一見平和な家庭に見えるが…年金24万円、資産2,000万円・年金暮らしの66歳元会社員がひた隠しにする「2階突き当たりの部屋」の秘密
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月23日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
外からは平和に見えても、その陰でひそかに問題を抱えている家庭は少なくありません。例えば、今回ご紹介するような家族の長期的なひきこもりです。その背景には複雑な社会的・心理的な要因が絡み合っており、単純な原因や解決策だけでは対応しきれないのが現実です。今回は、年金暮らしをしている坂口剛史さん(仮名・66歳)とその長男(40歳)を事例に、ひきこもりの現状と課題、支援方法について南真理FPが解説していきます。
15年以上ひきこもる40歳長男…「私たちが死んだらこの子はどうなる」
坂口剛史さん(66歳)は、継続雇用されていた会社を1年前に退職しました。老後に向けてコツコツ貯めた2,000万円もあり、住宅ローンも完済しています。
はたから見れば、妻博子さん(66歳)と順風満帆な老後を過ごしていくのだろうと思われますが、坂口さんは人には言えない問題を抱えていました。それは、15年以上家にひきこもっている息子、長男啓介さん(40歳)の存在です。
啓介さんは大学卒業後、システムエンジニアとして就職したものの深夜勤務や上司の𠮟責に耐えきれず、鬱のような状態になり、たった半年で退職してしまいました。その後はアルバイトを転々としていましたが、それも続かず、25歳頃からはまったく働かずに家の2階奥にある自室にひきこもっている状態です。
食事はドアの前に置かれたものを食べ、トイレやお風呂も極力家族とは会わないタイミングで使用。1日中ネットを見たり、オンラインゲームをしたりしているようです。
啓介さんがひきこもり始めた当初、坂口さんも苦悩していたため衝突も絶えなかったそうです。真面目で責任感の強い坂口さんにとって、息子が無職でひきこもっているという現状は、自身の価値観と大きく乖離していて、受け入れることが難しかったのです。その後もいっこうに表に出ようとしない啓介さんに、いつしか妻に任せきりにするようになっていました。
そして、啓介さんも妻も、周囲に長男の話は一切しなくなりました。子育てに失敗したと思われるのが怖かったのと、自分たちですら息子のことが理解できないのに、他人に理解してもらえるとは思わなかったからです。そのため、ご近所や親戚など限られた人しか長男がひきこもり状態にあることは知りません。
しかし、坂口さんが退職し、年金生活に突入したことを機に、妻から「このまま啓介がひきこもりの状態が続けば、私たちが亡くなった後どうなってしまうのだろう」と、改めて不安を伝えられたのです。2,000万円の資産と年金月24万円は、夫婦2人の老後資金としては十分だけれど、もう1人の一生を支えられるほどの金額ではないのでは……と。
今まで目を背けてきたけれど、この問題に向き合わねばならないと、やっと思えるようになったのです。
50人に1人程度がひきこもり状態に該当
厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」によると、ひきこもりとは「様々な要因の結果として、就学や就労、交遊などの社会的参加を避けて、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態のこと」と定義されています。
内閣府が公表する「こども・若者の意識と生活に関する調査」(令和4年度)によると、ひきこもり状態に該当する人は、15~64歳では推計146万人、50人に1人程度とされています。
15歳~39歳でひきこもり状態に該当する人は、多くは親兄弟と同居しています。ひきこもり状態になった年齢は、20歳以上の割合が約6割です。また、7年以上ひきこもり状態が続いている人が全体の21%となっています。
また、40~64歳でひきこもり状態に該当する人は配偶者との同居が全体の半分以上を占めており、次いで同居人がいない、子どもという結果です。初めてひきこもり状態になったのが、40歳以上という人が全体の7割を占めています。そして、ひきこもりの期間が7年以上という人が23%です。
この背景には、退職や人間関係がうまくいかなかったこと、新型コロナウイルスの流行、病気、中学校時代の不登校、妊娠、介護・看護を担うことになったこと、就職活動がうまくいかなかったことなど、様々な要因が複雑に絡み合っています。
シミュレーションでは家計破綻が濃厚…お金の見通しの立て方
ひきこもりの子がいる場合、無収入であることがほとんどのため、親が亡くなった後に生活基盤が崩れてしまう可能性があります。坂口さんも、自分たちがいなくなったら長男はどう生きていくのか、とくに金銭面での不安が大きいといいます。
しかし、不安に思っているだけでは解決しません。後述するひきこもりの解消に向けて行動するほか、あらかじめ将来にかけてのお金の見通しを立てておくことが大変重要です。以下、坂口さんの家庭の家計収支を例に、確認してみましょう。
【相談者プロフィール】
坂口剛史さん(66歳):無職(元会社員)
妻・坂口博子さん(66歳):無職(夫の扶養内でパートのみ)
長男・坂口啓介さん(40歳):無職。坂口さん夫婦と同居
次男・坂口洋介さん(38歳):会社員。坂口さん夫婦と別居
【家計収支】
〈収入〉
世帯の年金合計:年288万円(手取り年260万円)
(内訳)
剛史さん年金:年207万円
博子さん年金:年81万円
〈支出〉
世帯の支出合計:年243万円
(内訳)
生活費(食費・日用品費・光熱費・通信費等):年154万円
住居費:年8万円
保険料:年12万円
車両費:年13万円
長男国民年金保険料:年20万円
長男小遣い:年36万円
〈金融資産〉
預貯金:2,000万円
仮に坂口さん夫婦が90歳まで生きた場合、現状の収支であれば預貯金は約2,000万円残ります。坂口さん夫婦亡き後、自宅は長男啓介さんが一人で住むには広すぎるため、賃貸物件に移り、自宅は売却したとすると、約3,000万円の相続財産となります。法定相続通り2分の1ずつ配分したとすれば、長男である啓介さんは1,500万円の相続財産を手にすることになります。この時、啓介さんは64歳になっています。
そのタイミング(64歳)で月5万円の賃貸物件に移った場合、生活費も含めると年200万円ほど必要になります。年金は満額もらえたとしても国民年金のみとなり、65歳から年81万円受給することになります(将来にかけて変動する可能性あり)。
このケースで計算すると、啓介さんは相続した1,500万円の預貯金を73歳で使い果たすことになり、74歳には家計破綻に陥ってしまうことがわかりました。
上記は一例にはなりますが、まずはこのようなライフプランを作成し、先の見通しを知った上で、親亡き後の生活費を確保する準備をすること必要です。例えば、生命保険を活用し、子の生活費を確保することは有効な手段の一つです。
また、相続時に資産配分を長男啓介さんに多めにするといった遺言を事前に作成しておく方法もあります。しかし、この場合には相続人間のトラブル回避のために事前に他の相続人の理解を得ておくことが必要です。
もしも、ひきこもりの理由に精神的な問題があれば、障害年金を申請することができます。また、収入がない場合には生活保護も選択肢に入ります。障害年金や生活保護といった制度が利用できるのかどうかは、親が元気なうちに役所や年金事務所に相談しておきましょう。
どの選択が最適なのかを判断するためにも、先々にかけてのライフプランの作成は必要不可決であると言えます。
ひきこもりの解消には支援制度などの活用を
ひきこもりの問題を解決するために、できることは何があるのでしょうか。ひきこもり状態の方が抱える課題は、心理的・経済的な問題や社会的スキルの不足など多岐にわたります。そのため適切な専門家に相談することで本人や家族の負担を軽減することができ、少しずつ改善に向けたステップを踏むことが可能です。どのような支援制度があるのか確認しましょう。
ひきこもり支援推進事業
厚生労働省が主体となって取り組んでいるひきこもりの方やその家族に向けた支援事業になります。
例えば、ひきこもり地域支援センターはすべての都道府県・指定都市にある行政が運営するひきこもりに特化した相談窓口です。社会福祉士や精神保健福祉士、公認心理士等の資格を持つ支援コーディネーターが中心となって、電話や来所等による相談支援を行うほか、同じ悩みを持つ方が集まる居場所の提供をしています。必要に応じてほかの専門機関へのつなぎ役や地域における関係機関との連携も行っています。
地域若者サポートステーション
若者地域サポートステーション(愛称:サポステ)は、働くことに悩みを抱えている15~49歳までの方を対象に、就労に向けた支援を行う機関です。キャリアカウンセラーや就労支援専門員が在籍しており、就労に向けた相談や社会スキルの向上を目的としたワークショップを受けることができます。地域によっては家族向けの相談も実施しており、家族と連携しながら支援が可能です。
その他、ひきこもり支援を行うNPO法人や民間の支援団体も多くあります。これらの団体ではひきこもりの家族向けの交流会や間セリングなども提供されています。第三者の活用は、家族だけでは解決できない課題を解消するきっかけになるのではないでしょうか。
長期化するひきこもりは、本人のみならずご家族にとっても大きな負担となります。しかし、専門家の支援や周囲のサポート、経済的なライフプランを通じて、少しずつ状況を改善していくことは可能です。将来の生活設計や支援制度を知り、経済面でも無理のない範囲で計画しておくことが家族の安心につながります。
今回の事例の坂口さんとその妻、そして啓介さんも、勇気を出して周囲にサポートを求めることが引きこもりを解決する最初の一歩になるかもしれません。
家族以外のつながりを持つことや専門的な支援を活用し、少しずつでもひきこもり解消に向けた行動をしていくことが重要であるといえるでしょう。
〈参照〉
- まず知ろう!「ひきこもりNOW」!|ひきこもりVOICESTATION
https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp/information/
- 地域若者サポートステーション|厚生労働https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/saposute.html
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