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金融市場も“アメリカ・ファースト” これから始まる「トランプ相場」を生き残る投資戦略【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月18日 12時10分

金融市場も“アメリカ・ファースト” これから始まる「トランプ相場」を生き残る投資戦略【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】

(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

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【目次】

1.マーケットも「アメリカ・ファースト」

2.乱気流に突入するマーケット

3.トランプ2.0を生き残る投資戦略

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米国の大統領選挙と議会選挙は、共和党が大統領府と上下両院の過半数を全て押さえる「トリプル・レッド(共和党のイメージカラーの赤にちなんだ呼び方)」となりました。世論のお墨付きを得たことで、今後トランプ新大統領の個性的な経済政策が実行に移されることとなりそうです。「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げ、同盟国との摩擦や対峙する国への容赦ない攻撃をためらわないトランプ新政権がスタートすることで、世界の金融市場は乱気流に突入しつつあります。

1.マーケットも「アメリカ・ファースト」

■「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ新大統領は、国際協調や自由貿易よりも自国の利益を優先する政策を公言しています。まるで、アニメのドラえもんに登場するジャイアンのように「お前の物はオレの物、オレの物はオレの物」と言わんばかりの振る舞いに終始するようなら、のび太(日本)もスネ夫(欧州)もたまったものではないでしょう。

■世界トップの経済大国による「ジャイアニズム全開」の経済政策を織り込んで、マーケットでも「アメリカ・ファースト」な展開が続いています。為替市場では対主要通貨でドル高が進み、貿易量で加重平均したドルの実質実効為替レートは、トランプ氏の勝利を受けて大きくドル高が進んでいます。

■また、株式市場でも「米国の一人勝ち」が鮮明となりつつあります(図表1)。米国ではトランプ氏の当選以降は、マーケットやビジネスに追い風となる政策への期待から株高が続いていますが、こうした政策の「とばっちり」から、無理難題を押し付けられかねない周辺国の株式市場は冴えない展開が続いており、株式市場の2極化が鮮明となっています。

2.乱気流に突入するマーケット

■トランプ政権の誕生を受けて、世界経済やマーケットは乱気流に突入しつつあります。ちょうど、積乱雲を前にした旅客機のように、私たちも座席へ戻り、リクライニングを直し、シートベルトをしっかり締めて、これからやってくる「揺れ」をやり過ごす必要がありそうです。

■トランプ氏が打ち出すであろう政策が起こす「乱気流」の中でも最も警戒しなくてはならないのは、対中強硬姿勢のさらなる強化でしょう。既に対中強硬派として知られる人物の政府高官への任命が報じられていますが、米国を中心とする国際秩序に公然と挑戦し、領土的な野心を隠そうとしないように見える中国に対し、新政権はその封じ込めに本腰を入れてくる可能性が高そうです。こうした動きは、隣国として中国と深い経済的なつながりを持つ日本にとっては頭痛の種となりそうです。

〈裏切り者への鉄槌?ASMLショック〉

■10月15日、オランダの大手半導体製造装置メーカーASML社は決算を発表しましたが、第3四半期の受注額が前四半期比約▲53%の急減となったことが嫌気され、株価は1日で約▲15.6%下落しました(図表2)。決算発表後、ASML社のフーケCEOは、同社にとって最大の市場である中国向けビジネスが、米国の圧力により影響を受ける可能性について言及しています。

■ASLM株の下落を受けて、同様に中国向けビジネスに積極的とされる日本の半導体関連株も、大きく連れ安となっています。こうした懸念は、半導体関連株に限った話では済まないかもしれません。というのも、日中の密接な経済関係から、半導体以外の電子部品、自動車・同部品、機械などの工業製品、高品質で評判の良い生理用品、そしてアパレル小売りまで、日本企業は幅広いビジネスを中国で展開しているからです。

■もちろん、こうしたビジネスが全て大きな制約を受ける訳ではありません。しかし、経済安全保障の観点から重要な分野については、今後米国から「踏み絵」を迫られる可能性が高く、日本企業は厳しい「二者択一」を迫られることとなりそうです。

3.トランプ2.0を生き残る投資戦略

■「強いものではなく、変化に適応したものが生き残る」と言ったのは、英国の地質・生物学者チャールズ・R・ダーウィンですが、今後大きな変化が予想される市場環境で投資家として生き残っていくには、相応の変化が求められるのは当たり前かもしれません。

〈金利上昇を凌ぐ〉

■トランプ時代に想定される環境変化の一つに挙げられるのが、金利の上昇ではないでしょうか。減税を含む積極財政は景気浮揚と同時に財政悪化を招く可能性が指摘されています。更に、安価な輸入品に関税がかけられることでインフレ圧力も高まる可能性があることから、金利には上昇圧力がかかることとなりそうです。

■株式市場にとって逆風となりやすい金利上昇ですが、米国の金融機関と異なり投資有価証券全体では大きな含み損を抱えていないとされる日本の金融機関にとっては、株価の追い風となる可能性が高そうです。例えば、銀行は低利の預金と貸出・運用との金利差から得られる収益で決済サービスのコストを賄っていますが、低金利下ではこうしたコストをカバーできないため、どうしても経営は苦しくなります。一方、金利が上昇すると、銀行としての決済サービスがペイするようになり、更に貸出金利と調達金利との差が拡大するため、利ザヤ改善により業績は大きく改善する傾向があります。

■また、生保も保険契約者と約束した利回りを上回る水準での資産運用を続ける必要があるため、金利上昇は逆ザヤ解消などを通じて経営や株価に大きなプラスとなりそうです。

〈絶望的に明るい軍需産業の近未来〉

■トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)のような多国間の防衛協定において、同盟国にGDP比で3%の防衛費負担を求めていると報じられています。「天は自ら助くるものを助く」のことわざにある通り、関係国に自助努力を強く求めた格好です。世界で最も厳しい安全保障環境にあるとされる日本でも、国防・宇宙関連ビジネスには強い追い風が吹くこととなりそうです。このため、主要な国防装備品を製造する重電メーカー、ロケット・衛星関連ビジネスを手掛ける電機大手、精密機器メーカーなどは、関連銘柄として注目を集めることとなりそうです。

〈クリーンエネルギー「原発」の再評価〉

■気候変動問題への関心が低く、パリ協定からの離脱がささやかれるトランプ新政権は、新たなクリーンエネルギーとしての原子力発電に注目しています。トランプ氏は選挙公約で既存の原発利用拡大、先進原子炉開発、そして、関連する規制緩和を打ち出していますが、中でもSMRと呼ばれる最新鋭の小型モジュール炉への市場の関心が高まっています。

■既に、グーグル、アマゾン、オラクルなどがAI開発で利用する大規模データセンターに、SMRを併設する計画を表明しています。こうした動きもあって、原発関連銘柄はAIの成長ストーリーに原発のイノベーション期待が加わることで、投資テーマとして注目を集めることとなりそうです。

〈論功行賞から始まる投資テーマ〉

■選挙にまつわる露骨な論功行賞は、洋の東西を問わず世の常と言えそうです。今回の米大統領選挙で言えば、テスラ社のイーロン・マスクCEOがその筆頭格と言えそうです。

■テスラの株価はトランプ氏の当選判明から既に約3割も上昇していますが、マスク氏は新たに新設される政府の機関である「政府効率化省(Department of Government Efficiency)」の初代トップへの就任が伝えられています。そんな、マスク氏のビジネス、中でも、自動車の自動運転、自動車の統合ソフトウェア開発、ロケット・宇宙関連ビジネスなどについては、規制緩和や補助金の交付など様々な政治的サポートがなされる可能性があり、関連業種・銘柄には、こうしたニュースフローを材料に市場での物色が強まる展開も期待できそうです。

〈まとめに〉

ジャイアンの得意料理「ジャイアンシチュー」は、挽肉、たくあん、塩辛、ジャム、大福などをまとめて煮込んだ、悪臭を放つ個性的な料理です。周囲はジャイアンシチューを食べなければならないことに戦慄しますが、トランプ氏の要求を無理やり飲まされる周辺国の今の姿と重なります。財政拡張や高関税と同時にインフレ抑制を目指したり、強い米国を志向しつつ国際協調や同盟関係に逆行しかねない要求を振りかざすなど、その政策には「アンバランスで危険な匂い」が漂います。

ジャイアンは主催するディナーショーのために調理した「ジャイアンシチュー」を自ら試食して気絶してしまいますが、そうしたドタバタは漫画の世界だけにしていただきたいものです。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『金融市場も“アメリカ・ファースト” これから始まる「トランプ相場」を生き残る投資戦略【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。

白木 久史

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフグローバルストラテジスト

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