ただ早く会社を辞めたかった、それだけなのに…。早期退職を夢見て資産2,000万円を貯めた54歳会社員、わずか半年で数百万円を失い涙「あまりに愚かでした」【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月10日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
54歳の佐藤賢治さん(仮名)は、早期退職を夢見て貯蓄2,000万円を築いてきました。早く早期退職を実現したいと、投資をスタートした佐藤さん。順調な運用結果に味をしめた彼は、さらなる儲けを狙いハイリスクな商品に手を出してしまいます。最初は順調に利益を上げていたものの、相場の急変に翻弄され事態は深刻な方向に……。彼はこの試練を乗り越えることができるのでしょうか? 今回は佐藤さんの事例を通して、投資のリスクと老後への備えについてFPの青山創星氏が解説します。
早期退職を夢見てコツコツ積み立てた貯蓄2,000万円
佐藤賢治さんは、54歳で独身のサラリーマンです。現在の年収は500万円。早期退職を夢見てコツコツと貯蓄を重ねてきました。飲み会や外食を控え、同僚や友人たちが楽しんでいる姿を見ながらも、自分を律する日々を送る佐藤さん。それもこれも「早く仕事を辞めてストレスから解放されたい」という一心からです。
定年後65歳まで働くのなんて辛すぎる。60歳、いや50代で仕事を辞めたい……。佐藤さんはそう考えていました。佐藤さんの会社では、財形貯蓄制度の利用者には3%の奨励金が支給され、とてもお得で安全に貯蓄することが可能でした。その制度を利用して少しずつ積み立てた結果、手元には2,000万の貯蓄ができていました。
そんな中、知人が投資で100万円を1億円にしたという話を聞きました。それが佐藤さんの心に火をつけます。2,000万円という資産は決して少なくはありませんが、早期退職をするには十分とはいえません。
このままでは早期退職は夢のまた夢と感じていた佐藤さんは、とうとう投資の世界に足を踏み入れる決意を固めたのです。
インデックス型の投資信託で得た成功体験に歓喜
佐藤さんは、まず財形貯蓄2,000万円のうち1,000万円を払い出すことにしました。会社の総務課に払い出しの申込書を提出してから5日間ほどで預金口座に入金され、証券会社の口座に送金することができました。
まず購入したのが、世界の株価に連動するインデックス型の投資信託です。多くの個人投資家が「低リスクで確実に増える」とおすすめしている投資信託でした。
「1日でも早く運用に回して、早く儲けを得たい」という気持ちから、佐藤さんは思い切って1,000万円分を一括購入しました。
ちょうど相場が好調だったため、投資は順調そのものでした。購入した世界株は、なんと3ヵ月で1,000万円が1,080万円になりました。貯金では決してこのようなスピードで増えることはありません。
さらに利益を上げたいという欲望が膨らむ中、佐藤さんがネット検索をすると、「レバナスで送り人」「レバナスでFIRE」などの言葉が飛び込んできました。レバナスというのはブル・ベアファンドの一種で、ナスダック100指数に連動するレバレッジ(てこの原理)の効いたETFや投資信託のことです。
ナスダック100指数は、世界株の指数に比べて値動きの大きい指数です。その指数にレバレッジをかけるため、レバナスはハイリターンを狙えますが、当然リスクも高い商品です。
リスクのことはわかっていたものの、成功の甘い味を知った佐藤さんは、この相場なら大丈夫だろうし、少しでも早く投資の利益を増やしたいと考えました。そして、同じ投資額で2倍の利益を狙える2倍レバナスに手を出すことに決めました。この投資でどれだけの資産が増えるのか。心躍る思いで新たな投資の扉を開くことにしたのです。
そして、2倍レバナスに投資してからたった3週間で、1,080万円が1,120万円にまで増えました。世界株に比べてものすごいスピードで増えていきます。
すっかり投資のパワーに魅了された佐藤さんは、財形貯蓄の残り1,000万円全部を払い出すことにしました。そして、さらに今までの投資資金にこの1,000万円を加えた全額を、レバレッジの効いた3倍レバナスに投じることにしました。
しかし、そこには落とし穴が待ち受けていたのです。
ハイリスク商品に手を出してしまった佐藤さんの悲劇
2,000万円とそれまでの利益全額を3倍レバナスに投じた数日後、2,200万円まで資産が急増しました。佐藤さんは、その勢いに笑いが止まりません。
ところが、その後相場は急変します。
日本市場も米国市場も連日下落が続きます。そして、さらに日本の株式市場ではストップ安に、ニューヨーク市場も暴落してしまいました。
証券会社の口座の評価損益欄を見ていると、ピーク時に100万円ほどの利益だった3倍レバナスの評価損益がみるみるうちに激減して行き、ついに赤文字のマイナス700万円になってしまいました。佐藤さんの不安は増し、仕事が手につかない状態が続きました。
そして、最悪の状況を想像し、佐藤さんは思い切って売却を決断します。しかし、既に手遅れでした。
20年間をかけてコツコツと貯めた2,000万円がほんの半年ほどで1,400万円ほどに激減してしまったのです。彼の資産は一瞬で大きな損失に変わり、早期退職の夢は遠のいてしまいました。
早期退職の夢を脅かすブル・ベアファンドの仕組みとリスク
佐藤さんの物語は、単なる投資の成功と失敗の話ではありません。それは、夢を追い求める中で直面するリスクを浮き彫りにしています。彼が手を出したブル・ベアファンド(レバナス)は、一見魅力的に映りますが、その実態は非常に危険な一面を持っています。
ブル・ベアファンドは、特定の株価指数にレバレッジをかけて運用される投資信託です。つまり、相場が上昇すればその動きの2倍、3倍の利益を得ることができる一方、下落すればその損失も2倍、3倍になってしまいます。
ただし、信用取引とは異なり、審査を受けて特別な口座を作る必要はありません。通常の証券口座で普通の投資信託やETFを買うのと同じように簡単に購入できます。そのため、佐藤さんのように短期間に利益を狙えると考えて購入する投資家もいるでしょう。
しかし、ブル・ベアファンドは大きなリスクを内包しています。また、その特性上、相場が一方向に下落しなくても相場が横ばいや急激な変動を繰り返すだけで、投資額が減少してしまうという性質があります。これは「負の複利効果」とも呼ばれています。
一般的にインデックス運用は「ほったらかし投資」と言われることが多いですが、ブル・ベアファンドではそうはいきません。ブル・ベアファンドはその名の通り、上昇相場を狙うブル型と、下落相場を狙うベア型が存在しますが、どちらの戦略であっても相場の動きに非常に敏感であり、投資家は常に市場を注視する必要があります。
特に、相場が不安定な状況では、迅速な判断が求められます。佐藤さんが経験したように、相場の急変に対して無防備だった場合、早期に損失を確定させる選択を迫られることになります。これは、長期的な投資戦略を望む多くの投資家にとって、大きな落とし穴となるのです。
佐藤さんの失敗から学ぶべき教訓
資産を大きく減らした後、佐藤さんは昔買ったウォーレン・バフェット氏の自伝を読み返しました。この本を読んで、自分には投資は無理だと考えて、安全確実な財形貯蓄制度を利用して積み立てを始めたことを思い出しました。
しかし、そのことをすっかり忘れてしまい、正反対のことをしている自分の愚かさを深く反省しました。「投機は簡単そうに見える時ほど危ない」というバフェット氏の言葉が胸に突き刺さります。
100円単位で節約をして貯めたお金が自分の失敗で減り、早期退職の夢も遠のきました。一人部屋で涙をこぼし、これ以上ないほど落ち込んだ佐藤さん。しかし、65歳の定年までにはまだ時間がある。どうにもならないような失敗にならなかっただけマシだと考えるようになりました。
佐藤さんはハイリスクの投資にのめり込んでしまったことを後悔し、これまでの安全で着実な貯蓄に戻ることを決意。財形貯蓄制度の利用を再開しました。そして、定期的にファイナンシャル・プランナーのセミナーに参加し、投資や資産運用についての知識を深めながら、無理のない範囲でコツコツとリスクを抑えた積立投資を始めました。早期退職は確かに遠のいたものの、彼の心には新たな希望が芽生えてきました。
老後に向けた賢い投資法を見つけるために、佐藤さんの失敗から学ぶべき教訓は以下の通りです。
- 貯蓄の重要性:早期退職を夢見るなら、まずは低リスクで安定した方法でしっかりとした貯蓄を築くことが基本
- 投資のリスクを理解する:投資信託の仕組み、リスクをしっかり学ぶことが不可欠
- 老後資産作りにハイリスク商品は向かない:商品の仕組みやリスクを十分に理解していない投資家はブル・ベアファンドへの投資は避けるのが無難
- 成功体験に頼らない:過信は禁物です。成功体験があったとしても、リスクを軽視せず冷静に判断することが大切
- 相場の動きに敏感になる:投資で「ほったらかし」は危険です。投資を行う際は、市場の動向をチェックし、必要に応じて方針を見直すことが重要
- 専門家の意見を聞く:自分だけで判断せず、信頼できる専門家の意見を参考にすることも大切
投資は適切にリスクをコントロールすれば、インフレによる資産の目減りに対応したり増やしたりするのにはとてもよい選択肢の一つです。
しかし、この事例を通じて学んだように、投資には大きなリスクが伴うので過信は禁物で、冷静に判断することが重要です。佐藤さんの経験が、あなたの投資の旅において貴重な教訓となることを願っています。
ファイナンシャル・プランナー 青山創星
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