完全にしくじりました…ピーク年収1,200万円、66歳・元「大企業の敏腕部長」が定年後に〈時給1,180円〉のバイトを辞められない「まさかの理由」【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月20日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
物価上昇の動きもあり、年金収入だけでは生活費を賄えず、高齢の就業者が増加傾向にある昨今。なかには、綿密に計画したはずの老後生活のプランでも、実際に生活してみると上手くいかないケースもあるようです。本記事では、66歳の元会社員Aさんの事例とともに、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが老後生活を送るうえでの注意点について解説します。
減る一方の年金受給見込額と退職金
Aさん(66歳)は、10歳年下の妻と長女(大学4年生)、長男(大学3年生)の家族4人で、都内の分譲マンションで生活しています。
Aさんは現役時代、大企業の人事総部畑でキャリアを築き、50代前半には部長職として年収が1,200万円に、55歳で役員定年を迎え、60歳以降は系列の会社に出向して、65歳になった1年前に退職一時金を1,500万円支給されて定年退職しました。
その後の主な収入は、月約20万円の老齢厚生年金です。さらに75歳までは月3万4,000円※の加給年金が、80歳までは月5万円の企業年金が加算されます。また妻のBさんの収入は、65歳までパート代が月8万円、65歳以降は老齢厚生年金を月約8万6,000円受給の見込みです。 ※令和6年度の受給額
トータルしたA家の収入は、Aさんの年齢だと75歳まで36万4,000円、その後80歳までは月33万6,000円、80歳以降は28万6,000円と、減りながら推移していく予定とのこと。
また、現在の貯蓄残高は、1,600万円と退職金一時金とほぼ同額です。Aさんの収入にしては貯蓄額があまりに少ない理由は、Aさんが43歳で結婚した直後、現在のマンションを購入したからです。そのとき、住宅ローンの返済の負担を減らすため、頭金に夫婦とも結婚までの貯蓄を使っていました。その後は、25年間で返済予定の住宅ローンや子どもの教育費などの出費が重なり、貯蓄はほとんどできませんでした。
退職後に増える支出
そういった状況に危機感を持っていたAさんは、60歳ごろから退職後の準備として、今後の家計収支と貯蓄額の推移を一覧表(キャッシュフロー表)にまとめていました。
そこに書かれていたのは、年金を中心とした収入や生活費などの支出のほか、65歳から3年間、2人の子どもが通う大学の授業料や毎月12万円の住宅ローン返済額など。さらに退職までは、給与天引きだった厚生年金と会社の健康保険に代わり、Bさんの国民年金保険料や家族全員の国民健康保険料の納付額※などが計算されていました。 ※Aさんは検討したが、健康保険任意継続制度には加入しなかった。
それにより、Aさん夫婦は今後家計が厳しくなりそうな3年間は、退職金を取り崩すことで、何とか暮らしていけると判断したのでした。
想定以上に早く目減りした退職金と対策
ところが、Aさんが老後生活を始めて1年経った現在、昨今の物価上昇の影響か、思いのほか出費が多く、退職金も減りが早くなり、生活が苦しくなってくる事態に。
そこでAさんはあと2年間、月6万円の収入を得ることが必要だと計算し、また働きに出ることにしたのです。
しかし、人手不足と報道されていても、現役時代のスキルを活かせるような仕事は見つかりません。名の通った大会社に勤めていた経歴のために、採用してもらえないと思うこともありました。
なかなか勤め先が決まらないAさんでしたが、毎日の散策コース沿いでアルバイト募集の張り紙がある、地元で数店舗を経営しているスーパー「C」に「ものは試し」と応募して、時給1,180円で採用されたのでした。
アルバイトに励むも、悩みの種は「カスハラ客」
勤め先のスーパーでAさんは、商品を陳列棚に並べる作業を担当していました。とはいっても小さな店舗ですので、青果や鮮魚、精肉などの担当はなく、チーフの指示ですべての商品を開店に間に合うように、また開店後は補充するのが主な業務でした。
しかし、商品の配列を覚えるのも大変で、お客に商品の場所を聞かれてもすぐに答えることができません。また、人手が足りないときにはレジ打ちもしますが、手間取るしミスも連発。職場の若い同僚たちには、励まされたりいびられたりすることもありました。
さらに追い打ちをかけるのが「カスハラ客」の存在です。「早くしろ」「謝れ」「俺は客だぞ」など、やりたい放題の迷惑客が多い実態を知り、最初のうちは対応のすべもわからず、ただ頭を下げて謝るばかりでした。
しかし仕事に慣れてくると、長年人事総務畑で勤務した杵柄で、うまく厄介な客の対応もできるようになり、年の離れた店長ともよい関係が築けていけるようになりました。「立ち仕事で大変だけど、生活資金のためにも、体力が続くうちは続けてみよう」と考えるようになったそうです。
ただ当面2年間、月6万円のバイト代で今後の生活は大丈夫か心配となり、自分で考えるだけではなく、FPに今後の家計を相談することにしたのでした。
高齢者の就業者は年々増加している
総務省「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の概要」によると、日本の2023年の65歳以上の就業者数は、914万人(男=534万人、女=380万人)です。2013年の637万人(男=390万人、女=247万人)から、10年間で約1.4倍増加しています。
2023年の65歳以上就業率は
・65~69歳、52.0%(男=61.6%、女=43.1%)
・70~74歳、34.0%(男=42.6%、女=26.4%)
・75歳以上、11.4%(男=17.0%、女=7.7%)
と、65歳以上の半数は働いているようです。
2023年の65歳以上の役員を除く正規の職員・従業員は126万人(男=85万人、女=41万人)、非正規の職員・従業員は、417万人(男=211万人、女=206万人)となっています。
Aさん夫婦が老後生活を無事乗り切るには?
現在、Aさんの支出は月55万円ほどですが、子どもが大学を卒業して住宅ローンが完済したら、月30万円の支出にしたいと筆者に話します。そこで、Aさんのアルバイト収入をあと2年間は月6万円を維持する、今後の家計収支を試算してみました。
その結果、60歳までに払い終えた医療保険で夫婦ともに終身の保障がされているなど、すでに家計の見直しはほぼ終えていました。夫婦が100歳まで生きると、そのとき200~300万円の貯蓄は机上に残っているでしょう。
ただ筆者が気になったのは、A夫婦の年齢が10歳差であることです。さらに統計値ですが男女の平均寿命の差は6歳※ですから、単純にBさんが将来16年間、独居生活をする可能性があり、そのための準備が必要と考えました。 ※2024年日本人の平均寿命は、男性81.09歳、女性87.14歳(厚生労働省「令和5年簡易生命表」)より。
たとえば、Bさんの年金を70歳まで繰り下げて受給するとします。
Bさんが通常の65歳(Aさん75歳)から受給すると月8万6,000円です。老齢厚生年金、老齢基礎年金ともに70歳まで5年間繰り下げて受給すると、1ヵ月あたり0.7%ですので5年間で42.0%、月3万6,120円増額した、月12万2,120円の年金が受給できる計算となります。
この場合、Aさんが75歳から80歳まで家計収入が減ってしまうため、スーパーでの就業期間を増やすなど、準備として貯蓄を増やす必要があります。
万が一Aさんが亡くなった場合、Bさんは65歳まで、遺族厚生年金と中高齢寡婦加算とで、毎年184万円(月約15万円)。65歳以降は、自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金とで、毎年約200万円(月約16万円)受給できる見込みです。
また、現在住宅ローンを返済中の自宅を、資産としてどのように子どもたちに相続するか考える時期にも差し掛かっています。
筆者がここまで話をすると、Aさんは「いやぁ、完全にしくじりましたね。最初の計画が甘かったのかな。当面の家計はよくても、統計値といえども妻は私より16年も長生きをするなら、早めに準備しなくては……。職場にもようやく慣れてきたので、70歳まで働かせてもらえるか相談してみます。それにしても、相続を考える歳になっていたとは、我ながらびっくりしました」と苦笑いを浮かべました。
安心は自分で作る
その後Aさん夫婦は話し合い、Bさんの年金の受給を70歳まで繰り下げること、また家計支出も2年後を待つことなく、今から毎月5万円を目標に、再度、家計の支出内容を見直し始めたそうです。
Aさんは、老後の生活に使うところだった退職金を、目先の子どもの教育費や住宅ローンの返済に充て、本来の目的に使う前に枯渇することに気が付きました。
「現役」「老後」と隔てることなく、家計が破産しないように、収支のバランスのとれた家計の舵取りが生涯において大切なことといえます。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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