日本株は「徐々にレンジを切り上げる展開」を予想 ~先月の金融市場の振り返りと見通し【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月7日 9時50分
(※写真はイメージです/PIXTA)
※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。2024年10月のマーケットを振り返り、「1. 概観、2. 景気動向、3. 金融政策、4. 債券、5. 企業業績と株式、6. 為替、7. リート、8. まとめ」のそれぞれについて解説します。
1.概観
【株式】
10月の主要国の株式市場は、日本を除き下落しました。米国株式市場は、米景気のソフトランディング(軟着陸)観測が強まり、一時最高値を更新しました。しかし、11月5日の米大統領選挙を控えたリスク回避の動きなどから月末にかけて値を崩し、前月比で下落して終了しました。欧州の株式市場は、製造業を中心に業績の下方修正が発表され、軟調な展開となりました。一方、日本株式市場は、米景気のソフトランディング期待や円安進行を背景に投資家のリスク選好姿勢が強まり、4ヵ月ぶりに上昇しました。衆議院選挙で与党が過半数割れとなりましたが、経済対策の規模拡大期待などが相場を後押ししました。中国株式市場は、前月の急上昇の反動もあり、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに反落しました。
【債券】
米国の10年国債利回り(長期金利)は、9月の雇用統計を受けて米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースが緩やかになるとの観測が広がったことなどから大幅に上昇しました。ドイツの長期金利は、欧州中央銀行(ECB)が10月の理事会で追加利下げを決めたものの、米長期金利に連れて上昇しました。日本の長期金利も、米長期金利の上昇などを受けて上昇しました。
【為替】
円の対米ドルレートは、米長期金利が大幅に上昇したことや日銀の早期利上げ観測の後退もあり、先月末の143円台半ばから152円近辺に下落しました。
【商品】
原油価格は、中東情勢の緊迫化がやや緩和したものの、石油輸出国機構(OPEC)プラスの増産が延期されるとの報道などから上昇しました。
2.景気動向
<現状>
●米国の7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.8%と、前期の同+3.0%から減速したものの堅調な個人消費が牽引し高成長を保ちました。
●欧州(ユーロ圏)の7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.5%と、パリオリンピックのプラス効果もあり、前期の同+0.8%から加速しました。
●日本の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.9%と、2四半期ぶりにプラス成長となりました。個人消費が5四半期ぶりのプラスとなりました。
●中国の7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.6%と、前期の同+4.7%から減速しました。引き続き需要不足により内需が停滞しました。
●豪州の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.0%と、前期から減速しました。物価高で個人消費が伸び悩み、前期比は+0.2%でした。
<見通し>
●米国は、これまでの利上げに伴う景気抑制効果に加え、コロナショック後のペントアップ需要の一巡、財政刺激効果の縮小などから、景気が緩やかに減速すると想定しています。個人消費が底堅いことや企業収益が好調なことから、景気の後退は避けられ、ソフトランディングに至るとみています。
●欧州は、生産の減少などから低成長が続くとみられます。インフレの鈍化による購買力の回復、EU復興基金などの財政支援などが景気を下支えするものの、ドイツを中心に製造業の低迷から景気は弱い動きが続くとみられます。
●日本では、インフレ圧力の継続により個人消費が力強さを欠くものの、賃金の上昇、経済対策(定額減税・給付金)、省力化やデジタル化などの設備投資の増加、堅調なインバウンド消費、底堅い米景気を背景に持ち直し、緩やかな成長軌道を辿る見通しです。
●中国は、不動産市場の低迷に加え、海外企業の投資減少や若年層の雇用悪化などから個人消費も力強さを欠き需要不足が続くことから、景気が徐々に減速するとみられます。ただし、金融緩和や政府の住宅対策、拡張財政により急激な減速は避けられる見通しです。
●豪州は、中国景気の減速やこれまでの利上げの累積効果、粘着質なインフレにより個人消費の回復が緩慢となるものの、拡張的な財政政策の下支えや先行きのインフレの鈍化により徐々に持ち直し、回復傾向を強めるとみられます。
3.金融政策
<現状>
●FRBは9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(フェデラルファンド〔FF〕金利)の誘導目標を0.5%引き下げ、4.75~5.00%としました。FOMC参加者による金融政策の見通しは、年内残り2回の会合で0.25%で2回分の利下げを行う内容となりました。
●ECBは10月の理事会で、政策金利を0.25%引き下げることを決めました。9月から2会合連続の利下げで預金ファシリティ金利は3.25%に引き下げられました。ラガルド総裁は記者会見で、「経済成長のリスクは下振れ方向にあり、物価も下振れするリスクがある」と記者会見でコメントしました。
●日銀は10月の金融政策決定会合で、政策金利(無担保コール翌日物金利)を0.25%で据え置くことを決めました。植田和男総裁は記者会見で、政策判断を巡り、これまでの「時間的な余裕がある」との表現を使いませんでした。
<見通し>
●FRBは、インフレが鈍化していることや米景気に減速の兆しがみられることから、11月、12月の会合でそれぞれ0.25%の利下げを実施すると予想します。その後は概ね四半期に一度のペースで0.25%ずつ引き下げると想定しています。
●ECBは、インフレが低下していることや欧州経済が低成長を続けていることから、12月の会合でも0.25%の利下げを実施すると予想します。その後も賃金、インフレのデータを確認しながら、0.25%の利下げを続けると想定しています。
●日銀は、景気が力強さを欠いているため当面政策金利を据え置くものの、先行きは金融政策の正常化に向けて追加利上げを実施するとみています。政策金利は、25年1月に0.50%、25年7月に0.75%への引き上げを想定しています。
4.債券
<現状>
●米国の10年国債利回り(長期金利)は、9月の雇用統計が市場予想を上回り、FRBの利下げペースが緩やかになるとの観測が広がったことや、トランプ前大統領が勝利した場合のインフレ圧力の高まりが意識され、大幅に上昇しました。
●ドイツの長期金利は、ECBが10月の理事会で0.25%の追加利下げを決めたものの、米長期金利に連れた格好で上昇しました。
●日本の長期金利も、米長期金利の上昇などを受けて上昇しました。衆議院選挙後は、財政拡張への警戒感から、高止まりしています。
●米国の投資適格社債については、米景気は堅調との見方が広がり、社債スプレッド(国債と社債の利回り差)は前月比で縮小しました。
<見通し>
●米国の長期金利は、FRBによる利下げをある程度織り込んでいるとみられるため、当面もみ合う動きを想定しています。ただし、FRBは今後も中立金利に向けて利下げを緩やかなペースで継続すると見込んでおり、長期金利は徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。
●欧州の長期金利は、ECBが追加利下げを継続すると想定していることから、緩やかに低下する展開を予想します。
●日本の長期金利は、日銀が金融政策の正常化路線を維持していることから、追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。
5.企業業績と株式
<現状>
●米ファクトセット(FactSet)によれば、日米の企業業績は好調を維持しています。10月末の米S&P500種指数の予想1株当たり純利益(EPS)は前年同月比+11.0%、TOPIXの予想EPSは同+14.7%と、いずれも2桁の伸びとなりました。
●米国株式市場は、米景気のソフトランディング観測から一時最高値を更新しました。しかし、11月5日の米大統領選を控えたリスク回避の動きなどから月末にかけて値を崩し、前月比で下落して終了しました。NYダウは前月比▲1.3%、S&P500種指数は同▲1.0%と、小幅安となりました。
●日本株式市場は、米景気のソフトランディング期待や円安進行を背景に投資家のリスク選好姿勢が強まり、4ヵ月ぶりに上昇しました。衆議院選挙で与党が過半数割れとなりましたが、経済対策の規模拡大期待などが後押ししました。日経平均株価は前月比+3.1%、TOPIXは同+1.9%でした。
<見通し>
●米国株式市場は、FRBによる利下げが開始され、米景気のソフトランディング観測が高まっていることから適温相場が続くとみています。米大統領選挙や地政学リスクの不透明感などから変動性が高まる局面が想定されるものの、電力インフラを含むAI関連投資の拡大やサービス支出を中心に消費が堅調なことによる企業業績の拡大が見込まれるため、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。
●日本株式市場は、衆議院選挙での与党過半数割れを受け、野党との政策協調や来年夏の参院選に向け支持率回復のため経済対策の規模が拡大するとの期待が相場を下支えするとみています。政治の不透明感や日銀の金融正常化路線から上値が重いものの、日本企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革の動きは変わらず、需給面から企業の自社株買いも期待できるため、徐々にレンジを切り上げる展開を予想します。
6.為替
<現状>
●円の対米ドルレートは、米長期金利が上昇したことなどを受けて大幅に下落しました。米雇用統計が想定外に強く、米長期金利が上昇したことや衆議院選挙で与党が過半数割れとなり、日銀の追加利上げが遅れるとの見方などから、前月末の143円台半ばから152円近辺に下落しました。
●円の対ユーロレートは、165円半ばに下落しました。ユーロは、ECBの連続利下げを受けて対米ドルで下落した一方、対円では上昇しました。
●円の対豪ドルレートは、下落しました。豪州中央銀行の利下げが先になるとの見方から、豪ドルは堅調な動きとなりました。
<見通し>
●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると予想します。FRBの利下げ継続と日銀の追加利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。
●円の対ユーロレートは、ECBによる追加利下げと日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。
●円の対豪ドルレートは、豪州の先行きの利下げや日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。
7.リート
<現状>
●グローバルリート市場(米ドルベース)は、米長期金利が大きく上昇したことが嫌気され、大幅安となりました。S&Pグローバルリート指数のリターンは前月末比▲4.6%となりました。一方、円ベースのリターンは、為替効果がプラスに寄与し、同+1.6%となりました。
●米国は、長期金利が大幅に上昇したことから大きく調整しました。欧州やアジアは、長期金利の上昇や米国リートの下落を嫌気して軟調な展開となりました。日本は、銀行がリートの保有ポジションを縮小しているという需給要因もあり、下落しました。
<見通し>
●グローバルリート市場は、米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。
●米国はFRBによる利下げ継続や景気のソフトランディングを背景に上昇基調を予想します。欧州はECBの追加利下げに伴う回復を予想します。アジア・オセアニアは景気の回復基調を背景に緩やかな上昇を予想します。日本もオフィス賃料の改善を背景に持ち直すと予想します。
8.まとめ
【債券】
●米国の長期金利は、FRBによる利下げをある程度織り込んでいるとみられるため、当面もみ合う動きを想定しています。ただし、FRBは今後も中立金利に向けて利下げを緩やかなペースで継続すると見込んでおり、長期金利は徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。
●欧州の長期金利は、ECBが追加利下げを継続すると想定していることから、緩やかに低下する展開を予想します。
●日本の長期金利は、日銀が金融政策の正常化路線を維持していることから、追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。
【株式】
●米国株式市場は、FRBによる利下げが開始され、米景気のソフトランディング観測が高まっていることから適温相場が続くとみています。米大統領選挙や地政学リスクの不透明感などから変動性が高まる局面が想定されるものの、電力インフラを含むAI関連投資の拡大やサービス支出を中心に消費が堅調なことによる企業業績の拡大が見込まれるため、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。
●日本株式市場は、衆議院選挙での与党過半数割れを受け、野党との政策協調や来年夏の参院選に向け支持率回復のため経済対策の規模が拡大するとの期待が相場を下支えするとみています。政治の不透明感や日銀の金融正常化路線から上値が重いものの、日本企業のコーポレート・ガバナンス改革の動きは変わらず、需給面から企業の自社株買いも期待できるため、徐々にレンジを切り上げる展開を予想します。
【為替】
●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると予想します。FRBの利下げ継続と日銀の追加利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。
●円の対ユーロレートは、ECBによる追加利下げと日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。
●円の対豪ドルレートは、豪州の先行きの利下げや日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。
【リート】
●グローバルリート市場は、米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。
●米国はFRBによる利下げ継続や景気のソフトランディングを背景に上昇基調を予想します。欧州はECBの追加利下げに伴う回復を予想します。アジア・オセアニアは景気の回復基調を背景に緩やかな上昇を予想します。日本もオフィス賃料の改善を背景に持ち直すと予想します。
石井 康之
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフリサーチストラテジスト
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『日本株は「徐々にレンジを切り上げる展開」を予想 ~先月の金融市場の振り返りと見通し【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】』を参照)。
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