散財癖がついた原因は15年間にわたる職場でのいじめ。老後資金2,000万円が貯まった〈60歳おひとりさま女性〉が急に焦り始めたワケ「何とかしなきゃ」【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月4日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
2,000万円問題が話題になったのはもう過去のこと。でもそれを基準に考えている人も少なくありません。独身の美保さんもその1人でした。60歳の時点で2,000万円あれば老後はなんとか生活していけるだろうと思っていたのですが、それは大きな誤算だったのです。本記事では、CFPなどの資格を持つトータルマネーコンサルタントの新井智美さんが、老後に必要となる資産の目安について解説します。
老後にかかる生活費は?
総務省が発表している資料によると、65歳の単身高齢者世帯の1ヵ月の平均生活費は約15万円、年間にすると180万円です。そして、平均寿命(男性:81歳、女性:87歳)まで生きると仮定すると、男性で2,880万円、女性で3,960万円が必要になります。
もちろん、年金収入もありますが、同調査によると、年金収入の平均は約12万円、年間で144万円となっており、毎年36万円の赤字が発生することがわかります。
そのため、その差分をそれまでに準備していた老後資金でまかなうことになるわけですが、男性の場合576万円、女性の場合792万円を準備しておかなければなりません。
ただし、これは平均的な数値であり、本当に必要な老後資金は人によって異なります。
現在の資産は2,000万円と持ち家(マンション)
今年60歳になった美保さん。結婚する機会もなく、とくに結婚願望もなかったことから、これまでずっと独身で過ごしています。
美保さんは大学を卒業後、誰もが知る大手企業に勤めていたものの、会社で同僚の嫌がらせに悩む日々を送っていました。嫌がらせの発端はあるプロジェクトを担当した美保さんが大きな成功を収めたことです。会社からも大きく評価され、賞金ももらえたことから嬉しく思っていた美保さんですが、先輩女性からみたら面白くありません。
実は美保さんが入った会社はそれまでは女性は事務職しか採用しておらず、大卒の総合職として採用されたのは美保さんが初めてだったのです。もちろん美保さんのあとからも大卒の女性が採用されていましたが、事務職の先輩に遠慮しながら仕事をしている状態でした。
しかし、美保さんは「いただいた給料分働くのは当然のこと」と考え、仕事に真面目に取り組んだ結果、プロジェクトで成功を収めることができたのです。
それから、先輩女性の目が冷たくなり、「いい子ぶりっこ」と言われるように。挙げ句の果てには「あんたに真面目に仕事されると、こっちが仕事していないみたいに思われて嫌なんだけど……」とまで言われる始末。
実際、先輩女性は仕事中の私語が多かったり、勤務時間中に長時間席を外したりなど、あまり仕事に熱心ではなく、「別に普通にしていればお給料がもらえるんだからいいじゃん」という考えでした。
美保さんはその考えにどうしても納得できず、自分の意思を貫いたのです。どんなに嫌がらせをされても「真面目に仕事をしていたらいつかいいことがある」と思い、毎日仕事に取り組んでいました。
上司の男性は美保さんが孤立していることに気づいたものの、「女性同士の問題事に頭を突っ込むと余計なことにならない」と、美保さんの置かれている状況を放置していたのです。
ストレスで鬱病と診断…独立を決意
美保さんへのいじめは15年以上も続き、会社にいても仕事以外では誰とも話すことのない毎日。さらに仕事の早い美保さんには他の人の2倍以上の仕事を任され、それをこなさなければなりませんでした。周りが雑談している間も集中して仕事に取り組まなければ間に合いません。
そのころの美保さんのストレス解消法は服を買うことでした。お気に入りのセレクトショップで会社に着ていく服を選ぶ時間だけは楽しく、新作がでるとつい買ってしまうことも。一時は年間に200万円もの金額を洋服の購入に使ってしまうこともあったそうです。しかし、新しい服やバッグ、靴などを身につけて出社すると、「また男に貢いでもらってる」と裏であることないこと言われてしまうのです。
美保さんはある日、会社に行く支度をし、玄関を出ようとした瞬間うずくまってしまいました。会社に行くのが嫌だと身体が訴えてきたのです。その日は休みをもらい、病院で見てもらったところ鬱だと診断された美保さんはしばらく休職することになりました。そのときも先輩女性は「絶対に仮病だ」と噂を流し、美保さんは悔しさに涙が止まらなかったそうです。
心療内科に通いながら、抗うつ剤や精神安定剤、睡眠薬など多くの薬を飲み自宅で過ごす毎日。何をしても楽しいと感じることがなく、外に出る気も起きません。昔から好きだった読書や映画鑑賞すらできなくなっていました。本を読んでも文字が目に入ってこないのです。面白くもなんともありません。テレビを見ても笑うことすらできず、美保さんの顔からは次第に表情が失われていきました。
「頑張っていればいつかいいことがある」と思って続けた結果が鬱で休職。美保さんは自分の情けなさに泣かずにはいられませんでした。
傷病手当を受け取りながら会社を休めるのは最大1年6ヵ月です。美保さんは休み始めて半年経ったころから、もう会社に復帰することは考えなくなりました。
そして元々持っていた資格を活かし、独立することを決意したのです。
鬱の症状も次第に良くなってきた1年後、美保さんは会社を辞め、フリーランスとして働き始めました。最初こそは収入が少なく、生活が苦しい事もありましたが、時間の経過とともに順調に収入が得られるようになり、最終的には会社を辞めたころの年収を上回る収入を得られるまでに。
そして、余剰資金は運用に回すなどして60歳時点で2,000万円の資金を準備することができたのです。もちろん若いころに購入したマンションの返済も終えています。
受け取れるのは年金額満額ではない
美保さんは途中まで会社に勤めていたことから、その間の収入に応じた厚生老齢年金と老齢基礎年金が受け取れます。そしてねんきんネットで確認したところ、65歳で受け取れる年金額は年間150万円であることがわかりました。月に換算して12万5,000円です。上で紹介した例と同じですので、美保さんは2,000万円あるため、平均的な老後生活を送るには十分な資金を持っているといえます。
しかし、年金から税金や社会保険料を差し引かれると手取りの年金額は約1万円減り、11万5,000円程度になってしまうのです。そのため、生活費との差は毎年48万円になり、平均寿命まで生きるとしたら1,058万円が必要です。
それでも、2,000万円あれば大丈夫と言えるでしょう。
ただし、それは毎月15万円で生活できればの話です。美保さんの今の生活費は月25万円程度です。この生活を続ければ不足額は3,432万円まで膨れ上がってしまい、2,000万円では到底足りません。
焦った美保さんはリタイア後の生活レベルをどのようにするか考える事にしました。
リタイア後の生活レベルを考える
現在の美保さんの支出のなかで大きな割合を占めているのは、衣料・美容代と車の維持費、そして保険料です。
美保さんは今でも服が好きでお気に入りのセレクトショップで服を購入することが多く、その費用がかかっているほか、毎月ネイルサロンやエステにも通っています。化粧品も好きなブランドのものを長年愛用している状況。今後はそれらの費用を削減することで、生活費を下げることができるでしょう。もちろん保険の見直しも必要です。
また、車は現在親の介護で必要なため保有していることもあり、親が亡くなったあとには車を持たない生活でもいいかと思っています。
美保さん自身、今は余裕のある生活を送っているという自覚があるため、これからの生活レベルを徐々に落としていくつもりです。
物価上昇や保険料、医療費の増加も視野に入れる事が大切
年金の受取額は受け取り開始時で決まります。もし65歳から受け取るとしたら、その額が生涯受け取れます。
ただ、今後物価や医療費の上昇、さらには社会保険料の増加も考えなければならないほか、高齢者の医療費負担も増加する可能性も否定できません。
またマンション暮らしなら毎月管理費も払わなければなりませんし、介護状態になったときにどうするかも考えなければなりません。美保さんの場合はローンも完済しているため、売却して入居費用に充てることもできるでしょう。ただ、売却価格で足りるのかという心配も拭えません。
リタイア後に一気に生活レベルを下げられる人はなかなかいません。それどころか、今までできなかった旅行などを考える人もいます。であれば、それらの費用も準備しておく必要があります。
また、老後資金については運用しながら切り崩す考えも大切です。NISAの制度を利用しながら債券などをメインとした安定運用を行い、利益の一部を生活費として使ってもいいでしょう。
美保さんは65歳までは今の仕事を続け、リタイアするつもりです。それまでに貯蓄をさらに増やすことはもちろん、リタイア後の生活レベルをどう見直すかについて専門家への相談も視野に入れながら考え始めています。
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP
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