「万一に備えた保険加入」「一獲千金を夢見る宝くじ購入」…一見相反する行動の意外な共通点【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月10日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
日本人は保険が大好きだ、といわれていますが、一方で宝くじも人気があります。大損を防ぐ保険と大儲けを狙う宝くじは、一見すると正反対に見えますが、実は結構似ています。両者が似ている点について考えてみましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
共通点①…いずれも「損な取引」である
保険も宝くじも、確率的には客が損をする(期待値がマイナスだ、といいます)取引です。客が払った保険料と客が受け取る保険金では前者のほうが大きく、客が購入時に支払った宝くじ購入代金と当選客が受け取る賞金では前者のほうが大きいのです。
それを確かめるために、保険会社のホームページや宝くじ発行体のホームページを調べる必要はありません。もしも客が払った金額と受け取る金額が同じであれば、保険会社や宝くじ発行体は人件費等が支払えずに倒産しているはずだからです。
余談ですが、筆者の好きな言葉に「相手の立場で物を考えろ」があります。優しい気持ちを持て、ということではありません。「自分が保険会社の社長だったらどうするか」を考えることで答えが見えてくることは意外と多いのです。
たとえば、絶対儲かる商品を売ってくれるという人に会ったら、「自分が絶対儲かる商品を持っていたら見知らぬ人に売ってあげるだろうか」と考えるとよいでしょう。
将棋や囲碁の対戦時は、自分の好きな手ではなく、相手が最も嫌がりそうな手を打つべきですし、ビジネスにおいてもライバルが最も嫌がりそうなことは何かを考えることは重要ですね。
共通点②…とはいえ、「不合理」とは限らない
宝くじは損な取引ですが、宝くじを買うことが不合理とは限りません。宝くじを買ってから当選番号発表まで「当たれ」と念じ続けることができ、「当たったら何を買おうかな」と考え続けることができるのですから、購入代金の数百円など安いものです。
保険加入も損な取引ですが、場合によっては絶対必要です。家族を養っている一家の大黒柱は、生命保険に加入しておかないと、万が一のときに家族が路頭に迷いかねませんから、保険に加入しましょう。自動車を運転するときも、大事故を引き起こして億円単位の損害賠償を請求される可能性がありますから、保険に加入しましょう。
もっとも、保険の場合には不必要なものも多いので、その点には慎重な検討が必要です。たとえば独身者や2人とも正社員として働いている夫婦、退職金受領後の元サラリーマンなどは、自分が死んでも(悲しむ人はいるでしょうが)生活面で路頭に迷う人はいないでしょうから、生命保険は不要です。
共通点③…加入したい・買いたいと感じるのは、脳の錯覚の影響
目の錯覚は有名ですが、脳も錯覚します。たとえば、非常に低い確率は実際より高いと感じるのです。宝くじが当たるような気がするのも飛行機が落ちそうな気がするのも、この錯覚によるものです。自分が死んだり運転で大事故を引き起こしたりするリスクが気になるのも、この錯覚のせいでしょう。
この錯覚が、宝くじを買いたいと思わせたり保険に加入しようと思わせていたりするのであれば、保険会社や宝くじ発行体にとって都合のよい錯覚ですね。一方で、宝くじを買った人や保険に入った人にとっても、宝くじを買ったり保険に加入したりするメリットを大きくしているのです。
「当たったら何を買おうかな」とワクワクしながら当選番号発表を待つ喜びが大きくなるわけですし、万が一のことがあったらどうしよう、という不安が大きいために保険に入ったことで大きな安心感を得ることができるわけですから。
本質は同じもの
実は、保険と宝くじの本質は同じなのです。皆から金を集めて特定の人に大金を渡す、というものだからです。保険の場合は運の悪い人に、宝くじの場合は運のいい人に、という違いがあるだけです。
「自分が死んだら遺族に保険金が支払われる」というのが生命保険ですが、「隣の村長が死んだらあなたに保険金を支払います」というのは宝くじですね。もっとも、実際にはそんな保険は売っていません。隣の村長が死ぬことを望む人が出てくるだけでも問題ですし、万が一にも隣の村長を殺そうとする人が出てくると困りますから。
実際に売っているのは、株価暴落保険(プットオプションという名前です)です。仕組みは複雑ですが、「プットオプションを買って持っていると、株価が暴落しなければ何ももらえないが、株価が暴落したら大金がもらえる」と考えてください。
もともとは、株を持っている人が「株価が暴落したときの損失を補填してもらう」ために買うもの(保険)として開発されたわけですが、株を持っていない人が買えば宝くじと同じですね。少ない資金で大儲けを狙うことができるわけですから。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家
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