親の死後、衝撃の事実に愕然「まさかこんなに多額の借金が…」相続で資産を失わないための対応策とは【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月26日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
大切なご家族を亡くした悲しみの中、思いがけない借金の存在に直面することがあります。「相続」と聞くと財産を受け継ぐイメージがありますが、実は借金も相続の対象となることをご存じでしょうか。相続開始後に被相続人の借金が判明した場合、その対応を誤ると大切な資産までもが失われかねません。正しい対処法について、ベリーベスト法律事務所の代表・萩原達也弁護士が解説します。
相続時に借金が発覚したときの対処法
親が資産家の場合、相続時の相続税を心配している方は多いと思います。しかし、いざ相続が発生したら、思ってもみないことで頭を悩ませることも少なくありません。そのひとつが、借金の存在です。親が借金を抱えたまま亡くなった場合、相続人はどのように対処すればよいのでしょうか。
(1)まずは落ち着いて状況を把握する
親に想定外の借金があることがわかると、突然のことでパニックになってしまう方もいるかもしれません。借金の全容がわからない状態で慌てて借金の返済をしてしまうと、その後さらに多額の借金があることが判明しても相続放棄ができなくなるなど、さらに大変な状況になる可能性があります。
そのため、相続時に借金が判明した場合はパニックにならず、まずは落ち着いて状況を把握することが大切です。
(2)借金を相続することによるリスク
「相続」というと、現金・預貯金、不動産、有価証券などのプラスの財産を引き継ぐイメージを持たれる方も多いと思います。しかし、相続財産にはプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も含まれます。そのため、たとえば被相続人である父親に借金があった場合、何もしなければ借金は法定相続人である母親や子どもへと引き継がれてしまいます。
借金は、相続人が法定相続分に応じて承継することになります。つまり、被相続人に代わって相続人が債権者に返済を行っていかなければなりません。相続財産から返済できればよいですが、プラスの財産を上回る借金がある場合は、相続人自身の財産から返済することになります。金額によっては自宅の売却、保険の解約など、ご自身の資産を切り崩すことになる可能性もあるでしょう。
(3)借金の総額、種類、債権者などを詳細に調査する方法
被相続人に借金があることが判明したときは、借金の総額、種類によって今後の対応が変わってきます。そのため、まずは借金の全容を把握するための調査が必要です。同居する家族が借金の詳細を知っていればよいですが、そうでない場合は、借金の調査を行います。
①郵便物など身の回りのものによる調査
被相続人に借金があるかどうかは、被相続人の身の回りのものを調べることでわかることがあります。
- 郵便物に消費者金融やクレジットカード会社からの督促状などがないか
- 被相続人名義の不動産の登記事項証明書に抵当権などが設定されていないか
- 車検証の所有者欄が被相続人以外の名前になっていないか
- 預貯金通帳を確認し、ローンなどの定期的な引き落としがないか
- 金銭消費貸借契約書がないか
②信用情報機関に対する情報開示請求
個人間ではない借り入れであれば、信用情報機関に対する情報開示請求によって、被相続人の借金の全容を明らかにすることが可能です。
信用情報機関とは、金融会社や貸金業者が登録している個人の信用情報を、管理・提供する機関です。加盟する会社に応じて、主に3つの信用情報機関があります。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
消費者金融、銀行、貸金業者、クレジットカード会社からの借り入れであれば、上記のいずれかの信用情報機関に登録がありますので、情報開示請求をしてみるとよいでしょう。
借金相続に対応するための選択肢は3つ
被相続人に借金があることが判明した場合、遺産相続はどのように進めていけばよいのでしょうか。3つの選択肢を比較しつつ、それぞれのメリット・デメリットを説明します。
(1)借金相続に関する3つの選択肢
相続財産に借金があった場合は、主に3つの選択肢が考えられます。
①相続放棄
相続放棄とは、相続財産に関する一切の権利・義務を放棄する方法です。ただし、相続放棄をすることで、相続人の地位を失いますので、借金だけでなく現金・預貯金・不動産・有価証券などのプラスの財産も相続することができなくなります。そのため、相続放棄を選択する場面としては、プラスの財産を上回る借金があることが判明したケースが多いです。
相続放棄をする場合は、相続が開始したこと(自身が相続人となったこと)を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。
相続放棄は注意が必要
相続放棄により同順位の相続人が誰もいなくなってしまうと、次順位の相続人に相続権が移ります。つまり、別の親族に借金相続の負担が生じることになるのです。次の順位の相続人との関係を悪化させないためにも、自身が相続放棄をする際には、次の順位の相続人にも一報を入れ、必要であればその方にも相続放棄について情報提供するなどしておくとよいでしょう。
また、相続放棄をしても、それだけで債権者からの督促がなくなるわけではありません。相続放棄後に督促を受けた場合には、債権者に対して相続放棄受理通知書や受理証明書を提示するなどして相続放棄をしたことを伝えましょう。
②限定承認
限定承認とは、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続する方法です。限定承認をすることで、プラスの財産を上回る借金を背負うことはありません。被相続人の借金がいくらあるかわからず、将来把握していない借金が出てくる可能性がある場合や、特定の財産(自宅や事業用資産など)を残したいという場合には、限定承認を選択することになります。
ただし、限定承認は相続人全員で行わなければなりませんので、相続人全員が足並みをそろえる必要があります。
なお、限定承認をする場合も、相続の開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に限定承認の申述をしなければなりません。
③単純承認
単純承認とは、マイナスの財産も含めたすべての相続財産を相続する方法です。単純承認をする場合は特別な手続きをする必要はなく、相続開始を知ったときから3か月以内に相続放棄や限定承認を選択しなければ、自動的に単純承認をしたものとみなされます。
なお、3か月経過する前に相続財産に手を付けてしまった場合は、自動的に単純承認をしたものとみなされますので、注意してください。
(2)連帯保証人の地位と借金相続との関係
ご自身が被相続人の借金の連帯保証人になっている場合は、相続放棄や限定承認をしても借金返済の負担からは逃れることはできません。なぜなら、連帯保証人は、連帯保証人自身の債務として債務者に代わって借金の返済義務を負う人のことをいい、相続放棄や限定承認をしても連帯保証人の地位が消滅することはないからです。
連帯保証人として借金の返済が難しいときは、自己破産や個人再生などの債務整理を検討することになります。
借金を引き継がざるを得ない場合の注意点
被相続人の借金が事業や不動産などに関連する借金だった場合は、事業の継続や不動産の維持のために借金も含めて相続せざるを得ないケースがあります。
前述したように、被相続人の借金を相続する場合は、原則として相続人の法定相続分に応じた借金を引き継ぎます。たとえ遺産分割協議を行い相続人全員が同意したうえで、特定の相続人のみがすべての借金を相続することにしても、それを理由に債権者からの請求を拒むことはできません。
ただし、遺産分割協議の内容にしたがって特定の相続人のみが借金を引き継ぐことについて債権者が同意しているのであれば、債権者との間でも遺産分割協議の内容が有効となります。そのため、特定の相続人が被相続人の事業を引き継ぐ場合には、事前に債権者との協議を行い、借金の承継について債権者からも承諾を得ることが大切です。
相続は、慎重な判断と適切な対応が必要ですが、借金というマイナスの財産があった場合は、相続問題がより複雑化するおそれがあり、急いで判断する必要があります。家族の問題を第三者に知られたくないと考える方も少なくありませんが、遺産相続には対応に期限があります。そのため、相続時に借金の存在が発覚したら、弁護士などの専門家に相談することを、ぜひご検討ください。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
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