〈今日の弁当、半分残して明日のご飯〉超絶倹約家の80代父、死去…残された財産額に「たったこれだけ?」疑念を抱いた長男が取った、驚きの行動
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月15日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
老後を安心して過ごしたいというのは、だれもが思うこと。しかし、老後を考えるあまり、日常生活を切り詰めると、さまざまな軋轢が生じる。ある家族の相続から考察する。
一見普通のサラリーマン家庭、実情を見ると…
老後資金への関心が高まっている近年の日本。ミドル層、シニア層のみならず、若い世代も注意を向けている。年金への加入はもちろん、新NISAやiDeCoへの加入、不動産投資などさまざまな手段があるが、やはり王道はいまなお預貯金だ。
金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』によると、世帯の金融資産保有額は下記のようになっている。
30代世帯:平均856万円・中央値337万円
40代世帯:平均1,236万円・中央値500万円
50代世帯:平均1,611万円・中央値745万円
60代世帯:平均2,588万円・中央値1,200万円
横浜市在住の50代会社員の山田さん(仮名)は、自身の父親の相続時のことを話してくれた。
「私の父親は、ごく普通のサラリーマン、母親は専業主婦でした。私と3歳年下の妹は、それぞれ奨学金もなく大学と短大を卒業したのですが…」
山田さんの両親は「マニア」といえるほどの倹約家だったという。「衣食住はとことん切り詰める」というのが信条で、賃貸の古くて狭いマンションに暮らし、購入するのは激安商品ばかりだった。
「子ども時代はなかなか新しい下着も買ってもらえず、むこうが透けるくらい薄くなったものを穿いていました。小学生のとき、ついたあだ名は「セクシー」。修学旅行のとき、どれほど恥ずかしかったか…」
大学に進学後、山田さんはアルバイトに精を出し、身の回りのものをそろえ、なんとか周囲に追いつこうとつとめた。だが、両親からは嫌みをいわれてばかりで、ついには「そんなお金があるなら家に入れろ」と迫られることに。山田さんは必死で就職活動を頑張り、逃れるように家を出た。
「それより、かわいそうなのは妹ですよ。女の子なのに洋服は私のお下がり。長い髪はシャンプーが減るといって、母親が刈り込んでベリーショート。友達づきあいも全然していなかったように記憶しています」
「病気なんだから体調を優先して…」「金が減るじゃないか!」
3年前、山田さんの70代の父親が深刻な病気になって療養が必要に。しかし、年齢のこともあって明るい見通しは立たなかった。入退院を繰り返しながら、自宅で寝たり起きたりの生活をしていたが、驚くべきことに、健康だったときの生活習慣を変えようとしなかった。
もらった食品なども「もったいない」といってギリギリまでしまい込み、消費期限が過ぎてからようやく食べる。エアコンは使わず、夏場は大汗をかき、冬場は寒さに震える。山田さんがお見舞に立ち寄り、デパ地下で買った弁当を渡しても、半分残して「明日の分に」。
「〈病気なんだから、体調を優先して〉といっても〈そんなことをしていたらお金が減るじゃないか!〉というんです。それで〈一体どれくらい貯めているの?〉と聞いたら、冗談めかして〈もう1軒家が建つぐらい〉と…」
そのようななか、病気の父親の看護につとめていた母親にがんが発覚。かなり進行していて、それから半年後、母親のほうが先立ってしまった。
そばで看護してくれる人を失った父親は、家庭を築いて隣町に暮らす山田さんではなく、都内の賃貸マンションに暮らす妹に、同居を強要した。
「私が〈陽子(仮名)は自宅が東京だし、フルタイムの会社員が介護するのは大変だから、ヘルパーさんを頼もう〉というと、〈ただで働くやつがいるのに、なぜ金を使うのか〉と…」
「結局、妹が折れて同居生活がスタートしました。妹は残業を断って定時上がりをしたり、介護休暇を取ったり、有休を使ったりして、どうにかしのいでいました。私も土日は手伝いに行きましたが…」
そうこうしているうちに、父親の病状は次第に悪化。入院から3週間程度で眠るように亡くなったという。
通帳の残高に「たったそれだけ?」
山田さんも、いよいよ相続手続きをすることになった。
「母親が亡くなったとき、分割するような財産は皆無。預貯金はもちろん、装飾品の類もゼロでした。しかし、あれだけ倹約していた両親なのだから、本当に〈家1軒分〉の遺産があるだろうと思っていたのですが…」
父親に付き添っていた妹は、さまざまな手続きも任されていた。山田さんは妹に父親の資産状況を尋ねると、引き出しから3冊の通帳を取り出した。
「1冊は、年金が振り込まれているもの。生活費に使っているようで、入金と出金が繰り返されており、残高は数十万円。あとの2冊は、それぞれ200万円の入金があるもの。妹がいうには、私と妹それぞれの分、ということらしいのですが…」
「でも、どう考えてもおかしいのです。われわれが子どものころから、恥ずかしいほど倹約していましたから。本当はもっとあるはずだと思いまして…」
山田さんは、介護のために同居していた妹を問いただした。妹は否定したが、山田さんは納得できず、ひとり、亡き父親の使っていた戸棚のなかを探し回った。
「あった――!」
一部の相続人による「財産着服」の問題
しかし、2年前の日付で2,000万円の残高があった通帳を記帳したところ、ほとんどカラになっていた。山田さんは妹に記帳済みの通帳を突きつけ、なかのお金をどうしたのかと尋ねたが、
「生活のために使った」
「お父さんに必要なものを買った」
といいはるだけで話は進まない。
「でも、泣きながら言い訳する妹を見ていて、妹の子ども時代を思い出したのです。別に家が貧乏なわけでもないのに、ガマンばかりさせられて…」
「そんな思いをさせた父親を黙って介護して、かわいそうだよな、と思いました」
結局、山田さんは200万円だけ相続し、それ以外のお金のことは問いただすことはせず、すべて終了となったのだった。
口座や預金通帳の存在を黙っていたり、被相続人の口座からコッソリお金を引き出したりといった「遺産隠し」はしばしば見受けられる。税務調査では見つかることが多いのだが、遺産分割の場で見つけるのは簡単ではない。
「遺産隠し」が起きないようにするには、多くの場合、生前対策として遺言書を残すことが有効だろう。ただし、作成時にミスを起こしやすい「自筆遺言証書」は、逆にトラブルが起こりがち。トラブル防止に本気を出すなら、遺言内容を公証人が筆記する「公正証書遺言」がお勧めだ。
今回は、山田さんの妹が父親の介護を行っていたことから「寄与分」を主張する可能性があった。寄与分とは、相続人の財産の維持、増加に特別の貢献をした相続人の持つ取り分であり、受けることができるのは、共同相続人に限られる。ただし実際には、寄与分が認められるにはかなり高いハードルがされる。
意図的に金銭を隠し、着服した場合、通常なら横領罪等に問われることになるが、配偶者、直系血族、同居の親族との間で横領をしても、犯罪にはならず罰則もないというのが原則だ。ただし、そのようにして手にした相続財産も、申告しなければ、当然ペナルティの対象になるため、最終的には明るみに出るということを知っておきたい。
[参考資料]
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