「警官の多い町は犯罪多発」「病院が少ない街の住民は長生き」…統計データの読み誤りで生じる「トンデモ因果関係」の例【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月17日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
さまざまな数値を蓄積し、その結果からさまざまな情報を読み取る「統計データ」。大変便利で有益なものですが、データの解釈にはそれなりの見識だといえます。ここでは、統計の結果導き出された「誤った因果関係」について見ていきましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
アイスクリームが売れると水難事故が増える
アイスクリームが売れる日は水難事故が多いといわれています。それならば、アイスクリームの販売を禁止すればよいのでしょうか? そんなことはあり得ませんね。
アイスクリームの売上数と水難事故の数は似たような動きをするかもしれませんが、それはアイスクリームが原因で水難事故が結果だということではありませんから。
同様に、世の中には似たような動きをするものが多数ありますが、それらが原因と結果の関係なのか否かは注意深く考察する必要があるのです。
A氏とB氏が似ているとしても、A氏がB氏の親だとは限りません。子かもしれないし、2人は兄弟かもしれないし、場合によってはまったくの別人が偶然似ているだけかもしれませんから。
ちなみに、アイスクリームの事例では、気温が高い日はアイスクリームが売れ、同時に水遊びをする人が増えて水難事故が増えるということでしょうから、気温が親でアイスクリームと水難事故は兄弟だ、というわけですね。
財政赤字が減った国ほど経済成長率が高い
財政赤字の減った国ほど経済成長率が高い、というのは、あり得ない話ではありません。経済成長率が高い国は景気がよく税収が増えるので、財政赤字が減りやすいからです。
しかし、もう1つの解釈もあり得ます。財政赤字が減ると政府の借金が減るので、金利が低下し、その結果として民間の設備投資が促進されて景気がよくなり、経済成長率が上がる、というものです。
いかにも財務省あたりが好きそうな論理展開で、本当にそんなことが起こり得るのか否か、筆者にはよくわかりません。
もっとも、「だから日本も財政再建を頑張って成長率を高めよう」という人には賛同できません。日本はすでに金利がゼロ付近ですから、財政赤字を削減しても金利は下がらず、設備投資も増えないからです。
警察官が多い街は犯罪が多い
犯罪が多い街では、税金を主に警察官の給料に使いますが、犯罪が少ない街では税金を公園等に使うでしょう。そうであれば、犯罪が多い街では警察官が多くなりますから、警察官が多い街ほど犯罪が多いのは自然なことでしょう。
間違っても「警察官が多い街ほど犯罪が多いから、犯罪を減らすために警察官を減らそう」などと考えないことですね。親と子が逆転してしまいますから。
もっとも、本件は正解がもうひとつあります。人口が大きい街は犯罪も多いし警察官の数も多いでしょう。つまり、人口が親で犯罪数と警察官数が兄弟だ、というわけですね。そうした問題が生じないように、人口1,000人あたりの犯罪数と警察官数を比較する、といった工夫が求められるわけです。
株価が「景気の先行指標」といわれる理由
どちらが原因でどちらが結果か、判定するためには、どちらが先に起きたかを観察すべきだ、という考え方もあるでしょう。多くの場合、原因が結果よりも先に発生しますから。しかし、何事にも例外はあります。
株価が上がると、しばらくして景気が回復する場合が多いのです。だから「株価は景気の先行指標だ」といわれるわけです。株価が上がれば儲かった人が贅沢をするので景気がよくなる、ということもありますが、特に過去の日本の場合は株を持っている人が少なかったので、そうしたことが頻繁に起きていたとは考えにくいわけです。
おそらく、「景気が回復しそうだ」と人々が予想すると、人々が株を買うので株価が上がる、ということなのでしょう。政府が大規模な景気対策を発表すれば、景気が回復する可能性が高いですから、それを見越して株を買う人が増え、株価は直ちに上がるでしょうが、実際に景気がよくなるまでには数ヵ月を要する場合が少なくありません。
したがって、景気が親で株価が子なのですが、先に発生するのは株価上昇の方だ、ということのようです。気をつけたいものですね。
病院が多い街は入院が多い? 病院が少ない街は長生き?
病院が多い街ほど入院が多い、といったこともあり得るでしょう。1つには、病院が多い街ではベッドの空きが増えて病院の経営が苦しいので医師が患者に入院を勧め、その結果として入院が増える、ということが考えられます。「供給が需要を作り出す」などと悪口をいう人がいそうです。
医師が金儲けのために患者を入院させているというのは多くの真面目な医師に失礼でしょうが、そういう医師が少しでもいれば、統計的には病院が多い街ほど入院が多くなる、ということも起きるかもしれません。
それより起こりそうなことは、病気がちな人は病院数の多い街に引っ越しをするけれど、健康な人は病院の少ない街に住み続ける、ということでしょう。そうなると、病院が少ない街の人の方が健康で長生きをする、という統計が得られるかもしれません。
仮にそうした統計が得られたとしても、「病院は命を縮めるから、病院を減らそう」などと考えてはいけません。陰謀論者や極端な緊縮財政論者がそうしたことをいい出さないように、しっかり監視しないといけませんね(笑)。
では、「日本ではがんで亡くなる人が多い。がんの治療が遅れているからだ」というのはどうでしょう。もしかすると、「日本の医療は進んでいるので、がんも治りやすいが、それ以外の病気の方が一層治りやすい。したがって、日本人の多くはがんになるまで長生きする」ということかもしれませんよ。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家
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