「税金逃れ」でシンガポール移住なんてするんじゃなかった…「50代富裕層」が大後悔しているワケ【税理士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月21日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
4年連続で税収の過去最高値を更新し続けている日本。重い税負担に耐えかねて、税率の低い国への移住を考える人も少なくないでしょう。しかしながら、安易な海外移住は後悔に繋がることも……。本記事では、実際にシンガポールへと移住したフリーのエンジニアであるAさんの事例とともに、海外移住と税制の注意点について、木戸真智子税理士が解説します。※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。
シンガポール移住を決意したワケ
シンガポール在住のAさん(現在50代)は、フルリモートで働くエンジニア。現在は外注で仕事を請け負っています。もともとは日本で会社勤めをしていたのですが、時間の制約が非常に多く、遅くまでの残業がほとんどだったため、退職者もあとを絶たない職場でした。
Aさんは当時の職場に長く勤めていたため、責任者として部下を取りまとめる立場にありましたが、部下が急に辞めたり、休んだりすることへの対応に追われ、尋常ではないストレスがかかる日々を送っていました。
唯一のメリットは、給与の待遇がとてもよかったということ。しかし、その代償はあまりにも大きく、子どもが小さいときには父親らしいことも満足にできない状況でした。
そんな日々を過ごすなか、Aさんも「自分が年老いてもこの仕事を続けられるだろうか……」という不安がよぎり、転職を考えるように。結果、転職という形ではなく、以前の同僚が誘ってくれたフルリモートでの業務委託という形で個人事業主として再スタートを切ります。
働く時間も自由、そして、仕事をする場所も自由……というこれまでと真逆の環境になったAさんは、これまでの反動かのように、自由を謳歌して、株式投資や不動産投資なども行うようになりました。株式投資と不動産投資の収入を合わせると、現収入は退職前をはるかに上回るようになりました。そして、学生時代から密かに憧れていた「海外に住みたい」という気持ちが日に日に大きくなり、移住を本格的に考えるようになります。
そこで、Aさんが一番に候補として思い浮かべたのはシンガポールでした。シンガポールにAさんが初めて行ったのは、中学生のときでした。私立の学校だったため、修学旅行は海外で、行先はシンガポールでした。実はAさんにとってはこのシンガポールが、生まれて初めての海外旅行だったため、そのときの感動はいまでも鮮明に覚えています。
それだけに、海外にまた行くのなら、もしも移住するのなら、やはりシンガポールだとAさんは確信したのでした。
税制面でも有利なシンガポール
調べてみると、シンガポールは税制面でもメリットがあるということがわかりました。フリーランスとして働き始めてから、納税の負担額にいつも頭を悩ませていたAさんにとって、これは嬉しい情報です。
個人事業なので自分一人ですし、日本では自宅でフルリモートできることから、使える経費がなく、収入のほとんどが所得となり、所得税率も高い税率になってしまっていました。定期的にくる、所得税、消費税、住民税、事業税の税負担をどうにかできないものかと考えていたのです。
シンガポールでは、そもそも日本より税率が低く、同じような累進課税であっても最高税率は日本の半分ほどということもわかりました。「これは移住しかない。海外移住なんて、夢のようではないか」と、はやる気持ちをとめられませんでした。
居住者であれば株式売却益等のキャピタルゲインが「非課税」に
シンガポールでは居住地主義を採用しているため、滞在期間などによって居住者、非居住者に分類されます。
もし居住者になれた場合、株式譲渡についてキャピタルゲインがなんと非課税になるということを知りました。株式投資を趣味のようにしているAさんにとっては非常に魅力的な制度です。そのため、シンガポール居住者となった場合には、株式譲渡のキャピタルゲインについて、日本でもシンガポールでも課税されないということもあり得るのです。
そうしてAさんは夢の海外移住に向けた準備を着々と進めていきました。
理想とかけ離れたシンガポールでの生活
それから数年後、居住者としての夢のシンガポール移住生活は実現したのですが、想像していたよりもずっと孤独で地味な毎日を過ごしていました。
まず、そもそも知り合いがいないので、基本単独行動になります。また、仕事がフルリモートで行えるため、家族以外の人と会ったり話したりすることがない日も多いのです。これは当然わかっていたことではありましたが、やはり言葉の壁もありました。
そして税金が日本より安いといっても物価はとても高いのです。湿気や、日本のような四季がないことも体調に影響しているようでした。なにより、ゆっくりお風呂につかりたいな……。温泉に入りたいな……。そんな気持ちになることも頻繁にありました。
一方で教育水準は素晴らしいため、日本が恋しい反面、子どもの将来を思うとメリットもあるということで、複雑な気持ちで過ごしていました。
「居住者」と「非居住者」でまったく異なる税金
そんなときに、Aさんの父親の相続が発生したのです。Aさんの父親は事業をしていたこともあり、相続財産は、1億円を優に超えていました。Aさんには弟がいるので、母親含め3名で相続をすることに。
遺産分割は、日本にいる弟や母親が不動産などを相続し、Aさんは有価証券を相続することとなりました。Aさんほどではないのですが、Aさんの父親も株式には興味があり、いろいろな銘柄の株式を長期保有していたようです。
そうして、遺産の配分の決定にも特に揉めることなく、遺産分割協議が粛々と進んでいったあるとき、Aさんには大変なことに気がつきました。相続により引き継いだ有価証券については、非居住者が相続した場合、含み益に課税され、納税しなければなりません。これは非居住者にかかる税金であり、居住者にはかかりません。
Aさんが父親から相続する相続財産としての有価証券の時価は1億3,000万円ありました。時価が1億円を超えている有価証券を非居住者が相続した場合には、未実現利益にまで課税されてしまいます。Aさんの父親は長期保有していたため、含み益はかなりの金額になっていました。
そして、それは準確定申告としての申告と納税のため、期限が4ヵ月という、短い期限でもあったため、思いがけず、多額の出費を余儀なくされることに。Aさんは、日本での税金を逃れて海外移住を決意したものの、非居住者であるがゆえにかかる税金に苦しめられることになるのでした。
確かに海外移住はとても魅力的なことでもありますし、メリットもたくさんあるでしょう。しかし、大きな決断でもあるため、長い目でみて、さまざまな可能性を検討し、後悔しない選択をすることが大事です。
木戸 真智子
税理士事務所エールパートナー
税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー
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