なにも理解できません…年収850万円の51歳団塊ジュニア父、Z世代息子の就職祝いにブランド時計を贈り男泣き。一転、半年後「退職代行を使って辞めた」にフリーズ【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月5日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
働き方に対する考え方は、ひと昔前と大きく変わりました。転職や起業などにより理想を叶えようとする若者たちの一方で、異なる世代からは、理解しがたいものがあるようです。本記事では、Aさんの事例とともに生涯におけるジョブプランについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
息子の就職を祝った家族
Aさんは食品加工の企業に勤める51歳のサラリーマンです。Aさんの年収は現在850万円ほど。妻(48歳)は家計を助けるためにパート勤めをしています。一人息子のBさんは中程度の成績ですが、今年の春に大学を卒業し、無事都内のIT関連の企業に正社員として就職することができました。Aさんは、それぞれ仕事や学業で忙しくても、ときどき外食したりLINEグループでまめに連絡を取り合ったりして、「うちの家族は仲がいい」と思っていました。
Aさんは団塊ジュニアの世代であり、受験戦争も激しい時代で、猛勉強の末、希望の大学に入学できた人です。しかし、大学を卒業したころはバブル崩壊による経済的な不況の影響で新卒者の採用枠を減らした企業も多く、ここでもAさんは苦労してなんとか正社員として就職することができました。
正社員で就職したことで、ちゃんと就職できなかった仲間たちから妬まれたこともあります。しかしながら「失われた30年」を会社員として過ごしてきた生活は決して安泰ともいえず、特にここ数年は円安の影響で仕入れ価格等が上昇したことにより、会社はさらに厳しい状況です。そんななか、無事にBさんを大学まで卒業させ就職も決まったことで「やっと肩の荷が下りた。苦労したかいがあったね」と妻とともに息子の就職を大喜び。少し涙も出てしまいました。甘やかしすぎかなと思いつつも、就職祝いにはブランドものの時計を買ってあげました。
息子は大学卒業後、通勤に便利なようにアパートで一人暮らしをスタートさせ、Aさんたちとは別居することになりました。妻は一人息子のBさんが可愛くて仕方なく、パートの仕事の合間をみつけては電車を乗り継ぎ、合鍵を使って息子の部屋に入ってせっせと掃除をしたり料理を作り置きしたりしていました。
そんな母親をBさんは疎ましく思うでもなく「いつもありがとう」と感謝していました。
えっ、噓でしょ!? なんで会社辞めたの?
ある日、Aさんの妻はいつものように電車を乗り継いで息子のアパートに向かいました。合鍵を使って部屋に入ろうとすると中からチェーンがかかっており、息子が部屋にいることがわかりました。
中にいれてもらい、「Bちゃん、どうしたの? 風邪でもひいたの? 会社はどうしたの?」と聞くと、息子は「会社? 辞めたんだよ」とあっさり答えます。
これにAさんの妻は非常に驚き、理由を聞きましたが、ショックが大きすぎて息子の言い分が頭に入ってきません。Bさんは春に就職したばかりでまだ半年も経っていなかったのです。衝撃を受けた妻はとりあえず帰ってAさんに相談することにします。
息子の退職理由
仕事から帰宅後に息子が退職したことを聞いたAさんは言葉を失い、固まります。なんとか息子に電話をかけますが、でません。LINEで週末に戻ってきちんと説明するよう求めると1分も経たないうちに既読がつきます。息子からは悪びれた様子もなく「いいよ」の一言返信がきました。
「息子は会社をクビになったのか?」と一時は心配したAさんでしたが、帰宅した息子から自ら辞職したことを聞き、理由を問いただします。息子は「実際に仕事をしてみるとやりたい仕事じゃなかったんだ。なにがやりたいんだって言われてもまだはっきりしないんだけどね。でもいまの仕事を続けても自分は成長できないんじゃないか、と感じるんだよ。先輩なんかを見てるとわかるんだよ。それにお母さん、僕が朝苦手なの知ってるでしょ。満員電車も苦手だよ。家でできない業務内容でもないのに、ネットの時代にわざわざ出社なんておかしいでしょ。上司もうるさすぎるしさ。残業だってキツいから、余計朝起きれないんだよ」などと言います。
そんな理由が会社に通じたのか、と聞くと「退職代行サービスを使ったから簡単に辞められたよ」といいます。たしかにLINEでは、「仕事が大変だよ」「朝起きるのが辛いんだ」と言ってきたことはありますが、働く夫婦にとっては当たり前のことと感じて「頑張れよ」「夜更かししないでね」と返す程度でした。
高校時代からやっとの思いで大学に入り、就職でも苦労したAさんには息子の気持ちがわかりません。親子とも仲がよく、息子の気持ちはわかってきたつもりだったのにいまはまったくわからないのです。
これからどうするのか、アパートの家賃や生活費はどうするのか、と息子の考えを聞いてみました。Bさんは、「また仕事を探すよ。募集はいくらでもあるし。しばらくしたら会社を興すかもしれないけれどお父さんに迷惑はかけないから」と言います。
売り手市場の時代と離職率
文部科学省と厚生労働省は、2024年春に卒業した大学生の4月1日時点の就職率が98.1%だったことを発表し、この数値は調査開始以来最高値となっています。その反面、離職率も高くなっています。厚生労働省の調査によると、2021年3月に大学を卒業した新卒就職者のうち、3年以内に離職した人は34.9%で、直近15年のなかでは最も高い数値となったため、ニュースでも報道されました。
しかし、30年以上の長いスパンで見ると特別に高い数値でもありません。それぞれの時代背景によって若者の離職理由は違うのでしょうが、人口減少による働き手不足が進む日本では若者の「売り手市場」は当面続くと思われます。
■参考:過去30年間の主な出来事
平成7年 阪神大震災 平成9年 北海道拓殖銀行・山一証券が破綻 平成12年 ITバブル崩壊 千代田生命などが破綻 平成13年 アメリカ同時多発テロ 平成18年 「格差社会」が流行語に。 平成20年 リーマンショック、株価最安値 平成23年 東日本大震災 平成25年 「ブラック企業」が流行語に。 令和2年 新型コロナショック
父親の決断
息子の言い分をひととおり聞いたあと、Aさんは怒るでもなく諭すでもなく、ただ次のように語りました「お前が将来成功したとしても、お父さんたちは面倒を見てもらうつもりは一切ないからね。その代わりお父さんもお母さんもお前の面倒はもうみないよ」。
息子が帰ったあと、Aさんは妻に次のように言いつけます。
「もうBのアパートに行くんじゃない。俺の親父の世代なら『好きなようにやれ。失敗しても面倒みてやる』という人もいるんだろうが、俺たちの世代は親の面倒も満足にみられないし、社会人になった子どもの面倒までみられないんだよ。自分たちの生活で一杯一杯なんだ。お前だってわかるだろ。俺ももう疲れたよ。大学を卒業して『失われた30年』を生き残るためにずっと戦ってきたし、こんな人生はこれからもまだまだ続くんだ。
仕事なんて毎日辛いことだらけだよ。その辛さのなかから少しずつやりがいや喜びを見出していくものなのに。その前に辞めてしまうなんて。新入社員の初任給を上げるために、そのしわ寄せは俺たち既存社員にくるんだよ。そしてその新入社員はBみたいに簡単に辞めていくんだ。BにはBの言い分があるだろうが、もう話を聞いてやる余裕なんてないんだよ。俺も定年まで正社員で仕事が続けられるかどうかわからない。覚悟してくれ」
妻はあんなに仲のよかった家族がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じ、声も出ませんでした。
〈参照〉
※厚生労働省 「学歴別就職後3年以内離職率の推移」
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001318986.pdf
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
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