急死した68歳母が残したのは物が溢れた〈汚部屋〉だった…ゴミの山を前にして呆然とする42歳長女。さらに追い打ちをかける〈弟からの非情な一言〉に絶望したワケ【弁護士の助言】<br />
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月27日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
遺言書を残さずに亡くなった場合、相続人たちはどのような困難に直面するのでしょうか。本記事では、遺言書がない相続で起こりうる悲劇と、それらを回避するための遺言作成の重要性について、具体的な事例を交えて三浦裕和弁護士が解説します。
母が亡くなって残ったのは「汚部屋」だった…
68歳の聡子さんは、遺言書を作成しないまま、42歳の長女・由美さんと38歳の長男・誠さんを残して急死してしまいました。聡子さんは、なかなか物を捨てることができない性格でしたので、住んでいた部屋はいわゆる「汚部屋」状態。物が散乱し、由美さんや誠さんにはなにが大事なものであるか判断がつかない状態でした。
由美さんは、聡子さんと二人暮らしをしていました。自宅の片づけと遺産分割手続きのため誠さんに連絡をとると、誠さんは、「片付けは姉貴に任せる」と言って、すべてを由美さんに押し付けてきました。部屋は別々だったとはいえ、聡子さんと同居してきた由美さん。母は高齢者とはいってもまだまだ60代で元気だったのと聡子さんも自身の仕事が忙しく、母の部屋をなんとかしなきゃとは思っていたものの片付けを先延ばしにしていたのが現状で、そんな自分への後ろめたさもあり弟に強く言い返すことはできませんでした。母と同居していた由美さんですが、母の部屋のドアを開けて部屋をきちんと確認したのは母の死後でした。
母の四十九日も経過し、そろそろ母の部屋を片づけようとしたときにあることに気づいた由美さん。預金通帳や大切な書類が汚部屋のなかに紛れている可能性があるから、いちいち注意深く確認する必要がある……由美さんは絶望的な状況に追い込まれました。
由美さんの奮闘
由美さんは、遺産の整理を進めるために、まず家の片づけが必要だと感じましたが、汚部屋の状態があまりにもひどく自分たちでは手に負えないと感じました。弁護士に相談すると、「まずは遺産の調査が必要である」とのアドバイスを受けました。
由美さんは、自宅近くの銀行に照会をかければすぐに見つかるだろうと考え、自分で調査をしてみようと考え、戸籍謄本を取得し、自宅近くのいくつかの金融機関とゆうちょ銀行に対して母親の銀行口座の照会を行いました。しかし、最初に照会をかけた銀行からは、「聡子さん名義の口座はない」との回答がありました。
由美さんは、少しでも預貯金の情報を得ようと思い、「汚部屋」の片づけをしつつ、必要な資料を探すことにしました。買い物のレシートやクーポンはたくさん見つかりましたが、肝心の通帳や金融機関からの手紙などの資料を見つけることはできませんでした。
由美さんは途方に暮れました。由美さんは、日々の仕事に追われつつ、母が使った可能性がある金融機関に繰り返し照会をかけたところ、何度目かの調査により、母親が結婚する前に居住していた地域の地方銀行の口座にメインバンクがあることがわかりました。
由美さんがメインバンクを見つけた時点で、弁護士に相談してから既に半年の期間が経過していました。
弟からの衝撃の一言
由美さんは、長年母と一緒に実家に住んでいたため、遺産分割後も実家に住み続けるものだと漠然と考えており、誠さんも同じように考えてくれていると信じていました。しかし、預貯金の調査を終えた由美さんを待っていたのは、「家は売却して現金化するべきだ」との一言でした。
さらに誠さんは「部屋の片づけ費用は、同居していた姉貴が負担すべきだ」「母の荷物のなかには、高く売れるものもあるはずだから、それは売却して二人で分けるべきだ」との追い打ちをかけてきました。
由美さんは、目の前が真っ暗になり、再び弁護士に相談しました。
弁護士に相談したところ、部屋の片づけ費用や、あるか分からない「高く売れるもの」については戦う余地があるが、遺言書がない以上、法定相続分を基準に遺産を分けるしかなく、自宅を取得するためには、代償金を支払う必要があるとの説明を受けました。
由美さんは、誠さんと支払うべき代償金の額を話し合いましたが、誠さんが提示してきた代償金は到底支払うことができるような金額ではありませんでした。由美さんは、もっと部屋の状態やこれまでの労力を踏まえて代償金の額を考えてほしい、との思いのたけを誠さんに伝えました。
しかし、由美さんの思いは誠さんには届かず、誠さんから遺産分割調停の申立てを受けることになってしまいました。由美さんは、慌てて弁護士に依頼して、遺産分割調停に出席しました。
話し合いの末、支払うべき代償金のおおよその金額は見えてきましたが、その代償金を支払うためには、取得すべき聡子さんの預貯金の大部分を誠さんに渡す必要がありました。由美さんは、今後の生活を見据えて、部屋の片づけ費用は折半にすることを条件に、実家を第三者に売却することに応じました。
その結果、由美さんは、聡子さんと長年暮らしてきた自宅を手放し、賃貸マンションに引っ越さざるをえなくなりました。また、汚部屋を片付けるにあたり、誠さんから、着物や指輪の一部を渡すよう様々な注文を受けました。
由美さんは、我慢に我慢を重ねて、誠さんからの注文に対応しましたが、誠さんがあると想定していた指輪が見つからなかったため、「部屋の片づけと称して、勝手に価値ある財産をもっていったのではないか」といわれのない誹謗を受けてしまいました。
その結果、姉弟の関係は修復不能なまでに悪化してしまい、相続の一連の手続が終わってからは、連絡をとることもなくなってしまいました。
弁護士からのアドバイス
由美さんは、聡子さんと一緒に居住し、仕事をしながら部屋の片づけを行い、遺産調査に尽力しましたが、最終的には自宅を失い、弟との絆も壊れてしまいました。
では、聡子さんがどのような遺言書を残していれば、由美さんは悲劇に巻き込まれずに済んだのでしょうか。
今回の件での大きな問題は、以下の3つがありました。
①由美さんに不動産を残すという遺言書を作成しなかった。
②聡子さんの預貯金がどこにあるかわからなかった。
③価値のあるものないものが汚部屋にあふれ、対処が難しかった。
①を解決するためには、「○○の不動産は、長女由美に相続させる」という内容の遺言書を作成する必要がありました。このような遺言書があれば、不動産の評価額が由美さんの法定相続分を超えていたとしても、誠さんに代償金を支払う必要はありませんでした。
②を解決するためには、遺言書に「◆◆銀行の口座(口座番号××)の預貯金は、長女由美と長男誠に2分の1ずつ相続させる」のように遺言書の本文に口座情報を記載する、又は別紙として財産一覧表を添付する必要性がありました。
③を解決するためには、「その余の財産は、長女由美に相続させる」という、包括的な文言の記載をする必要性がありました。このような記載があれば、由美さんは、汚部屋にあった色々な品を単独で取得することができましたので、自由に処分することができました。
遺言書がない場合、残された相続人は思わぬ悲劇に見舞われる可能性があります。遺言書の作成は、ご自身の意思を明確に伝え、相続手続きを円滑に進めるうえで必要不可欠です。
もっとも、作成する内容によっては、法的な専門知識が必要となりますので、弁護士等の専門家のサポートを得ることで、ご自身の意向が反映された遺言書を作成することができます。
三浦 裕和
弁護士
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