「人手不足倒産」が起きるほど深刻化する労働力不足問題…「待遇を良くすれば解決」とはいかない理由【人材のプロが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月24日 12時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
業界によっては「人手不足倒産」が起きるほど深刻な労働力不足が続いています。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長 福留拓人氏が、人手不足で経営難に陥る企業の状況と対応策について詳しく解説します。
労働力不足で「人手不足倒産」が起きるほど深刻な状況に
みなさまも報道などでご存じのように、現在の日本では人手不足というキーワードを目にしない日がないような状況で、業界によっては「人手不足倒産」が起きるほど深刻な労働力不足が続いています。
人手不足倒産とは「事業を運営する上で必要な人材を確保できないことが原因で倒産してしまうこと」を指します。すなわち会社の経営状態が健全で黒字であっても、人手不足という要因によって倒産してしまうことがあるということです。不思議な感じがするかもしれませんが、まぎれもない事実です。
もともと黒字倒産というのはキャッシュフロー(お金の流れ)のやりくりがうまくいかないため、利益が出ているにもかかわらず倒産してしまうというのが主な現象でした。しかし、現在は人手不足が黒字倒産の大きな要因になっています。
「人手不足は事業の規模を縮小すれば回避できるのではないか」と思われがちですが、それほど単純なものではありません。業種によってさまざまではありますが、例えば店舗を構えて事業を運営している飲食業の経営者を例に取ってみましょう。
すでに店舗を有しているということは、固定費(家賃・水道光熱費・リース料など)が発生しているわけですから、お店を営業していなくてもお金は出て行きます。また、言うまでもなくその店舗で働いてくれるスタッフを確保しなければお店を開くことができません。お店を開いて売上を得なければ固定費を回収することができなくなります。
このように、従業員が集まらないという事態が長期化したり深刻化したりすると、倒産の要因になるわけです。経営全般としては、人手不足に陥ると開業というスタートラインにさえ立てなくなります。これがいま問題になっている人手不足倒産の典型的な例です。
給料を上げれば人は集まる…そう簡単ではない理由
テレビ、新聞、ネットなどで人手不足の記事を読むと、従業員の待遇がよくないから人が集まらないという論調が多いようです。人の取り合いになっても最終的に自社を選んでもらうことができない企業が多いということになりますが、そうなると従業員の時給を上げるなど待遇を改善して人を呼び込めばよいではないかと思いがちです。
しかし事業運営はそう単純なものではありません。そもそも多くの中小企業は経済的にギリギリの状態で経営していることも珍しくありません。使うべきお金を出したくても出せないというケースも多いと思います。
経営者が人手不足を解消したいのは山々で、給料を上げたいのも山々です。しかし実際には人件費を上げることですぐに赤字に転落してしまうという危険があります。ですから待遇を上げるということは非常に難しいことなのです。
給料は新規募集の人だけ上げるわけにはいきません。そんなことをすれば既存の従業員の待遇が相対的に悪くなってしまいます。経営者は新旧従業員の板ばさみになってしまうことでしょう。
ということで給料を上げて採用しないと将来的にリスクが生まれます。中途半端な待遇改善で見切り発車をして採用活動をしてしまうと、結局応募がなく採用できなかったということになりかねません。この悪循環のサイクルを何回か繰り返すとすぐに手詰まりになってしまう可能性があります。こういう事情をクリアできないので大きな企業でもなかなか自力で解決できないわけです。
人手不足解消のために必要なこと
解決するためには、人手不足を克服して売上を伸ばして利益も一緒に伸ばすことを目指すか、採用関連以外の経費を見直して費用を下げるかという決断に迫られます。もっとも望ましいのは人件費をあまり動かすことなく相対評価でフェアな待遇が獲得できる進歩的な人事評価の仕組みを整えることです。
ここで挙げた一例から見ても、経営上かなり難易度の高い課題を解決しない限り、人手不足の問題を根本的に解決することができないということが透けて見えてきます。どうしても採用や待遇の話に気を取られがちですが、経営はいろいろな要素が結びついて連動しています。多くの中小企業にとって自力でこういう問題を解決するのは大変な困難を伴うでしょう。
人手不足解消のためには経営戦略の根本的な再構築、そもそもの事業運営のビジョンとミッションの見直しが必要です。部分的に見えていたように見えるものは、企業そのものの存在価値と表裏一体の課題になっていると表現しても言い過ぎではないようです。
こういう領域に強い経営者がリーダーシップを発揮して立て直しに奔走することも素晴らしいことですが、それぞれの経営者にも得手不得手があります。人手不足は全社挙げてのプロジェクトチームを結成して難局に当たるような、かなり難易度の高いテーマです。
人が採用できなくなったという状況から数年を経過すると、ガンが転移するかのように経営が蝕まれることがあります。ですから「最近、採用ができなくなってきた」と思ったら一定期間が経過したタイミングで会社の健康状態を検査し、経営全般のチェックを行うようおすすめします。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長
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