趣味は父の高級外車を乗り回し“推し活”…親の年金〈月25万円〉で気ままに暮らす“自称作家”53歳息子が血相を変えた、銀行からの「まさかの宣告」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月8日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
潤沢な資産のある家に生まれれば、仕事をせずとも不自由なく暮らしていけるのに、と一度は考えたことがある人も多いのではないでしょうか? しかし、そうたやすくもいかないのが、人生なのかもしれません。今回、資産家の長男として暮らす、現在50代の男性の身に起こった出来事を、CFPでFP事務所MIRAI代表の山﨑裕佳子氏が解説します。
“おまえも医者になれ”…英才教育を受けたマサキさんの「挫折」
育ってきた環境を「当たり前」と思い込んで大人になると、あとから同世代の周囲と同レベルの生活ができていないことに気がつき、自身の世間知らずを思い知らされることがあります。
気づいてから身の丈に合った生活に修正できればいいものの、修正が難しく、“あとのまつり”になってしまうことも……。
先祖代々資産家で開業医というエリート一家に生まれた大西マサキさん(仮名・現在53歳)。マサキさんの曾祖父も父も医者で、地元で評判のいい開業医です。マサキさんも幼いころから「おまえも将来は医者になれ」といわれ、幼少期から英才教育を受けてきました。
第一関門ともいえる中学受験を突破し、難関の中高一貫校に入ったマサキさんでしたが、入学してみると自分より優秀な同級生が大勢おり、自信を喪失してしまいます。マサキさんにとって、初めての挫折でした。
そんなマサキさんとは裏腹に、親は潤沢な教育費のもとで評判のいい家庭教師をつけ、「医学部合格」のために全力を注ぎます。学年が上がるにつれ、“無気力状態”となったマサキさんをどうにか合格させようと、両親はあれこれ手を尽くしたそうです。
しかし、残念ながら医学部進学は叶わず、医師の道を断念することに。一浪したマサキさんは翌年、有名私立大学に進学しました。
マサキさんの父、ハジメさん(仮名:現在82歳)は、医者になれなかった息子に一度は落胆したものの、「彼なりの人生を切り拓いてくれればいい。後継ぎがいなくなってしまったのは残念だが……自分の代で閉院することにしよう」と考え直し、息子の人生を見守る決意をしました。
息子を医者にするためにあらゆる教育を施してきたために、マサキさんの高校卒業までにかかった教育費は1,800万円程度です。しかし、現役の医師であるハジメさんの年収は、一般的な会社員の数倍あり、大西家には代々受け継いだ資産もあったため、それほど経済的なダメージは感じていませんでした。
この先の大学教育に必要な費用を800万円程度と見込んだとしても、金銭的な問題はないと考えていたそうです。
“俺、作家目指すわ!”…マサキさんの衝撃発言のワケ
息子のマサキさんはというと、医者になるプレッシャーから解放されたこともあり、親からお小遣いをもらいながら、大学生活を存分に謳歌しました。経済的自立への意識が低かったのでしょう。就職先を決めないまま卒業を迎えてしまいます。
これにはさすがのハジメさんも、黙ってはいられなかったようです。「俺たちがこれまでどんな思いでおまえを育ててきたと思ってるんだ!」と、社会人として自立していかなければならないことを諭したと言います。とはいえ、完全には突き放せないのが親心です。
結局、ハジメさんが知り合いのツテを頼り、マサキさんはハジメさんの知人が経営する会社に雇ってもらうことになりました。
ところが、大学時代アルバイトもほとんどしていなかったマサキさんは、「働く」ということを甘く考えていたようです。上司や先輩からの指導に不満を募らせ、不貞腐れた態度で業務を選ぶようになりました。会社側の配慮で配置転換をしたものの、今度は「仕事が自分に合わない」と言い出す始末。結局、30歳のときに会社を辞めてしまいました。
それからは、定職に就かず部屋に籠る日々が続きました。見かねた父が声をかけたところ、マサキさんは言いました。「俺さ、小説を書いてみたくて。作家を目指すわ!」
傍から見るとただの引きこもりのように見えますが、日中はパソコンに向かい、小説らしきものを書く生活を送るようになったマサキさん。夕方になると、父の保有するランボルギーニに乗って、頻繁にどこかへ出かけるようになりました。
実は、インターネットをきっかけに地下アイドルにハマり、「推し活」に精を出しているようです。ある日ファンレターを渡したところ、後日握手会で「マサキさんの文章、ステキ! 小説家に向いていると思う!」と言われたことがきっかけで、マサキさんは小説家を志すようになったそうです。
父、ハジメさんの心配事
ハジメさんはそんな息子の生活態度を苦々しく思い続けていますが、すでにいい大人となっている息子に説教をする気にもなれませんでした。息子との衝突を避けたい気持ちもあり、なかば諦めの境地です。
ハジメさんは75歳のときにクリニックを閉院しています。その後もマサキさんは親の脛をかじり続けたまま、時々、小遣いをせびり、53歳の現在に至るまで実家暮らしを続けています。
実は、ハジメさんにはマサキさんのほかに娘がいます。娘のミナコさん(仮名:49歳)です。ミナコさんは、26歳のときに友人の紹介で知り合った会社員の男性と結婚し、2人の子供をもうけました。現在は一家4人、他県で暮らしています。
お盆や正月には娘家族が帰省するのが恒例行事となっていて、孫たちに会うことがハジメさんの老後の楽しみのひとつになっています。身の丈に合った堅実な生活をしているようで、娘に対する心配は何もありません。
つまり、問題は息子のマサキさんなのです。ハジメさんの資産は不動産を含めると恐らく1億5千万円くらいになります。妻は2年前に他界しています。
ハジメさんの年金は公的年金と医師年金を合わせて月25万円ですので、1人暮らしであれば十分暮らしていけます。しかし、息子が一向に自立してくれないばかりか、度々お金の無心をされることが、引退後のハジメさんの負担となっています。
遅まきながら、こんな生活をさせていてはマサキのためにならない、と考えたそうです。また、真面目に分相応に暮らしている娘のミナコさんにも資産を等分に相続する権利があるのに、息子にばかりお金を使っていることも気がかりでした。
マサキさんの身に起きた「想定外の出来事」
ある日の夕方、想定外の出来事がマサキさんを襲います。いつものように推し活に出かけるための軍資金を出金しようとATMに向かいますが、預かっている父名義のキャッシュカードが使えません。「暗証番号を間違えたわけではないし、おかしいな……」と思いましたが、すでに窓口は閉まっていたため、翌日、改めて銀行に問い合わせました。そこで、銀行の担当者から想定外の一言が。
「大変恐縮ですが、こちらのカードはお使いになれません」。
実はハジメさん、妻が亡くなった直後くらいから少しずつ認知機能の衰えが見られ始めます。聡明なハジメさんはそのことを自覚しており、80歳の誕生日を迎えた後、介護付き有料老人ホームに入居することに決めたそうです。立派な持ち家があり、無職同然の息子もいるため、自宅介護という選択肢がないわけではありませんでしたが、本人の希望により、早めに施設での生活を選択したそうです。
そして、同時期に成年後見制度を利用することに決めていたのです。
ハジメさんが利用した「成年後見制度」とは
成年後見制度は、認知症をはじめ、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な人に起こり得る不利益から本人を守るための制度です。
成年後見制度は次の2つに大別されます。
1.法定後見制度
すでに判断力が低下した人を対象にした制度です。本人、配偶者、四親等内の親族、市区町村長などの申し立てにより、家庭裁判所が選任した成年後見人によって本人の財産管理や身上管理を行います。本人の判断力によって、「後見」「補佐」「補助」の3つの分類があり、分類により手助けできる範囲が異なります。
2.任意後見制度
「任意後見制度」とは、本人に十分な判断能力があるうちに信頼できる人と任意後見契約を結ぶ制度です。
公証役場で公正証書を作成し法務局に登記する必要があります。本人の判断能力に不安が出てきた際に、任意後見監督人を家庭裁判所が選任します。これにより任意後見契約の効力が生じ、任意後見人が、法律行為を本人に代わり行います。なお、任意後見人の権限は任意後見契約の範囲内に限られます。
どちらの場合も後見人になれる人は、親族の他、弁護士、司法書士など法律の専門家、また、福祉法人などです。
ハジメさんは、これ以上自分の資産を息子のマサキさんに使い込まれることを危惧し、あらかじめ、任意後見制度で知人の弁護士と財産管理に関する任意後見契約を結んでいたのです。
老人ホームに入居して1年半が経過した頃、ハジメさんの認知機能が低下したため任意後見が開始されました。そのため、ハジメさん名義の預貯金を勝手に引き出すことはできない状態となっていたのです。
ハジメさんが亡くなり相続が開始されれば、いずれマサキさんにも十分な遺産が入るでしょう。しかし、当面はこれまでのように自由になる資金はありません。
まだ十分に働くことができるマサキさんです。考えを改め、親の資産に頼らず身の丈にあった暮らしをしていってくれることが父ハジメさんの最後の願いです。
子どもの自立のための金融教育は「家庭」が基本
日本人の金融リテラシーは低いといわれており、ハジメさんやマサキさんの世代は金融教育を受けたことがない人が多いようです。また、以前は家庭内でお金のことを口にするのはよくないという思い込みもありました。
しかし、現在、日本において金融経済教育の重要性は高まっており、2022年4月からは中学・高校でも金融教育が始まっています。とはいえ、金融教育の基本はあくまで家庭です。たとえ親に難しい金融知識がなくとも、子どもの成長と理解力に応じて、家計管理や生活設計の大切さを教えるよう努めたいものです。子どもが経済的に自立できない場合、最後に自分の老後を脅かすことにもなりかねません。
山﨑裕佳子
FP事務所MIRAI
代表
<参考・出典> ※1 内閣府「令和6年版 高齢社会白書(全文)(PDF版) (https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s2s_04.pdf)
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