ブータン、農村女性が目指す「経済的自立」と「輸入依存脱却」…“シイタケ栽培”が選ばれた理由とは
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月25日 11時0分
ブータン国内最初の民間新聞として発足した『Bhutan Times』Web版より、現地メディアでしか手に入らない貴重なローカルニュースを翻訳・編集してお伝えする。
小さな村の農村女性たちが挑んだプロジェクト
美しい風景が広がるブータンの小さな村、ケロンでは、決意を持った女性たちが持続可能な農業と経済的自立の分野で重要な成果を上げ、シイタケの初収穫を成功させた。
この収穫は、何ヵ月にわたる農村女性たちの努力、訓練、ブータン全土での強靭なコミュニティの構築に尽力するさまざまな組織や政府機関からの協力的支援の集大成である。
地元の農業イニシアチブを推進してきた「ケロン女性グループ」は、ジャンチュブシン有機農場の指導を受けてこのプロジェクトに着手した。ジャンチュブシン有機農場は技術的な専門知識を提供し、国立キノコセンター(NMC)は、このプロジェクトのために菌床を提供した。
さらに、女性たちのプロジェクトを実現させるために、被供与団体であるNGO団体「レニュー(RENEW)」と「国連開発計画(UNDP)ブータン」からの資金提供により、キノコ栽培に取り組むための資源が提供された。キノコ栽培は、ブータン国内ではまだ十分に開拓されていない産業であり、この支援は新たな挑戦に取り組む女性たちを後押しする、非常に意義のあるものとなった。
成果は「単なるシイタケの収穫」だけではない
初めての収穫は、ケロン女性グループの献身と粘り強さを象徴する成果であり、シイタケ栽培を収入源とすることで地域社会とのつながりを深め、経済的自立を進める新たな方法として受け入れられた。
「この収穫を実現するために貴重な支援と協力をしてくださったナガングラム・ドゥンカク行政※1とチョコリン・ゲウォグ※2にも心から感謝しています」と、同団体の広報担当者は述べ、地方政府と地域社会の支援が彼女たちの“旅”において果たした役割に感謝の意を表した。
この成果は単なるシイタケの収穫を超え、農村女性の自立を促進し、持続可能な農業の実践を奨励するための重要なマイルストーンを示している。
※1ドゥンカク…ブータンでは、行政区分が細かく設定されており、ドゥンカクは地方行政区画の一つで、日本で言う「県」に相当する。ブータン全土は20のドゥンカクに分けられ、それぞれが地方行政やサービス提供の役割を担っている。
※2ゲウォグ…複数の村(チョー)で構成される、ドゥンカク内の小規模な行政区画です。ゲウォグは自治体としての機能を持ち、地域住民に密接したサービスを提供している。
国立キノコセンターが推進する事業
国立キノコセンター(NMC)の支援は、このプロジェクトを実現するために非常に重要な役割を果たした。NMCは、ブータン全土でキノコ栽培を推進しており、栽培者が実行可能なキノコ栽培の手法を確立できるように支援している。
NMCのプロジェクトディレクター、チェンチョ・ドゥルクパ氏によれば、政府はキノコ栽培専用の予算を割り当てていないとのことだ。
「今年度、NMCには約700万ニュルタム(約1,280万円。ニュルタムはブータンの通貨単位)が予算として割り当てられており、これには資本予算と運営予算が含まれていて、キノコの菌床を作成し、栽培者に提供するために使われています」とドゥルクパ氏は説明した。この資金は、農民に対してキノコ栽培を収益性の高い持続可能な農業の選択肢として探求するよう奨励する取り組みに充てられている。
NMCのアプローチは、地域主導のイニシアチブを促進することに重点を置いており、参加希望者が厳格な会員資格なしで参加できるようになっている。「NMCはコミュニティメンバーを選定しません。重要なのは栽培者の熱意であり、栽培を始める前に実現可能かどうかの調査のみを行います」と、ドゥルクパ氏は話した。このオープンなアプローチにより、農業に情熱を持つ農民が参加し、NMCのサポートと資源を活用できるようになっている。
シイタケ栽培における課題
しかし、シイタケ栽培には課題もある。ブータンでは、インフラが限られているため、年間を通じての栽培は難しいのが現状だ。
「簡単なキノコ小屋で栽培した場合、それは季節性になります。しかし、質の高いキノコ小屋を建て、空調設備や加湿器、暖房設備などの気候調整システムに投資すれば、年間を通してキノコを栽培することができます」と、NMCのプロジェクトディレクターは話した。
ケロン女性グループは現在、季節によって限定的に活動しているが、事業拡大とインフラ改善により継続的な生産が可能となり、関与する女性たちに安定した収入源を提供できる可能性がある。
一方、ブータンの市場はまだ国内生産で十分に供給されていないため、同グループは現状、キノコに対する地元の需要を満たすことに重点を置いている。
インド、タイなど……輸入されたキノコによる課題も
2023〜2024年度に、ブータンは合計約130トンのキノコを生産したが、その多くは小規模農家によるシンプルな栽培方法で育てられたものだ。「農民たちは収穫したキノコを主に地元市場で販売していますが、依然として地域内の需要を完全には満たせてはいません」とドゥルクパ氏は説明し、国内市場にはさらなる成長の余地があることを指摘した。
シイタケを筆頭にキノコの国内需要は年々、増え続けているが、特に遠隔地の小さなコミュニティでは、販売の面で大きな課題があることも明らかである。
NMCのプロジェクトディレクターは、ある栽培者が収穫量の多さに苦労した例を挙げた。「小さなコミュニティでは、シイタケの培養材(ビレット)が同時期に実をつけてしまい、収穫量が予想を大きく上回り、販売が追いつかない状況が発生しました」と説明した。
この問題を克服するためには、フルーツの数量とタイミングを調整し、市場の需要に合わせて生産を行うことが必要だ。
「生産スケジュールを慎重に管理することによって、農民がこうした課題を避け、利益を最大化できるよう支援しています」(NMCのプロジェクトディレクター)
また、NMCは輸入されたキノコによる課題にも直面している。ブータンで消費されるキノコの約90%はインドやタイから輸入されており、ケロン女性グループのような地元の取り組みが輸入依存を減らすために重要であることを示している。
「特に、インドから輸入されるヒラタケの安価な価格が、国内で生産されるヒラタケの価格に影響を与えています」とドゥルクパ氏は指摘した。このため、NMCは農民に対してキノコの栽培を積極的に奨励しており、長期的な目標として輸入を減らし、地元経済を支援することを目指している。
従来の「丸太」を使った栽培からの移行へ
現在、NMCはより持続可能で環境に優しい栽培方法を模索している。プロジェクトディレクターは、今、最も一般的な方法である丸太を使った栽培から、チップ(おがくず)を使った栽培への移行を計画していることを明かした。
「私たちは持続可能性と環境への配慮から、丸太を使った栽培からおがくずを使った栽培に移行しようとしています」とNMCのプロジェクトディレクターは話した。この移行は、ブータンの自然資源を保護することを目指すだけでなく、より効率的な栽培方法を提供するものである。
将来的には、NMCはキノコ栽培を地域の農業経済における重要な柱へと成長させ、農民に安定した収益をもたらすことを目指している。また、NMCは農民が生産と収益の両方で持続可能な結果を得るための支援を続けていく予定だ。
ケロン女性グループの成功は、農業の可能性を広げ、地域社会の力を強化する方法として、他の地域にも広がることを期待されている。このプロジェクトの取り組みが他の団体にとってもインスピレーションとなり、ブータン全体での持続可能な農業と経済的自立を促進することにつながるだろう。
この記事に関連するニュース
-
中国、「農業大国」へ生産拡大目指す=中央農村工作会議
ロイター / 2024年12月19日 9時57分
-
イチゴの収穫シーズン到来、収穫に追われる農家―浙江省寧波市
Record China / 2024年12月15日 20時30分
-
地域再生プロジェクトを通じて誕生した「赤村 有機いちごのジェラート」を初めて販売!
PR TIMES / 2024年12月10日 14時0分
-
『ヘンプ(産業用大麻)』がサステナブルの鍵!九州ヘンプ協会は環境省グッドライフアワードを受賞しました。
PR TIMES / 2024年12月2日 10時45分
-
マルホン胡麻油のアフリカ産地支援の取り組みが、第25回「グリーン購入大賞」の「大賞」(農林水産特別部門)を受賞
PR TIMES / 2024年11月27日 16時45分
ランキング
-
1今年流行った「大人の学び」が明らかに! 2025年に"注目すべきスキル"とは?
マイナビニュース / 2024年12月26日 17時3分
-
2【10年に一度レベルの年末寒波】エアコン暖房の無駄を防ぐ部屋づくりのポイントは? - 節電の基本をダイキンが解説
マイナビニュース / 2024年12月26日 9時31分
-
3トースターでお餅を焼くと中がかたいまま…上手に焼くコツをタイガーが伝授!「予熱」より「余熱」がおすすめ
まいどなニュース / 2024年12月25日 17時45分
-
4「別にいいじゃない」ホテルのアメニティを大量に持ち帰る彼女にドン引き。ファミレスでも“常識外れの行動”に
日刊SPA! / 2024年12月26日 8時52分
-
5【MEGA地震予測・2025最新版】「能登半島地震以上の大きな地震が起きる可能性」を指摘 北海道・青森、九州・四国、首都圏も要警戒ゾーン
NEWSポストセブン / 2024年12月26日 11時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください