのため、相続に関するセミナーに参加してみました。そのなかで「借金があると3ヵ月が経過して相続放棄ができなくなるタイミングで借金取りがやってきた」というような話を聞きます。そんな話を聞くと余計に不安になります。またもう一点、裕美子さんを相続放棄に後押しする記憶がありました。
生前の叔父と相続について話しを始めたとき、叔父には認知症の気があると裕美子さんは感じていました。病院に行って診断をもらったわけではありませんが、身近にいる裕美子さんだから気が付くレベルの症状。認知症になってから書いた遺言書は無効になると聞いたことがあった裕美子さんに悪魔の囁きが……。「介護をしたのだから、叔父の判断能力が正常じゃなかったとしても、私がもらって当然よね」そう思ったのですが、叔父を騙してお金が自分にわたるよう仕向けているような気持ちがあったのです。
「いまから思うとあの真面目な叔父が借金をそのままにするはずがない、少なくとも遺産をわたそうと思っている私には知らせるはずだ」認知症であったと考えると、すべて辻褄が合います。認知症だったから忘れてしまったか、記憶が混乱してしまったのか……。一人で悶々と考えていると、さまざまなシチュエーションが頭に浮かび、裕美子さんはとても耐えられなくなりました。
そんな後ろめたさもあり、司法書士にも借金の存在を打ち明けましたが、借金があるならば相続放棄をしたほうがいいと告げられ、そのまま相続放棄の手続きを行うことに。献身的に介護をしてきた裕美子さんでしたが、遺産を一銭も受け取れないという現実に肩を落とします。受け取れると思っていたお金が受け取れない、大きな喪失感が残りました。
相続放棄する必要はなかった…?
死後に借金の存在が発覚するという事例はよくある話です。裕美子さんは相続放棄を行いましたが、筆者が受けた相談事例で、必要のない返済をしてしまった方がいます。事例の方は、亡くなったあとに消費者金融からの借り入れの存在を知り、相続放棄ができることを知らずに遺族が借金を返済しなければならないと思い込み、返済してしまったのです。
借り入れの「時効」
そして今回のケースですと、もう30年も前に借り入れて、債権者であった共同経営者もすでに亡くなり、身寄りがないというような場合、時効になっている可能性が高いといえます。長期間に渡り債権者が催告しない、債権者も返済しないというような状態が継続すると、時効となるのです。令和2年4月に法改正され、それ以後の借り入れについては最後の取引の翌日から5年となっていますが、それ以前の借り入れについては10年が時効となります。
ですが、時効の存在を知らず、また、担当した司法書士もいつの借入なのかをよく聞かないまま手続きを進めてしまったため、せっかくの800万円の預金を相続放棄することになってしまったのでした。
間違いだらけの相続
また、裕美子さんが気にしていた叔父の認知症について。認知症の方が作成した遺言書だからといって即無効となるわけではないことは、あまり知られていないかもしれません。遺言能力があるかないか、という点が大きなポイントとなりますが、個別の判断となるため、自分で判断して結論づけるべきではありませんでした。遺言書を作成する際に借金について司法書士、弁護士などの専門家に相談していれば対処できたことでしょう。
裕美子さんに限らず、問題なのは、一人で悩むことです。特に裕美子さんの場合は聞きかじりの情報や真偽不明の情報を頼りに決断してしまいました。相続に関係する法律は複雑です。そのため、必ず専門家に状況の詳細を伝えるようにして、そのうえで選択肢を一緒に考えてもらい、どうしたらよいかを考える必要があるでしょう。
相続トラブルはお金持ちだけの問題じゃない
今回は死後に借金の存在が発覚し、せっかくの資産を相続放棄をしてしまった事例を紹介しました。
「相続」と聞くとお金持ちだけの問題だと考えてしまいがちですが、資産をさほど持たない人でも相続のトラブルは発生し、2020年の司法統計によると調停・審判となった事例の80%近くは遺産の金額が5,000万円以下で起きている事実があり、むしろさほど資産がないほうが相続を巡るトラブルが起きているということがわかります。
前述のとおり、相続の問題は法律が複雑に絡み、下手に対策すると余計に税金を支払ってしまうようなケースになったり、思わぬトラブルを引き起こしてしまったりする可能性もあります。自分の死後、親や身近な人の死後にどのようなことが考えられるのか、相続に強い弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら検討していくとよいでしょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
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