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賃貸物件オーナーが「サブリース契約更新解除」を勝ち取った令和5年の判例…今後の同種事例の指針に【弁護士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月7日 11時15分

賃貸物件オーナーが「サブリース契約更新解除」を勝ち取った令和5年の判例…今後の同種事例の指針に【弁護士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

賃貸物件オーナーがしばしば頭を悩ませる「サブリース」契約ですが、令和5年4月、「サブリース契約の更新拒絶」を認めた判決が下されました(東京地裁令和5年4月27日判決)。これは、今後の同種事例の指針のひとつになると考えられます。果たしてどのような内容なのでしょうか。日本橋中央法律事務所の山口明弁護士が法的目線から平易に解説します。

サブリース契約を解除し、物件を売りたい…オーナーの切実事情

賃貸物件オーナーがサブリース業者に対し、建物または居室を使用収益させ、その対価として賃料を支払う「サブリース契約」。一見利便性が高いしくみですが、オーナーとサブリース業者との間で、しばしば契約内容や費用をめぐるトラブルが発生しています。サブリース会社との契約解除のむずかしさもそのひとつだといえます。

今回、サブリース契約の更新拒絶を争った直近の裁判事例(東京地裁令和5年4月27日判決)では、一定の立退料を支払うことにより、正当事由(借地借家法28条)が認められました。そしてこの判決は、今後の同種事例の指針のひとつになると考えられます。どのような要素が考慮されたのか、具体的に見ていきましょう。

まず、本判決において「原告(賃貸人のこと)」は、下記①②のような問題を抱えており、その解決策として③を取りました。

①裁判の対象となった賃貸物件を購入した令和3年2月頃、自宅購入のために住宅ローンの事前審査を受けたところ、この物件購入のためのローン残債務が原因で審査が通らなかった

②上記の残債務を減らすために本件物件を売却することを計画したが、不動産会社から、本件物件のようにサブリースが付いた収益物件の売却はむずかしく、相当に価格を下げなければ売れないといわれた

③そのため、本件賃貸借契約を終了させることを希望し、その更新をしない旨の通知をした

つまり、原告である賃貸物件オーナーは、該当の物件をできる限り高額で売却しようと考え、サブリース契約を更新しない旨の通知をしました。

これについて裁判所は、下記のように判示しました。

このような事情は、典型的な「建物の賃貸人建物の賃貸人・・・が建物の使用を必要とする事情」(借地借家法28条)とはいい難いものの、これに該当し得る事情とはいえるのであって、他の事情との総合的な考慮により、正当な事由があると認められることもあり得るというべきである。

なお、『一問一答新しい借地借家法』(法務省民事局参事官室編、49頁)にも、「『借地権設定者が土地の使用を必要とする事情』および『借地権者が土地の使用を必要とする事情』においては・・・地主が土地を売却しなければならないという事情も、評価は低くなりますが、これに準じて扱うことはできるでしょう。」という記載があります。

「契約に定められていた、ある一文」が判決の論拠に

これらを踏まえたうえで、本判決は下記のように判示しています。

そこで他の事情について検討すると、まず、本件賃貸借契約の賃借人である被告が本件物件の使用を必要とする事情は、本件物件を転貸することにより経済的利益を得ることに尽きる。 そして、…本件賃貸借契約は、契約期間開始から1年経過後は、6ヵ月間の予告期間をもって3ヵ月分の賃料に相当する額を支払えば、賃貸人が解約権を行使し得る旨の定めを置いており、この定めの限度では被告の経済的利益を確保する趣旨であると解されるが、被告においてこれを超える経済的利益を当然に確保することを期待し得るものではない。 また、被告において、賃貸人からの本件賃貸借契約の解約又は更新拒絶をより困難にする定めを置くことに支障があったことをうかがわせる証拠もない。

つまり、賃借人(サブリース会社)の使用の必要性を、

①本件物件を転貸することにより経済的利益を得ることに尽きる

と明確に述べたうえで、

②賃貸借契約において、3ヵ月分の賃料に相当する賃料を支払えば賃貸人が解約権を行使できると定めているから、これを超える経済的利益を当然に確保することを期待できない

と判断したのです。この点が「画期的」だといえる理由です。

さらに、サブリース契約において転借人(入居者)が存在する場合には、転借人の使用の必要性も考慮しなければなりませんが、その点は下記のように判示しています。

本件物件は居宅であるから、その転借人が本件物件の使用を必要とすることは容易に想定し得るものの、本件賃貸借契約が更新拒絶により終了したとしても、原告が本件物件の転貸借契約における被告(転貸人)の地位を承継することとなるから、上記転借人を保護するために本件賃貸借契約の更新拒絶を制約すべきものとはいえない。

類似の事案の参考になる内容が複数散りばめられたケース

そのうえで本判決は、契約解除の正当事由について下記のように認めました。

以上の事情を総合的に考慮すると、原告が本件物件の使用を必要とする事情が典型的なものでなく、他方、被告が本件物件の使用を必要とする事情が経済的利益を得ることに尽きること等に鑑み、立退料の額について、本件賃貸借契約に定めるものの2倍である6ヵ月分の賃料に相当する額とすれば、原告による本件賃貸借契約の更新拒絶には正当な事由があると認められる。

以上のとおり、本判決については、類似の事案において参考とすべき内容がいくつも含まれています。今後、サブリース契約の更新拒絶等にあたっての正当事由を判断する際の重要な指針となるものだといえるでしょう。

なお、賃貸借契約に「賃貸人から3ヵ月の賃料相当分を支払えば解約権を行使できる」という条項が存在しない場合は、どの程度の立退料が必要になるのかという点については射程の範囲外であるので、今後、裁判所の判断が待たれるところだといえます。

山口 明 日本橋中央法律事務所 弁護士

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