高齢者住宅へ移った母の家が空家に…「3年以内」に自宅を売った〈55歳長女〉、最終的に姉妹2人でニンマリできたワケ【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月9日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
80代半ばで一人暮らしが大変になり、高齢者住宅へ移った母の実家がしばらく空き家になっていると相談に来られた志穂さん。本記事では、その実家の対処法について、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。
一人暮らしが大変になった母の実家が、しばらく空き家に
志穂さん(55歳女性)が母親の家のことで相談に来られました。
母親は、父親が亡くなってから一人暮らし。子どもは長女の志穂さんと妹ですが、二人とも嫁いで、実家を離れています。母親は80代半ばで、一人暮らしが大変になってしまい、現在は高齢者住宅に住み替え、不安がなくなったと言います。
しかし、そうしたことで、しばらく母親の住まいが空き家になっていました。荷物は置いたままではありますが、高齢者住宅から戻って一人暮らしができるとは思えず、いよいよ母親の家をどうすればいいかということで、相談に来られたのです。
自宅は売るなら、高齢者住宅に移ってから「3年以内に」売るべき!?
志穂さんも、妹も、近隣に嫁いで、自分たちの家があります。相続になってからでも、実家に戻って住むという選択肢はないといいます。母親も、家は住まないのであれば、売って二人で分ければいいと言ってくれています。
すでに空き家になって1年ほどになるという志穂さんの話を聞いて、売却するなら高齢者住宅に移ってから「3年以内に」という説明をしました。その期間であれば、居住用財産の3,000万円控除が使えるからです。
居住用財産の3,000万円控除とは、自宅を売却する際に譲渡益の3,000万円を控除してもらえるという特例で、約600万円の譲渡税の負担を減らせるものです。この期限を意識することで手元に残せる現金が変わってきます。
こうした背景からも、自宅を売却するなら母親の意思確認ができるうちに、母親が契約して売却してしまうことが得策なのです。志穂さんは、母親と妹にも説明して、母親に売却の決断をしてもらうと言って帰っていきました。
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」とは?
マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除できるという特例があります。これを、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」といいます。
以下、国税庁のwebサイトの説明を転記します。
特例の適用を受けるための要件
(1)自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
(注)住んでいた家屋または住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の2つの要件すべてに当てはまることが必要です。
イ その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
ロ 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
(2)売った年の前年および前々年にこの特例(「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」によりこの特例の適用を受けている場合を除きます。)またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
(3)売った年、その前年および前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと。
(4)売った家屋や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
(5)災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
(6)売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。
※(特定増改築等)住宅借入金等特別控除または認定住宅新築等特別税額控除については、入居した年、その前年または前々年に、このマイホームを売ったときの特例の適用を受けた場合には、その適用を受けることはできません。
また、入居した年の翌年から3年目までのいずれかの年中に、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の対象となる資産以外の資産を譲渡し、この特例の適用を受ける場合にも、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできません。
適用除外
このマイホームを売ったときの特例は、次のような家屋には適用されません。
(1)この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
(2)居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
(3)別荘などのように主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋
決断して半年で売却できた
志穂さんの母親は80代半ばで、まだ元気だとはいいつつも、要介護1の認定を受けており、一人暮らしでは買い物や料理のサポートが必要になっています。高齢者住宅に移ったことでそうした日常生活のサポートはしてもらえるようになったそうなのですが、最近では、不動産やお金という財産についても自分で管理するのが大変になってきたそうです。
志穂さんが母と妹に、高齢者住宅に住み替えてから3年以内に、自宅として住んでいた母親自身が売却することがいいと説明をしたところ、二人とも内容を理解し、所有者である母親は売却したいと決断されたそうです。
売却後、すぐに購入希望の法人があり、契約が進みました。母親の自宅は65坪あり、建売会社が買い取り、2棟の建売住宅にするということでした。
測量も解体も、買主が負担する有利な売り方で進められた
自宅は築年数が50年ほど経過していますので、売却するには解体して更地にすることが一般的ですが、買主の合意が得られると、現状のまま、引き渡すことも可能です。中の荷物は処分業者さんに見積をしてもらい、がらんどうにするのですが、建物はそのままで引き渡します。解体費を差し引いた売買価格になることもありますが、解体にかかる日数や立ち合いの手間などが省けるため、得策だと言えます。
測量は売主負担ですることが原則で、隣地との境界確認を済ませ、越境の問題などもないところで買主に引き渡すのが一般的です。
志穂さんの母親の家は隣地からの越境もありましたが、そうした課題も含めて買主が引き受け、測量も購入後に買主が行うことで契約が進められました。
長年住んできた家が想定以上の額で売れ、これからの資産に
所有者の母親が自宅を売却する当事者ですので、契約には立会い、サインをして、スタートしましたが、残金決済の時には母親の委任を受けて、志穂さんが代理で手続きを済ませるようにしました。事前に司法書士が母親と会い、売却の意思確認を済ませていましたので、事務的なことは委任を受けた志穂さんが担当したということです。
長年住み慣れた家は売却してなくなりましたが、亡くなった父親と母親が苦労して購入し、長年住んで残してきた家がお金になりました。購入した50年以上前の価格の数倍以上となり、思った以上の価格で売れたと母親は大変喜んでいました。
これからの老後、100歳までの時代だと考えても、高齢者住宅の費用がかかることから、お金の不安がなくなって、とにかくよかったと志穂さん姉妹も安堵したということです。思い立った時に相談に来て頂き、半年で売却までできたことでこちらもほっとしています。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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