「ハッピーターン」や「きのこの山」…みんな大好き国民的お菓子が必ずしも目立つ場所に置かれていない理由は?【心理学者が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月21日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
亀田製菓の「ハッピーターン」や「ソフトサラダ」、森永製菓の「ポテロング」、明治の「きのこの山」……。みんなが大好き"国民的お菓子”ですが、お店のどの棚にあるか意識したことはありますか?意外にも目立たない場所に並べられていることが多いのに気づくはずです。実はそこには「商品のファンにしてしまうブランド戦略」が隠れていました。本記事では、価格以外で有効な「商品プロモーション」について、心理学者の越智啓太氏による著書『買い物の科学:消費者行動と広告をめぐる心理学』(実務教育出版)から一部を抜粋・再編集して解説します。
ロスリーダーとチェリーピッカー
価格は消費者を動かすもっとも重要な要因には違いありません。そのため、スーパーマーケットなどは、たくさんの客を呼ぶために目玉商品を導入することがあります。もちろんこれらの商品は目立つ位置に陳列し、チラシにも大きく載せます。
このような商品のことを「ロスリーダー」といいます。ロスリーダーとして使われやすいのは、価格弾力性が高くて、単価の安い、大量に販売できるもので、スーパーマーケットでは食品がよく使われます。
ロスリーダー商品自体は儲(もう)けを生み出さない(場合によっては損失を生じさせる)のですが、それを目的に来店した客がそれ以外のものも購入してくれるので、客寄せのためによく使われるのです。
多くの研究が「本日の特売品」や「セール品」のようなロスリーダーが店全体の売上や利益を増加させることを示しています。
ただし、ひとつ大きな問題があります。それは、このようなロスリーダーのみを購入し、そのほかの商品を購入しない人々が一定数存在することです。彼らのことを「チェリーピッカー」といいます。おいしいさくらんぼだけを摘(つ)み取っていく人々という意味です。
チェリーピッカーはさまざまな商店の価格の情報を集め、少量の特売品のみを購入します。1円でも安ければ別のスーパーまで移動することも厭(いと)いません。
またファストフードでいえば、マクドナルドで100円マックの商品ひとつだけ買って客席(サービス)を占拠する中高生も、チェリーピッカーといえるでしょう。このタイプの消費者は基本的には利益をもたらしません。
それどころか、このタイプの客が多ければ多いほど、店は儲からなくなってしまいます。
商品のファンにしてしまうブランド戦略
では、チェリーピッカーを排除するためにはいったいどうすればよいでしょうか。
そもそも価格で客を惹(ひ)きつけるから、それを利用しようとするチェリーピッカーが現れるので、このようなプロモーションをしなくても商品を売ることができるようにすればよいわけです。
「値札を見ながら商品を買い物かごに入れる」消費者でなく、「これが欲しいから値段はそれほど気にせずに買い物かごに入れる」消費者を育てていけばいいのです。
それはどのような消費者なのでしょうか。一言でいってしまえば、その商品やサービス、ブランドのファンということになります。ファンなら値段は二の次になるはずです。
そこで、何よりも重要なのは、消費者を自分の会社が出している商品やサービス、ブランドのファンにすればいいのだという経営戦略が出てきました。
ブランドというと、我々はプラダやシャネル、ルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドがすぐに思い浮かびます。これらの商品も確かにブランドですが、それだけではありません。
たとえば、亀田製菓の「ソフトサラダ」や「ハッピーターン」、森永製菓の「ポテロング」、明治の「きのこの山」などの人気菓子もブランドです。
これらの商品を買うときは、そもそも「これが食べたいから買う」のであって、それが手に入ればあまり値段を気にしないのではないでしょうか。ソフトサラダを手に入れるためなら、数円高くてもあまり気にならないのです。
価格帯はまったく異なりますが、プラダの熱狂的なファンも新作バッグが出ると、必要性にかかわらずどうしても欲しくなるでしょう。その場合、もしお金がなければ、節約したり仕事を増やしたりしてまで買ってくれます。しかも正規品を正規店で購入するでしょう。値段よりも欲しさや購入体験のほうが重要なのです。これに対してノンブランドのバッグの場合、もちろん必要がなければ買いたくなりませんし、買う場合には値段が購入の重要な判断基準になってきます。
この場合、どの店で買うかはほとんど問題になりませんし、機能が同じなら安ければ安いほど満足すると思います。
亀田の「ソフトサラダ」はコンビニの棚のどの段にあるか
近年コンビニエンスストアやスーパーマーケットでは、プライベートブランド(小売店・卸売業者が企画して、独自のブランドで生産・販売する商品のこと。セブン-イレブンの「セブンプレミアム」、ファミリーマートの「ファミマル」、イオンの「トップバリュ」などが有名です)の安い商品の品ぞろえが充実してきています。
そして、いつの間にか既商品が同種のプライベートブランド品に置き換わっていたりします。
ところが、「ソフトサラダ」や「ポテロング」はプライベートブランド商品に置き換わらず、常にコンビニの棚に用意されています。そして、もっと安い同等品のプライベートブランド商品よりも売れているのが普通です。
また、値段が変動してもあまり売れ行きは変わりません。それは消費者が欲しいのが「サラダ油をからめた塩せんべい」でなく「亀田のソフトサラダ」であり、また「ポテトのスティック菓子」でなく「森永のポテロング」だからです。
「欲しいから買う」商品は、一般には目立つ位置に置かなくても売上は変わりません。なぜなら、どこにあっても消費者はそれを探して買ってくれるからです。
一方で、プライベートブランド商品やファンをまだ獲得していない商品(新発売の商品なども含む)は、目立つ位置にあれば購入されますが、わざわざ探して購入されることはないので、売上を増やすためには目立つ位置に置く必要があります。
その結果として、多くのコンビニエンスストアでソフトサラダはあまり目立たない下のほうの棚(それでも売れる)のポジション(多くの場合もっとも下の位置)に置かれるのに対して、対応する商品であるプライベートブランドの塩せんべい系は、より目につく中段の棚に置かれることになります。
同様の「欲しいから買う」商品として、食品ではサッポロ一番塩らーめんパック、キユーピーマヨネーズ、マ・マースパゲティ麺などがあります。
越智 啓太
法政大学文学部心理学科教授
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