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こんな人生になるはずじゃなかった…新卒時代から贅沢せず50歳で念願の「FIRE」を達成した会社員、念願叶ったはずが〈後悔〉が押し寄せる理由

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月4日 10時15分

こんな人生になるはずじゃなかった…新卒時代から贅沢せず50歳で念願の「FIRE」を達成した会社員、念願叶ったはずが〈後悔〉が押し寄せる理由

経済的自立と早期リタイアを意味するFIRE。FIREすれば「お金の悩みから解放される」「幸せになれる」そんなイメージを持つ人もいるでしょう。しかし、そうはならないケースも少なくないようです。本記事では、29歳でFIREを達成したヒトデ氏の新刊『1万回生きたネコが教えてくれた 幸せなFIRE』(徳間書店)より一部を抜粋・再編集し、念願のFIREを実現したものの後悔に苛まれる結果になった男性のエピソードをご紹介します。

〈登場人物〉

・佐藤智也…FIREしたいと願う25歳会社員。不思議なネコ小鉄を拾った。

・小鉄…1万回生きたネコ。人間の言葉を話す。これまでの猫生で見てきた飼い主たちのFIREの成功と失敗の記録を共有できる。今回は過去の飼い主である西村賢一の記録を智也に共有。

・西村賢一…小鉄の元飼い主でFIREを実現した。

FIRE失敗パターン:西村賢一(35歳)男性

FIREしたいが資産も守りたい

コーヒーをひと啜りした賢一さんは、2枚横並びにした大きなディスプレイを前に何やら悩んでいるようだ。こっそり覗き見るようで悪い気もするが、PCの画面を見て僕は仰天した。

表示されている証券会社のサイトによれば、彼の資産額は6,000万円を超えていたからだ。

「ちょっとちょっと、この人超金持ちじゃん」

「彼は新卒の頃から贅沢もせず、ずっと投資を続けていました。始めたタイミングも良かったため、こんな状態になっています。そもそも会社のお給料や待遇面もすごくいいのですが」

「僕とはちょっと前提が違うなぁ」

今25歳の僕より一回りほど年上とはいえ、まだ若いのに数千万円の資産。僕だって同年代の中ではかなり頑張って投資にお金を回している方だとは思っていたけれど、それでもこんな金額は夢のまた夢だ。仮に同じ年齢まで投資を続けてもここまでは資産を増やせないだろう。

エリートとの違いを見せつけられたようで、少し凹んでしまった。しかし、そんな資産額を眺めてニヤニヤしているのかと思えば、彼の表情は険しい。

「なんでだよ。もっと楽しそうにしろよな。6,000万円だぞ」

「彼には彼の苦悩があるのです。彼の心の声を聞いてみましょうか」

賢一さんの心の声が感じ取れた。もう、なんでもありだ。

(ついに、目標としていた6,000万円の資産額を達成した。これで、理屈上は、「4%ルール」に則れば、FIREができるはずだ)

なんて羨ましいんだろう。まさにFIRE達成だ。賢一さん、よく頑張りました。おめでとう。これからは最高に自由な日々を過ごしてね。

(でも、今4%分を売って、現金に変えるのか……?)

そりゃあ、そうでしょう。毎年、資産運用額の4%未満を生活費として切り崩していれば、30年以上が経過しても資産が尽きる確率は非常に低い。それが4%ルールだ。何に悩むことがあるの? さあ、辞表を叩きつけて、FIRE生活の第一歩を始めよう。

しかし、賢一さんは腕組みをしたまま考え続けている。一体、何を考えているのだろうか?

「よく見てください。資産額、少し減ってますよ?」

賢一さんの悩みを理解できずにいると、小鉄が指摘してくれた。確かにディスプレイを改めて見ると、「前月比3%減」となっている。どうやらこのときは下落相場のようだ。結局、賢一さんはこの日、持っている資産を売却することなく出社をした。

そして次の日も、その次の日も、毎朝同じように悩んでは、出社を繰り返していた。そんな日々を過ごすうちに月末になり、賢一さんの口座には会社の給料が振り込まれた。その振込履歴を見て、ずっと仏頂面で悩んでいた賢一さんが、今までとは違う笑顔を見せた。

(給料があれば、資産を取り崩さなくても生活できる!)

何を当たり前のことを言っているのか……。この人、エリートじゃなかったの?

「ちょっと小鉄、これどういうことなの?」

「わからないですか? 賢一さんはこれまで資産を増やすことを拠り所に投資をしてきたんです。その資産を切り崩すということは、彼にとって本当に大きな恐怖なんですよ」

「いやいや、わからんでもないけどさ、それって手段と目的が逆転してるじゃん。自由な生活を目指して資産増やしてるのに、そこに縛られてどうすんのよ」

「智也さん、結構鋭いことを言いますね。おっしゃる通りなんです。でも、彼にはそれがわかりません」

初めて小鉄に褒められてちょっと嬉しい気分になった。しかし、こんなに賢い人でも、そんなふうにわからなくなってしまうものなのだろうか。

結局、その後も賢一さんは出社をし続けた。資産を取り崩していくことへの強い抵抗感は拭えないようだ。定期収入があれば、その大事な資産を取り崩す必要もないし、元本も増やしていける安心感が伝わってくる。

楽観的に考えれば、すぐにFIREできるかもしれない。しかし、慎重な賢一さんは、今後の市場の変動や予期せぬ出費を考えると、どうしても安全策を取らざるを得なかったのだろう。

はじめは「何をバカなことを!」と思っていたが、実際に彼の気持ちを体感するうちに、疑問が湧いてきた。果たして自分が同じ立場になったとき、スパッと辞めるという決断ができるだろうか?

もう取り返しがつかない

「もう少し、先まで見てみましょうか」

小鉄の声と共に、ビデオの倍速のように風景が加速する。

「ちょっと待って、早送りまでできるの?」

「できますけど?」

当たり前のように言う小鉄に、もはや突っ込む気すらおきない。数十倍速で賢一さんの様子を観察していると、段々と、賢一さんの独り言の様子も変わってきた。

(いつでもFIREできるという状態での仕事は気が楽だし、資産が減る心配もない。案外悪くないかもしれないな)

(いやいや、でもFIREは夢だ。実現したい)

(あと1,000万円増えたら、FIREをしようかな)

(あと3年働くと、退職金が一段階増えるな)

(結婚することになった。家族のことを考えると、もう少しお金がいるな)

(インデックス1本ではなく、もっと分散投資をしてポートフォリオの安全性を高めよう)

(ここまで来たら、大台の1億円までいってから決断をしよう。そうすれば、盤石だ)

(もう少しだけ働けば、より安心できるかもしれない)

「いいからとっとと辞めろや!」とはどうしても思えない自分がいた。おそらく、会社でよっぽど嫌なことでもおきない限り、自分も退職の決断をできないだろう。

小鉄が早送りを止めたとき、この世界ではもう15年の時が流れていた。

社内の制度が変わることをきっかけに、ついに賢一さんは退職を決意した。若い頃に辞めるのと比べて、随分と増えた退職金も加わり、資産は当時の倍以上になっていた。ポートフォリオにも債券や高配当株、REITのような多種多様な銘柄が組み込まれており、配当収益だけでも生活が成り立つようになっている。さすがに安心な水準だ。

賢一さんの退職後の生活は穏やかだ。嫌な上司もいないし、会社に行かなくてもいい。今までの人生を取り戻すように、賢一さんは日々を満喫していた。かつての同僚や、周りの人々にも羨ましがられている。結婚し、子供も1人いたけれど、彼の資産額なら全く問題のない水準だ。

でも、心の声が聞こえる自分たちには、寝る前の賢一さんが定期的に自責の念に苛まれているのがわかってしまっていた。

これってFIREなのか? 世間の定義ではそうかもしれないけれど、自分はもっと若いうちに人生を謳歌したかった。確かにお金に余裕のある老後は送れるけど、35歳から15年も我慢して、50歳から楽しむ人生でいいのか? 体にもガタが来ている。若い頃のように無茶はできない。

同年代の皆は、FIREをしないにしても、趣味を極めたり、新しい事業に挑戦をしている。しかし、自分はただ会社に身を捧げ、資産を築くことにばかり時間を使ってきた。本当はもっと、多くの経験や、挑戦ができるはずだった。

確かに、この歳からでもできることはたくさんある。それは事実だ。でも、若いうちにしておくべきことだってたくさんあったはずだ、もう取り返しがつかない……。こんな人生になるはずじゃなかったのに……。

早く決断することができるか?

「ブハァ!」自室の床から跳ね起きた。ゆ、夢!? 心臓はまだバクバクと音を立てていて、息が荒れていた。薄暗い部屋の中、僕は一瞬、現実と夢の境界が曖昧になり、周りを見回した。壁時計の秒針の音がやけに大きく聞こえ、冷たい汗が額から流れていた(少し、たんこぶもできていた)。

「疑似体験してみてどうでした?」

そうか、疑似体験。夢ではなく、小鉄の過去の飼い主の半生を見せてもらったのだった。あまりにもリアルで、まさに自分がそれを体験しているかのような気持ちになった。

「なんていうか、ちょっとだけ、言ってる意味がわかったかも。これが〝投資だけでFIREをすることはできない〟ってことなんだね?」

「その通りです。資産を築いていくことはFIREにおいては必須の要素。これは間違いありません。しかし、それだけではFIREに踏み切るのは難しいのです」

「FIREできるくらい優秀な人だからこそ、いいところで働いていて、それが足かせになっているのも、なんていうか、皮肉だったなぁ」

「そうですね。それで、賢一さんは、どうすべきだったでしょうか?」

「それはやっぱり、もっと早く決断すればいいのにってことかな」

「決断、できますかね?」

「うっ……」

「ニンゲンは愚かなので、損失を過大評価します。同じ100万円でも、100万円をもらった喜びよりも、100万円の損失の悲しみの方が大きく感じます。この損失の悲しみは利益の喜びの2倍以上と言われてるんです」

以前、手を出してみた株の価格が下がって、塩漬けになっていることを思い出した。損切りが大事と言われていたのに、傷つきたくない意識が働いて、含み損を確定損にできなかったのだ。逆に、利確はすぐにしてしまっていた。今小鉄が話した内容と、全く同じ話だった。

「もちろん、FIRE生活のために資産を切り崩すことは損失なんかじゃありません。元からそのつもりなのですから。しかし、賢一さんにとって資産は全てです。それが減る。しかも、これからずっと減り続けていくという恐怖は想像に難くありません」

そうなのだ。今までの僕だったら「そんだけ金があったらつべこべ言わずFIREだろ!」と思っていたけれど、擬似体験した今、すぐに退職という決断が取れるとは思えない。

「しかも、多くのニンゲンにとって、大切なのは資産の絶対額よりも、それが〝増えている〟か〝減っているか〟だったりします。どんなにお金があったところで、それが〝減っている〟というだけで不安は強まるのです。〇千万円の資産ができたら辞めてやる! という方は山程いますが、実際にその資産に到達しても、辞める方は本当に一握りなのです」

株式会社HF 代表取締役

ヒトデ

※本記事は『1万回生きたネコが教えてくれた 幸せなFIRE』(徳間書店)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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