実家はもう処分したわ…父を失った年金月13万円の70代母、思い出の自宅を捨て「綺麗に終活」。50代子への「まさかの宣言」【一級建築士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月17日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
持ち家には「相続」や「リフォーム」といった管理の課題がつきまといます。子と本人、双方のために事前に準備しておくべきこととは? 本記事では、Aさんの事例とともに、マイホーム管理の注意点と老後に向けた具体的な対策について一級建築士の三澤智史氏が解説します。
持ち家があれば老後も安心!?
「持ち家があるから老後も安心」このような考え方も間違いではありませんが、実際はそうでないケースも多く存在しています。順風満帆と思われていた余生が「消極的な選択」によって賃貸生活を強いられることがあります。今回は将来起こりうる事態に備えるため、Aさんの事例から、いまからできる具体的な対策について考えます。
一般的に高齢者に対する賃貸市場での風当たりは厳しいものです。連帯保証人の有無・緊急連絡先の確保・有事の対応体制などが求められます。賃貸生活が悪いわけではありませんが、終の棲家を手放す状況に陥らないための準備をいまから始めましょう。
所有の喜びと管理の重み
Aさん(70代後半)は、2年前に夫を亡くし、月13万円の年金収入で、50年前に建てたマイホームで一人暮らしをしていました。Aさんには、近くに住む50代の長男夫婦(孫2人)と、遠方に住む同じく50代の長女夫婦(孫1人)がいます。どちらの子どももすでに住宅を購入しており、長男夫婦とその孫とは頻繁に会っていましたが、長女家族とは距離があるため、なかなか会うことができずにいました。
Aさん宅はAさんが60歳のときに大規模なリフォームを行い、快適な生活を送っていましたが、最近お風呂で滑って転倒する事故がありました。そこで、Aさんは自分の年齢に見合った設備に変更しようと再度リフォームを決意し、長男に相談しました。しかし、長男からは「お母さんの好きにすればいいよ」と、少し他人行儀な返事が。長女にも相談しましたが、反応は同じでした。
Aさんは、子どもたちがこの家に関心がないことを思い知らされ、少し寂しい気持ちになりました。思えば、この家は亡くなった夫と2人で夢と希望をもって建てた家。柱に残る背比べのしるし、お正月にみんなで人生ゲームをした和室、家族揃って夕食を囲んだ食卓……。すべてが大切な思い出です。2人の子宝にも恵まれ、子どもたちも巣立ち、新しい家庭を築いている。自分も同じようにしてきたことなのに、Aさんの心にはぽっかりと穴が開いてしまいました。
そこでAさんは、いままで相続のこと・家のことについて、子どもたちと話をしてこなかったことに気づかされます。
老朽化した家をどうする?相続とリフォームの問題
Aさんが解決すべき課題は大きく2つあります。1つはこの家を誰にどのように相続するかという問題。もう1つは、自分に適した仕様へリフォームするかどうかの問題です。
1.相続の問題
相続をスムーズに完了させるには、事前の準備が重要です。なぜなら、相続財産の大きさに関わらず相続人間で争いに発展することがあるため、兄弟姉妹の人間関係をも破壊してしまう可能性があるからです。
Aさんは、子供たちが家を継ぎたくないことを知り、相続で揉めるのではないかと心配しています。約1,000万円ある預貯金は簡単にわけられるのに対し、家は分割できません。相続がうまくいかないのではないかと悩みます。
また、法改正もAさんの悩みを大きくします。相続登記が義務化され、正当な理由なく相続登記をしなかったときは罰則が科せられるようになりました。東京法務局のホームページでは、相続登記義務化について以下のように明記されています。
(1)相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
(2)遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
Aさんは、なぜいままでこんなに大切な話をしてこなかったのかと自分を責めるようになりました。
2.リフォームの問題
持ち家でライフステージに合わせて住みやすい環境を維持するためには、計画的なリフォームが欠かせません。なぜなら、住む人の年齢や状況に応じて必要な設備や仕様は異なるからです。
Aさんは持ち家に20年前に大きくリフォームを施しましたが、まだそのころは体も元気であったため老後の生活を見据えたリフォームは実施しませんでした。しかし、20年経過したいま、状況は大きく変わっています。夫はいなくなり、子どもたちは独立したため、使っていない部屋もあります。足腰も弱くなってきたため、子どもたちが使っていた2階には1週間に1回程度しか上がっていません。
思い返せば、20年前のリフォームも定年退職のお祝いを兼ねて、特にそれ以上のことはなにも考えずに実施していました。もしもあのとき、将来のことを考えて水回りを使い勝手のいいものに変更したり、手すりを設置したりしておけば、今回のリフォームに必要な金額はかなり抑えられたはずです。
こうして、Aさんはそもそもリフォームするかどうかについても悩むようになりました。
マイホームを手放し賃貸宣言
思い悩んだAさんが出した結論は、自宅を売却して賃貸に住むというものでした。幸いにも、高齢者向けの賃貸物件が安価で近隣に募集されていました。子どもたちに「実家はもう処分したわ。これからは賃貸で暮らす」と告げると、「そうなんだ」というあっさりした返答。「これでよかったのだ」とAさんは晴れ晴れとした気持ちになりました。
Aさんの事例はセカンドライフにおいて賃貸暮らしへの移行が成功した事例です。しかし、Aさんの成功事例がすべての人たちに当てはまるとは限りません。なぜなら、この事例では人によって異なる不確定要素がたまたま賃貸暮らしに有利に働いただけともいえるからです。
・預貯金が少なかったら ・十分な金額で売れなかったら ・賃貸市場が成熟したエリアじゃなかったらこれらの「もしも」が1つでも当てはまっていれば、幸運な賃貸宣言を実現することはできません。実際は消極的な賃貸生活を送る可能性のほうが高いでしょう。老後に賃貸暮らしへ移行することが問題ではありません。消極的な選択により持ち家から賃貸生活に陥ることが問題です。そうならないためには、以下の点に注意することが重要です。
相続について事前に話し合っておく
相続の話を生前にするのはタブー視される風潮がありますが、相続発生後に遺産分割協議がまとまらないことのほうが問題です。相続がまとまらないことによって空き家や空き地が増加し社会問題になっています。さらに、二次相続・三次相続が発生することで相続人が増え、誰が所有者なのかがわからなくなることも懸念点です。
計画的な維持管理を心がける
持ち家は相続の面では資産ですが、居住の面では消耗品です。そのため、ライフプランに合わせて計画的にリフォームを行うことが欠かせません。維持管理がおろかな状態は減価要因となるため売却価格にも悪影響をおよぼします。
不測の事態によって持ち家を手放さなすことのないよう、早いうちから資産と住宅の両面から持ち家と向き合うようにしましょう。
<参照>
「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)~なくそう 所有者不明土地 !~」 東京法務局
三澤 智史
一級建築士
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