国民皆保険のはずでは…がむしゃらに働いてきた月収45万円だった27歳元SE、病院での「全額実費払い」に愕然。「人生の中休み」への大きな後悔【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月16日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
日本は「国民皆保険」と呼ばれる制度があり、すべての国民が健康保険をはじめとした社会保険に加入することになっています。しかし、制度には落とし穴もあって……。今回はAさんの事例とともに、健康保険の仕組みの注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
仕事のストレスから転職を検討
※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。都内で働くAさんは、システムエンジニアとして働いています。一緒に住んでいる妻とは25歳のときに結婚しました。中堅のIT企業で、月収は45万円。プロジェクトの設計や実装、トラブル対応を担当していました。半年ほど前からチームの中心となって進行管理を担うことも増え、Aさんはその役割に誇りを持っていました。しかし、プロジェクトの締め切りが近づくと、連日遅くまで働く日々が続き、朝通勤のために電車に乗ると吐き気を催し途中下車したり、夜は眠れなくなったり、次第に体力も気力も限界に近づいていました。
このままシステムエンジニアとして働き続けるかどうか、自分自身に問いかけながら、Aさんは少しずつ転職を考え始めていたのでした。
人生の中休みを決断
そんなとき、学生時代からの友人であるBさんと久しぶりに会う機会がありました。Bさんは、数年前に地元で居酒屋を立ち上げ、いまでは常連客も増え、順調に経営を続けていると聞いていました。
Aさんが「最近、ちょっと仕事がしんどくてさ……」とぼやくと、BさんはAさんの疲れた顔を見て、「そんなに大変なのか?」と心配そうに声をかけてきました。それを聞いたBさんは少し考え込み、「それなら、うちで働かないか?」と提案が。
Aさんは驚きつつも、「え、居酒屋で? そんなこと急に言われても……」と戸惑いを隠せません。しかしBさんは続けて、「うちは1人でやってる店だから、最近忙しくなってきて、人手が増えると本当に助かるんだ。お前ならお客さんとも上手くやっていけると思うし、なにより、長年の友達と働くのって、ちょっと面白そうじゃないか?」と笑顔で誘ってくれました。その言葉に、Aさんの心は少しずつ動かされました。
Bさんの店は地元に根ざしたアットホームな居酒屋で、学生時代からの知り合いである彼と働くのは、人生の中休みのように肩の力を抜いて、楽しめるかもしれないと感じたのです。それからAさんは数ヵ月かけて妻を説得し、システムエンジニアを辞めてBさんの居酒屋で働くことにしたのでした。
病院で気が付いた致命的ミス
ある日、Aさんは軽い喉の痛みを覚え、病院に行くことにしました。自宅の近くの内科を訪れ、受付で問診票を書いていたとき、受付の方からの一言に固まります。
受付「それでは、健康保険証をお願いします」
Aさん(健康保険証……? そういえば前の職場を辞めたとき、返して……。あれ? もしかして俺、健康保険証を持っていない?)
なんとAさんは、健康保険に未加入のままだったのでした。
社会保険未加入の事業所
Aさんは「日本は国民皆保険制度のはずでは?」と疑問に思います。Aさんのように「すべての職場で健康保険をはじめとした社会保険に加入できる」と思う人もいるかもしれません。しかし、実際には小規模事業所や一部の業種では社会保険の加入義務がない場合があります。
たとえば、従業員が5人未満の個人経営の事業所や特定の業種(農業や飲食業など)では、法律上、社会保険に加入しなくてもいいケースがあるのです。このような職場では、従業員は自ら国民健康保険に加入し、保険料を全額自己負担する必要があります。
2024年10月からは従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者にまで、社会保険の加入義務が拡大されました。 これにより、社会保険加入義務の対象外だった多くのパート・アルバイトの人々が、新たに社会保険の対象となったのです。今後の制度の改正によっては、対象となる事業所がより一層増えることも予想されますが、現状、Aさんのように社会保険未加入の事業所で働く場合、健康保険に入っていないと医療費を全額負担しなければなりません。健康保険に加入している場合、一般的に現役世代の方達の治療費は「3割負担」となりますが、健康保険に加入していない場合、全額負担、つまり10割負担となるのです。
健康保険に加入するには
もし転職先が健康保険未加入であった場合、住所地の市区町村にて国民健康保険の加入手続きを行う必要があります。国民健康保険料は収入に応じて決定されるため、月々の保険料がどれくらいになるかを確認し、家計にどのような影響があるかを把握しておくとよいでしょう。
また、配偶者が社会保険に加入している場合、一定の条件を満たせばその扶養に入ることも可能ですので、状況に応じて最適な選択を考えることが大切です。
無保険とならないために…事前にチェックするポイント
転職先の社会保険加入状況を事前に確認する
転職先が必ずしも社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しているとは限りません。特に小規模の個人事業所では、事業所が加入義務を持たない場合があります。転職先の雇用条件を確認し、社会保険が完備されているか事前に確認しましょう。これにより、転職後の思わぬ保険料負担を避けることができます。
加入していない場合の健康保険制度を理解する
もし社会保険未加入の事業所で働く場合、自分で「国民健康保険」に加入する必要があります。国民健康保険は自己負担が高くなる傾向があるため、事前に保険料を調べ、家計にどの程度影響があるか把握しておきましょう。市区町村役場で保険料についての相談ができるので、転職前に確認しておくと安心です。
家族の扶養に入れるかどうか検討する
配偶者や親が会社員であれば、その扶養に入ることで、健康保険料の負担を抑えることができる場合があります。ただし、扶養条件には収入制限やそのほかの基準があるため、転職によって収入が変わった際は、扶養に入る条件を確認し、条件に合う場合は手続きを検討しましょう。
Aさんは「心身の健康のための転職だったとはいえ、後悔しています。仕事に必要のないことには無頓着だったので……。守ってもらえる組織から出る以上、もっと制度について調べておくべきでした」と言っていました。
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス
代表
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