「遺族年金は4分の3もらえるはずでは?」…年金月23万円・70歳の夫に先立たれた66歳・元共働き妻が驚愕した「信じがたい年金額」【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月11日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
亡くなった後に遺された家族に支給されることがある「遺族年金」は、亡くなった人の年金の4分の3の額が支給されると言われています。しかし、実際の支給額は異なることも。いったいどのような仕組みなのか、株式会社よこはまライフプランニング代表取締役の五十嵐義典CFPが、事例をもとに遺族厚生年金のポイントについて解説します。
「夫の年金の4分の3」と聞いていたが…
Aさん(66歳)は夫・Bさん(70歳)を亡くしたばかり。長年、夫婦ともに会社員として働いていたAさん夫婦は、夫婦仲は良好だったものの、仕事に育児に忙しく暮らしていました。2人ともリタイアする時を迎えたことで、夫婦でのんびり過ごそうかと考えていましたが、Aさんが66歳になる直前に、Bさんが脳梗塞で先立ってしまいました。
Bさんは元気で長生きするつもりで68歳から年金を繰下げ受給していましたが、結果的に2年間しか年金を受け取ることができませんでした。Aさんも65歳まで働いていたのと、Bさんの年金が月23万円支給されていたため、老後に備え、少しでも年金を増やしておいたほうがよいかと考えて、繰下げ受給も検討しているところでした。Bさんを失い、寂しさとともに、「これから先、私の年金だけでは生活できるのかしら……」と不安を感じるAさん。
そんななか、遺族年金制度があることを耳にしたAさんは「夫の年金の4分の3」が支給されるとの情報を得ました。「夫は年金をたくさんもらっていたし、私だってそれなりの遺族年金を受け取れるはず」と考えたAさんは年金事務所を訪ねます。
年金事務所でAさんに遺族年金が支給されるとは言われました。しかし、そこで提示された遺族年金の金額を見て驚きます。記載されていたのは、たったの年間7万円。「夫の年金の4分の3がもらえるって聞いていたのに、なんでこんなに少ないの?」と衝撃を受けるAさんでしたが、遺族年金の計算にはルールがあるようです。
65歳以降の遺族厚生年金の受給
会社員の夫が亡くなった場合、その妻に支給される遺族年金として遺族厚生年金があります。Bさんが亡くなった当時、AさんはBさんに生計を維持されていたため、Aさんは遺族厚生年金の支給対象です。
その遺族厚生年金は、夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3を基準に計算されることになります。夫の年金の全体の4分の3ではありません。そして、さらに実際の支給額の計算方法は複雑で、報酬比例部分の4分の3にならないこともよくあります。
その前提として、まず、65歳以降の妻が夫の死亡によって遺族厚生年金を受給する場合、妻自身の老齢基礎年金・老齢厚生年金と、遺族厚生年金を併せて受給できることになっています。
ただし、遺族厚生年金については妻自身の老齢厚生年金相当額を差し引いた差額分での支給となり、全額は受給できません。差し引く前の遺族厚生年金についての計算方法は、以下の2種類です。
(ア)「夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3」 (イ)「(ア)の3分の2+妻の老齢厚生年金の2分の1」もし、妻自身が厚生年金に加入したことがない、ずっと専業主婦だったような場合は、妻に老齢厚生年金はありません。そのため、遺族厚生年金((ア)が(イ)より高いため、(ア)で計算)から差し引かれる老齢厚生年金相当額はなく、老齢基礎年金と遺族厚生年金(夫の報酬比例部分の4分の3)を受給することができます。
しかし、AさんBさん夫婦は共働きだったため、Aさんには老齢厚生年金があります。つまり、遺族厚生年金から差し引かれるAさんの老齢厚生年金相当額が発生することになります。
遺族厚生年金の計算方法
AさんとBさんの年金の内訳は以下のとおりでしたが、遺族厚生年金の具体的な計算方法を見ていきましょう。
Aさん(65歳受給開始の額 ※66歳時点で未受給) 老齢基礎年金…81万6,000円(満額) 老齢厚生年金…130万円 合計211万6,000円Bさん(68歳で繰下げ受給開始、65歳開始額より25.2%増額)
老齢基礎年金…95万円 老齢厚生年金…188万円 合計約283万円Bさんは繰下げ受給しているため、65歳開始額より25.2%増額された年金で受給していました。しかし、この繰下げ受給で増えた部分については遺族厚生年金の計算対象となりません。あくまで65歳受給開始・繰下げなしの老齢厚生年金(報酬比例部分)を基礎に計算されます。
Bさんの65歳受給開始・繰下げなしの場合の老齢厚生年金は150万円で、その内訳を見てみると報酬比例部分は144万円でした。この4分の3は108万円となります。この108万円が(ア)の計算方法での差し引き前の遺族厚生年金となります。
そして、(イ)の計算方法では108万円×2/3+130万円×1/2で137万円になります。(ア)の108万円より(イ)の137万円のほうが高いため、137万円を基準にAさん自身の老齢厚生年金130万円を差し引きます。
結果、Aさんの遺族厚生年金は7万円となり、老齢基礎年金81万6,000円、老齢厚生年金130万円と合わせると218万6,000円になります。
単純に報酬比例部分の4分の3となる(ア)の計算方法だと、Aさんに差額支給の遺族厚生年金は支給されなかったところ、(イ)の計算方法により7万円は支給されることになります。
「4分の3」という数字にばかり注目しがちだが…
「共働きで自分の老齢厚生年金があると、遺族厚生年金は減らされてしまうのね……」と、制度や支給のルールを理解したAさん。
しばしば「夫の年金の4分の3」といわれている遺族厚生年金。4分の3という数字ばかりが着目されますが、今回のように夫婦共働きの場合は、調整が入ったり、ほとんど支給されないこともあったりします。
なお、Aさんが66歳になる直前にBさんが亡くなり、ここで遺族厚生年金の受給権が発生していることから、Aさんは老齢基礎年金と老齢厚生年金の繰下げ受給はできません。
Aさんは老齢基礎年金と老齢厚生年金について、いずれも66歳になるまで受け取っていませんでしたが、65歳まで1年遡って、65歳受給開始(繰下げなし)として受給することになります。
夫婦共働きもますます増えている昨今、遺族年金についての見直しの議論も進んでいます。夫亡き後の年金生活のことも考えるのであれば、遺族年金の支給のルールをあらかじめ把握しておくことが必要となるでしょう。
五十嵐 義典
株式会社よこはまライフプランニング代表取締役
特定社会保険労務士/CFPⓇ認定者
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