深刻な人手不足にもかかわらず採用基準は一層厳しくなっているという矛盾…幹部社員を求める企業が抱える「ジレンマ」とは【人材のプロが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月1日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
昨今深刻化する人手不足。それにも関わらず、企業の幹部社員の採用基準は以前より厳しくなっているといいます。それはいったいなぜなのでしょうか。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、採用基準を下げられない理由を解説します。
人手不足でも幹部社員の採用基準は上がっている…一体なぜ?
前回のコラムで「人手不足の状態が続くと経営全般が蝕まれてしまう」というお話をさせていただきました。猫の手も借りたいほど人手を欲している会社が数多くあるわけですが、以前と比べると優秀な管理職も絶対的に人数が不足してきています。企業は優秀な幹部を求めているのです。
しかし、不思議なことに幹部社員の採用基準は緩むことなく、逆に引き締めが強くなっています。今回はその現象について考えてみようと思います。
最初に少し補足的になりますが、現場のスタッフにおける人手不足解消にあたっては、給料などの待遇をできるだけ改善することが重要です。ですから採用基準を大幅に緩和する形でスタッフを集めることになります。
企業の人事部門は血眼になって第一線に立つ現場スタッフの採用に取り組みます。その一方で、幹部社員に関しても注意を払わねばなりません。ビジネスを高いレベルでリードしてマネジメントを司ってくれる幹部もまったく足りていないからです。
いま採用に注力している会社というのは成長継続中の会社です。売上も、利益も、従業員も増えています。成長企業であるという前提があるのですが、会社をまとめることのできる優秀な幹部が不足しがちで、幹部社員も積極募集することになります。
先ほど申し上げたとおり、現場スタッフの採用では、人が足りないので基準を緩めました。ところが幹部社員を採用する場合は逆行して選考が引き締められ、基準が上がっています。
振り返ってみると、リーマンショックの前あたりまで企業は拡大期にありました。そこでは雇用流動性が高まり、転職市場が発展しました。中途採用で多くの幹部を雇い入れ、同業他社に長く在職している人材を招いて幹部に登用することが恒常的になったことがありました。
しかし、中途入社の人材が幹部としてすぐ新しい会社に馴染んで活躍する事例は思いのほか多くはありません。それを見て、企業も幹部社員の登用について学んだ面があると思います。
異業種の転職はまだまだハードルが高い
経営幹部の見極めというのは非常に難しく、中途採用に失敗してしまうと、その傘下のスタッフが総崩れになってしまう可能性があります。人手不足のトレンドでは企業もこの辺に過敏になります。
私は職業柄、多くのビジネスパーソンにお会いするのですが、「この人はものすごく実績を出していて、能力も高いので、この会社に入ったら間違いなくWin-Winになって活躍するだろう」という人材がいれば、期待値を持って企業へご紹介します。
しかし幹部採用になると、直近に勤務した企業の業種が採用しようとしている企業と違う業種だと「マッチしていない」と思われ、その点を敬遠されてはじかれてしまうことがあります。そういう点ではまだまだ壁が高いように思います。
幹部社員レベルで能力が高く実績の出ている人が業種、業態、職種の壁を超え、もう少し柔軟になれば加速度的に雇用流動性の問題が解決するはずです。そして日本経済もかなり活性化してくると思います。
中高年の労働市場が活性化してくると、それに連動して人手不足も解決してくるのですが、企業はどうしても末端にいるオペレーションのスタッフの人手不足解消に注目してしまいます。その上位にいる幹部社員の人手不足を解消すれば幹部とスタッフ双方の課題が連動的に解決するということは、まだ一部の進歩的な企業以外は気がついていないようです。私はそこに歯がゆい印象を受けています。大いにジレンマを感じるところなのです。
能力を持った人材を柔軟に採用し、流動性を高めることで企業も成長する
「歩んできた業界が違う」「ビジネス経験の中身が違う」「転職回数が多い」「弊社の社風やビジネスにフィットしていない」「経歴に問題がある」
このような点が透けて見えると、せっかくの逸材であっても書類選考などで真っ先にNGが出てしまうことがあります。残念なことです。通常は年齢が上がってくると、それに比例して業務経験も上がってきます。年齢が上がるということは、必ずしも多くの可能性を選択できるというわけではありません。
過去を振り返った際に「この経験とマッチしていなくてはならない」となると、採用が非常に限局的になります。人手不足をはじめとする不透明な時代においては、能力を持った幹部を思い切って抜擢して登用するということを、企業はもう少し柔軟に検討してみてもよいかもしれません。そうしないと幹部の人手不足もおそらくずっと解決できないということになってしまうでしょう。そうなると企業も成長できません。
マネジメント層が不足したままだと「マネジメントができない」=「末端のオペレーション部分のマネジメントもできない」ということになるので、組織がいつまで経っても成熟しません。例えば離職者が止められない、現場の売上・利益が上がらない、経営主体の売上・利益も上がらないということです。
スタッフ部分だけの人手不足を解消しようとしても同じことの繰り返しになるので、企業の成長や進展が遅くなってしまいます。これらはパッケージで解決しなくてはならないということはこれまでも指摘してきました。
幹部採用の人手不足解消はマネジメントの向こう側にある現場のさまざまな問題を解決するものですから、やはり一気通貫でつながっているといえるでしょう。幹部社員採用の考え方においては、まだまだ硬直化した部分が見受けられますから、先ほども申し上げたとおり、柔軟に対応する取り組みを深めつつ、企業は一層の意識転換を心掛ける必要があるのではないでしょうか。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長
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