とんでもない失敗をしたかもしれない…。54歳独身女性、念願の「猫との暮らし」のため2,300万円の中古マンション購入するも、半年後「猛烈な不安」に駆られたワケ【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月7日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
賃貸暮らしを続けている人の中には、定年が近づいてきた時期に、老後を見据えて「自分らしい住まい」を確保したいと思う人もいるのではないでしょうか。しかし、慌てて家を購入すると失敗や後悔をすることになるかもしれません。今回は、猫と暮らすために中古マンションを購入したものの大きな不安を抱えることになってしまった54歳の女性を例に、住まいの選択をどう考えるべきか南真理FPが解説します。
「猫と一緒に暮らしたい」54歳独身女性の決断と、その後に溢れ出た不安
地方都市で事務員として働く大野真由美さん(54歳・独身)は、住宅ローンを組んで購入した中古マンションに半年前に引っ越しました。それより少し前の子猫との出会いが、大野さんの住み替えの理由です。
仲のよい友人が飼っている猫が子猫を生んだというので、大野さんは友人宅を訪れました。そして、生まれたばかりの子猫を抱き上げた瞬間、どうしても引き取りたいと思ってしまったのです。
大野さんの猫好きは親の影響が大きく、実家では猫のいる生活が当たり前でした。就職してからは都内のワンルームの賃貸マンションに引っ越し、この数十年で何度か引っ越しはしたものの、どこもペット不可の物件。しかし、心の底でずっと猫との暮らしを切望していました。
50代になり、節目の60歳まであと数年になった大野さんは、今後の生活を考えると猫との暮らしをどうしても実現したいと思ったのです。友人からも信頼できる大野さんであれば「喜んで子猫を譲りたい」と言ってもらいました。
大野さんは急いで住み替えのため物件を探し始めました。最初は賃貸をメインに探し始めたのですが、ペット可の賃貸物件は賃料が割高になることから、中古マンションの購入を不動産屋に提案されました。大野さん自身もそろそろ「終の棲家」を見つけたほうがいいのではと考えました。
そんな中、自分も猫も住みやすそうな物件を見つけた大野さん。不動産屋は「こんなに条件のいい物件、なかなか出ませんよ」「迷っているうちに先に買われてしまうかもしれません」と購入を急かしてきます。
猫と住める家を早く見つけなければ、という焦りもあった大野さんは、勢いに押される形で2,300万円の中古マンションを購入することに決めました。そこからはあっという間に話が進みます。節約してコツコツ貯めてきた貯金2,000万円の中から1,500万円を住宅ローンの諸費用やマンション購入の頭金に使いました。そしてローン1,000万円を組み、夢だった猫との新生活が始まったのです。
猫との暮らしは、この上ない幸福感がありました。しかし、「借金は少ない方がいい」と頭金を多く入れたことで、2,000万円あった貯金は500万円まで激減。絶対に猫のことを守らなければという責任も加わり、通帳を見るたびに大野さんは老後の暮らしに強い不安を感じるようになりました。
「万が一、住宅ローンを払えなくなったらどうしよう」「独身だからパートナーにも頼れないし、年老いた親にも負担はかけられないし……。もしかして家を買ったのは失敗だった?」
中古マンションを購入したことで、こんなにも不安を感じるとは思っていなかった大野さんの選択は、果たして正しかったのでしょうか。
大野さんの中古マンション購入、家計のプロはどう見る?
大野さんの家計収支を確認しつつ、50代で家を買う場合に経済的に配慮するべきチェックポイントを解説していきます。
〈プロフィール〉
大野 真由美さん(54歳):会社員
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〈収入〉
・現在~60歳(定年退職)まで 年収:410万円(手取り330万円)
・60歳(定年退職)~65歳まで 年収:280万円(手取り220万円)
・65歳からの公的年金受給予定額 年金:160万円(手取り146万円)
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〈支出〉
・年間の支出合計:年280万円
・生活費(食費・日用品費・光熱費・通信費):年108万円(月9万円)
・ペット代:年15万円
・小遣い(美容代・被服費等):年36万円
・住宅ローン:年88万円(月7.3万円。借入額1,000万円。返済期間11年(大野さん65歳時完済))
・住居費(固定資産税・修繕積立金等):年27万円
・保険料(医療保険):年6万円
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〈金融資産〉
・500万円
※60歳定年退職時、退職金1,000万円受給予定
※中古マンション購入前の金融資産:2,000万円
※中古マンション購入にかかった費用合計:1,500万円
(内訳)
・住宅ローン諸費用:10万円
・中古マンション購入諸費用:190万円
・中古マンション購入頭金:1,300万円
ポイント1. 無理のない返済計画を立てられているか?
50代で家を購入し、住宅ローンを組む場合には、働くことができる期間も限定されることや収入が下がる可能性にも配慮し、無理のない資金計画を立てる必要があります。
一般的に、住宅ローンを組む場合、返済率は手取り収入の20%、多くても25%までが理想とされています。今回の事例の大野さんの場合、現在の手取り収入330万円、住宅ローンの年間返済額が88万円となり返済率は27%と理想より上回っています。
また、大野さんは住宅購入時、諸費用や頭金で貯蓄を1,500万円使いました。大きな支出をカバーするためには、購入後の暮らしをコンパクトにしなければなりません。今の支出であれば、60歳定年退職までに、退職金1,000万円を含めて、約1,200万円を老後資金として貯えることができ貯蓄は1,700万円となります。また、65歳住宅ローン完済時の貯蓄額は1,400万円です。
ポイント2.貯蓄はいつまで持つ?65歳以降も働くことを検討
65歳から公的年金の受給がスタートします。しかし、健康で元気であれば、65歳以降も働くことで貯蓄の取り崩しを最小限に抑えることができます。とくに女性は長生きなので、資産がいつまで持つか確認することが大切です。
大野さんのケースでは、公的年金が年160万円のほかに65歳から70歳まで月10万円(年120万円)の収入があった場合、貯蓄額は70歳で1,850万円、80歳で1,600万円、90歳で1,340万円となります。かたや、65歳以降の収入が公的年金160万円のみの場合、70歳で1,200万円、80歳で950万円、90歳で720万円の貯蓄額です。
人によって必要な老後資金の金額は異なります。しかし、病気や介護、自宅の修繕等に備えるためにもできるだけ長く働き、貯蓄の取り崩しを最小限に抑えることが老後生活の安心に繋がります。
大野さんの中古マンション購入、家計のプロはどう見る?
上記のポイントを考慮しつつ、大野さんは中古マンションを買って問題なかったのかを改めて確認しましょう。
65歳から受け取る年金は年160万円(月13万円)になる予定です。貯蓄額が1,400万円とすると、住宅ローン完済後は、生活費や固定資産税・修繕積立金等で月15万円使ったとして、贅沢をしなければ90歳まで生きたとしても生活に困ることはないでしょう。そして、上述の通り長く働けば、よりゆとりある老後生活を送ることができます。猫との生活を守るためにも健康に配慮しながら、最低65歳までは働くといいでしょう。
また、頭金は物件費の2~3割を充てることが一般的であり、大野さんのケースでは460万円~690万円となります。しかし、大野さんは1,500万円を頭金やローンの諸費用に使っており、かなり多めです。
これで貯蓄が減ったことが大野さんの不安につながっていたわけですが、借入金額を減らすことで返済期間を短くすることができました。本格的に老後生活に突入するときにはローンも完済しています。公的年金のみの生活となると、収入も限られてくるため会社を退職するまでにローンを完済しておくという選択はよかったのではないでしょうか。
結果的には大野さんの選択は正しかったと言えますが、中古マンションの購入を決める前に専門家に相談し、ライフプランで確認していれば、こんなにお金のことで不安に陥ることはなかったかもしれません。
50代で住み替えするなら、賃貸か?家を買うか?
大野さんは家を買うという決断をしましたが、一般的に50代で住み替えを検討するのであれば、賃貸か家を買うか、どちらが最適なのでしょうか。それぞれのメリット・デメリットについて確認していきましょう。
賃貸に住み続けるメリット・デメリット
50代で賃貸に住むメリットは、今後のライフスタイルや健康状態の変化に応じて住まいを変えることができることです。将来の仕事の変化や介護が必要になったときでも賃貸であれば、柔軟に対応できます。また、建物の修繕や設備のメンテナンス費用、固定資産税も負担する必要がなく、予期せぬ出費を避けることができます。住宅ローンを組む必要もなく借金を負うリスクも避けることが可能です。
一方、デメリットは長期的にはコストが高くなることです。賃貸は家賃を一生払い続ける必要があります。ローンのように完済することがないため、総コストが高くなる傾向にあることも頭に入れておきましょう。特に、退職後に収入が減った場合でも、家賃の支払いは継続します。ペットを飼いたいという場合はペット可の物件を選ぶ必要がありますが、家賃は割高になるのが一般的です。
また、大家が家賃を上げる場合や、建物の老朽化によって退去を求められる場合もあります。特に高齢になると、新しい物件を見つけることが難しくなることがあるため注意が必要です。
持ち家を持つメリット・デメリット
次に、50代で家を買うメリットは、自分の住まいが確保でき退去の心配がなくなることです。ローン完済後に住居費の負担が減ることは、退職後に収入が減る可能性が大きいことを考慮すれば、大きな安心材料となります。また、住宅ローン減税などの税制優遇を受けられる場合があり、所得税の一部が控除されるメリットもあります。
それに対し、持ち家を持つデメリットは、住宅ローンの返済が負担になることがあげられます。厚生労働省が公表している「令和4年就労条件の総合調査」によると、定年制を定めている企業は94.4%となっています。
定年制のある企業のうち、定年退職の年齢を定めている企業は96.9%で、そのうち60歳を定年としている企業が72.3%です。(*1)50代で住宅ローンを組むとき、返済期間は20~30年ではなく、収入が確保できる10~15年程度に短縮されるケースもあります。返済期間が短くなることで、月々の返済額が高くなります。
また、持ち家の購入には多額の初期費用や頭金、を多めに支払うケースがあり、老後資金が不足するリスクがあることもデメリットと言えるでしょう。
賃貸か、家を買うかの判断は自分の理想とするライフスタイルを叶える目的で決めたいところですが、将来に渡って経済的に問題ないかどうかも大事なポイントです。メリット・デメリットをあげて比較検討し、自分にとっての最適な住まいを選択できるとよいですね。
50代以降の自分らしい住まいを選択するために
50代は、これからの人生をどのように過ごすかを見つめ直し、自分が理想とする暮らしを選択する大切な時期と言えます。賃貸か、家を買うのか、戸建てかマンションかどちらに住むかなど、住まいの選択肢は多様です。
その際に重要なのが、自分のライフスタイルや価値観に合った住まいを見つけることです。理想とする暮らしや住まい方はどんなイメージか、具体的に例をあげて優先順位をつけてみてはいかがでしょうか。
また、50代で住まいを変えるのであれば、事前準備なくして理想の暮らしは実現しません。収入と支出をしっかりと洗い出し、雇用継続後の収入見込み額や退職金について必要に応じて会社に問い合わせ、老後生活が困ることのないよう入念な資金計画を立てることが必要です。
大野さんも、猫との暮らしに喜びを感じる半面、経済的な不安に悩まされることになりました。せっかく叶えた暮らしなのに、不安と隣り合わせなんてもったいないですよね。
不安がつきまとう理由、それは老後の暮らしの可視化ができていないことです。収支が見通せていない50代の大きな買い物は、大変危険です。それが家となればなおさらでしょう。
大野さんのケースは、新しい家で“猫と暮らす“という理想の暮らしを手に入れることができましたが、一歩間違えれば老後破産・住宅ローン破産になってしまうことも。
こんなはずじゃなかったという老後を迎えないためにも、家を買う際には慎重に。資金計画は早めに行うことをおすすめします。
<参照>
*1 令和4年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/22/index.html
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