もはや経済大国でない日本、資産形成も「国内債券・株式」のみの運用では限界…有効な分散投資を行う注意点【証券アナリスト資格を持つFPが助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月13日 11時15分
(画像はイメージです/PIXTA)
現在の日本で資産形成を行うには、必然的に海外株式・債券へ目を向ける必要があります。しかし、そうなると必然的に「為替リスク」を考慮しなければなりません。これを踏まえたうえで、効果的な運用を行うにはどうすればいいのでしょうか。元銀行員で大学教授のキャリアを持ち、いまも教壇に立つFPが解説します。
シニア世代の分散投資で「為替相場」が重要になるワケ
シニア世代の方々の資産運用において分散投資を考える場合、「為替相場」は避けられない問題です。なぜなら、株式にしても債券にしても、もはや経済大国とはいえなくなったわが国は、国内の債券、株式への投資だけではリスクを低減し、リターンを改善するために十分な分散投資はできないため、海外の株式、債券に投資をする必要があるからです。
もっとも、為替取引は単なる通貨の交換取引であり、為替リスク自体にリスクプレミム、つまり為替リスクに対する報酬、見返りはないとされているので、海外の債券、株式の運用に必要な限度において、ということになります。
為替相場については、長期の資産運用において重要となる購買力平価説が有名です。購買力平価説とは簡単にいえば物価上昇率の高い国の通貨の価値は長期的には下落するのであり、為替相場はそれらの通貨の相対的な物価上昇率の差が決めるという考え方です。
つまり、インフレ率が高くなると2022年以降の米国に見られるように、通常、その国の金利も高くなります。そこで、その国の預金や債券の利率も高くなります。しかし、インフレのために高い利率の海外債券は、長期的にはその国の通貨価値が下落してしまうので、投資の魅力は少ないのです。つまり、その通貨は安くなり、長期的、相対的に円高が起こり、海外債券投資の円ベースでの収益性は減少するのです。
為替リスクを回避しつつ、海外の債券投資を行うには?
為替リスクというむずかしい問題を回避して海外の債券に投資をするには「為替ヘッジ」という手法を用います。為替ヘッジとは、円高・円安などの為替変動による円ベースでの損益を回避する方法であり、そのためのヘッジコストが発生しますが、そのヘッジコストは、おおむね2国間の短期金利差に相当する値となります。
シニア世代の方々に身近な公的年金の資産運用では、「現下の低金利情勢を踏まえて、国内債券と円貨短期資産及びヘッジ付き外国債券は同等のリスク・リターン特性を持つものと考え、国内債券に位置づけました」(年金積立金管理運用独立行政法人「基本ポートフォリオの変更について」2020年)。つまり、公的年金の運用のうち25%は海外債券に投資されていますが、これについて為替リスクを回避する為替ヘッジは行われていません。そして、そうした海外債券投資は、国内債券投資よりも年率で1.9%高い収益性を見込んでいます。
シニア世代の方々は企業年金を受給している方も多いと思いますが、企業年金連合会は海外債券と国内債券を別の資産とは考えていません。その理由は、「債券では、為替ヘッジをすれば内外に区分する必然性がないこと」からとしています(企業年金連合会「2023年度(令和5年度)企業年金連合会年金資産運用状況説明書」2024年)。つまり、為替ヘッジをしながらの海外債券投資は、長期的にはもういわゆる海外債券投資ではなく、国内債券投資と同じになるとしています。
為替ヘッジを行った場合、その収益性の基本である海外債券の高金利から、海外の短期金利と日本の短期金利の差であるヘッジコストを差し引くことになります。たとえば、海外債券の利率が4%、海外の短期金利が3%で、わが国の短期金利が0.4%とすると、
4% -(3% - 0.4%)=1.4%
となります。
とすると、国内債券の長期金利1%(2024年11月8日時点)と大差はなくなります。
しかし、5年、10年の運用ではこうした考えが適用できるかということもあり、長期投資と為替リスクの問題はかなりむずかしいといえます。
シニアの方々は、海外債券については単独での投資は避け、公的年金が採用している内外債券株式の分散投資の一部として、積立投資、つまりドルコスト平均法による投資で為替リスクを平準化されることをお勧めします。
藤波 大三郎 中央大学商学部 兼任講師
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