「年金330万円・退職金3,000万円」なのに安泰老後を取り上げられた65歳元常務…家を失い、共同トイレ・風呂なしボロアパートで暮らし始めたワケ。発端は「大人しい妻の陰謀」【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月25日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
どんなに潤沢な老後資金を蓄えていても、なにが起こるかわからないのが人生。今回、定年後、妻に離婚を切り出された元エリートサラリーマンの事例をもとに、近年増えている「熟年離婚」で起こりうる老後の貧困について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
世間ではおしどり夫婦、家庭内では…
Aさんは大手企業に勤めていた元常務、入社してから持ち前のコミュニケーション能力を活かし、着実に実力を発揮し、常務までのぼりつめました。一方、大人しい妻は同じ企業で契約社員として働いていたところ、Aさんと社内合コンで知り合い、結婚しました。
妻は結婚後、専業主婦となります。Aさんがエリートコースで昇進していたこともあり、子ども2人の子育ては妻に任せ、有名私立中学受験をさせ、基本的にエスカレーターで大学まで進学できる学校に通わせていました。世間では「エリートで働く夫、内助の功の妻」のおしどり夫婦として誰もが羨む家族として近所でも噂されていました。
しかし実際は、妻が大人しい性格ということもあり、会話の少ない夫婦でした。さらにAさんがエリートコースに進めば進むほど、家には寝るために帰るだけ。休日は接待ゴルフなどで外出が多くなります。妻は子育て一筋になり、夫婦の会話は子どもの教育費(お受験)の話のみとなっていました。
高所得エリートサラリーマンの貯蓄額が少ないワケ
家計のやりくりは、毎月定額を生活費として妻に渡し、やりくりさせていました。子どもが受験期になったころは教育費が足りないと言われ、余分に生活費を渡していました。子どもの受験が終わると、妻は昼間の空き時間にパート勤めをはじめます。
Aさんは定年間近に常務となり、65歳の定年退職で受け取る退職金は3,000万円となりました。お受験から大学までの教育費や下宿代などがかさみ、高所得層にしては少なく、貯蓄額は3,000万円です。さらに接待のために安物のスーツやノーブランドのゴルフウエアなどでは体裁が悪いため、有名ブランドを購入していたことも貯蓄額が少ない要因の1つです。
老後の年金は報酬が高いこともあり、夫婦の年金は330万円(月額27万5,000円)です。
・Aさん
老齢基礎年金:81万6,000円
老齢厚生年金:163万1,146円
・妻
老齢基礎年金:81万6,000円
老齢厚生年金:3万5,517円
※老齢基礎年金は2024年度新規裁定者の満額。差額加算、加給年金、振替加算を考慮せず。Aさん夫婦の平均標準報酬月額はAさん62万円、480月と妻18万円、36月で計算。
公益財団法人生命保険文化センターの調査では、必要な日常生活費は月23万2,000円、ゆとりある生活は月額平均37万9,000円となっています。こちらを踏まえると、年金のみで日常生活は賄えそうです。子どもは独立したので、お金はかかりませんが、接待が多かったAさんの交際費は退職することで解消されると考えますが、そもそもAさんがゴルフや飲み会が好きであるため、回数を減らすなどして節約できるかが問題です。
経済的に安泰であれば離婚しないという神話はない
持ち家、退職金3,000万円、貯蓄3,000万円、年金330万円(夫婦)と、経済的に安泰であれば妻は離婚を切り出さすことはしないだろうと思い込んでいると大誤算となります。
Aさんの定年退職を機に、妻から離婚を切り出されたのです。内閣府の男女共同参画白書 令和4年版より夫婦関係が破綻した理由では、性格の不一致が男女とも最も多く、女性では続いて、精神的な暴力、異性関係、浪費となっています※1。Aさん夫婦でいえば、性格不一致、浪費、家庭を顧みないなどが該当しそうです。
ただ、Aさん夫婦はお互い両親を早くに亡くしており、お互い頼るところがないことから、たとえ冷めた家庭であっても大人しい妻とは老後もそれなりに暮らすだろう、いまどき流行りの卒婚や熟年離婚なんてないだろうとAさんは確信していたのです。
ある日1通の封筒が…
常務に昇進し、退職金の目処がついたことを妻に告げてから数日後、見慣れぬ封書が届きます。「おい、なんか届いているぞ」日ごろ郵便物を管理している妻に問いかけますが、返事がありません。「さっきまで家にいたと思ったんだが、出かけたのかな」封書はAさん宛だったため、自室で中を開けてみると、衝撃の内容が。離婚に向けた調停を行うため、家庭裁判所からの呼び出しによるものでした。「まさか、大人しい妻が、調停なんか……」と愕然とします。
その後、話し合いを重ねましたが、妻の意思は変わらず、2年後に離婚を承諾します。Aさんが浪費家であることを懸念し、生前贈与として子ども2人には現金を渡します。離婚する妻とは家と年金は分割をするため、按分割合は50%となります。
厚生労働省の「令和4年度 離婚に関する統計の概況」によると、同居期間別にみた離婚の年次推移から、同居期間が「20年以上」の割合は上昇傾向にあり、2020年には21.5%となっています。同居期間が長いということは、熟年で離婚する人が多いと考えられます※2。
結果、Aさんには現金1,500万円と年金が月額約16万円となり、家を失い、安泰の老後どころではなくなります。
好きなことを続けるために選択したこと
Aさんは、思い描いていた老後とかけ離れた結果となり、落ち込みます。いままでと同じように浪費すると、老後破産になりかねません。そこでAさんが取った行動は……。
現役時代のAさんは接待が多く、家は寝るためだけの場所でした。家族で暮らしたもとの家も、当時の見栄と妻の希望だけで決めた場所です。家にお金をかけることはしないように、古いボロボロの共同トイレ・風呂なしアパートで暮らし始めます。
Aさんは、人生100年時代とはいうものの、両親も早くに亡くなったから、自分は長生きしないだろう。その分、いままでと同じようにとまではいかないものの、外で好きなこと、ゴルフや飲み会を続けたいと選択したのです。Aさんのように、元気なうちに好きなことを好きなだけやっておきたいと考える人もいます。しかしながら、先にお金が尽きてしまったら、どうするのでしょう。
現役時代と同じ考えで散財すると老後破産につながる人がいます。Aさんのように安易に考えていると、元気なうちに老後破産する可能性が高いです。失ったものが大きいAさんにとって、老後も好きなことを続けたいという気持ちもわかりますが、そのためにも一度専門家に相談してみることをお勧めしたいです。
〈参考〉
※1 内閣府男女共同参画局「令和4年版 男女共同参画白書 夫婦関係が破綻した原因」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo00-51.html
※2 厚生労働省「令和4年度 離婚に関する統計の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/rikon22/dl/gaikyo.pdf
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表
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