え…ウソでしょ?相続人の母と伯母を飛び越えて〈95歳祖母〉から生前贈与を受けることになった〈33歳孫〉。最後の最後に気づいた「まさかの落とし穴」に家族総出で真っ青になったワケ【相続の専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月26日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
相続人の子どもが相続放棄をした場合、相続人の子である孫に相続の権利が回っていくように思いますが、実際には、相続放棄した相続人の子どもに相続権はありません。子どもを飛ばして孫に相続してもらうには、一体どうすればいいのでしょうか。本記事では、子をとばして孫に相続させる方法について、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。
相続人は子ども2人
95歳の祖母の相続対策のアドバイスをしてもらいたいと33歳の香菜さんが相談に来られました。祖母の相続人は香菜さんの母親と叔母の2人。2人とも嫁いでいて、祖母は一人暮らしをしています。
香菜さん家族は同じ市内に住んでいるので、母親と香菜さんと妹(30歳)で毎日、祖母の家に通って食事の用意や身の回りの世話をしています。叔母は他県に嫁いだため、頻繁には来られず、香菜さん家族が担当しているといいます。祖母が95歳、母親と叔母も70代となり、相続が気になって、香菜さんが相談に来られました。
祖父は農家の土地持ち資産家
10年前に亡くなった祖父は農家の長男で、建築会社に勤ながら休日は田畑の維持のために農業も継続していました。農業は自家消費程度でしたが、農地として維持することで固定資産税は農地並みとなり、多少なりとも固定資産税の負担は軽減されています。農家住宅となる実家の土地は500坪あり、祖母の一人暮らしでは広すぎる状況です。
他の財産は駐車場、アパート、貸し宅地があり、賃貸収入もありました。祖父の相続のときは広い自宅と貸宅地は祖母が相続し、駐車場、アパートは母親と叔母が一つずつ相続しましたので、ほぼ法定割合となっています。
二次相続の節税対策が必要
祖父の相続税の申告については、自宅の土地評価を下げて負担を減らして、節税できました。それでも財産は約5億円。相続税は1億3000万円。配偶者の税額軽減により、祖母には納税はなかったということで、やれやれとひと段落されたようです。香菜さんの母親と叔母には相続税が課税されましたが、それ以上の預金が残っていて、納税は無理なくできたのでした。
二次相続を考えるとまた5,000万円程度の相続税となることが想定されましたので、祖母の節税対策をいくつかご提案しました。けれども祖母、母親、叔母には危機感がなく、あっという間に5年が過ぎたのです。
二次相続対策が進まなかった理由
祖母は元気で、自宅で生活できているとはいえ、90歳を過ぎていて、いつ、相続になるかわかりません。母親と叔母は70代。2人とも専業主婦でしたので、財産にはこだわりがなく、それだけに祖母の二次相続についてもいくつか提案をしてきました。
ところが、本人は90代に突入。祖父はアパートを建てたり、駐車場にしたりして、多少なりとも節税対策に取り組んできましたが、祖母は、祖父の財産を引き継いだままで、高齢になるとなおさら現状維持となりました。祖母の代わりに母親と叔母が祖母の背中を押さないといけなかったのですが、2人とも財産のことには関心がないのが本音のようで、結果、何もしなかったといいます。
孫が節税対策の窓口になる
ある日、香菜さんから連絡がありました。「祖母が体調を崩し、入院することになった」といいます。医者からは高齢なので万が一のこともあるかもしれないと言われてしまい、母親と叔母が慌てて相続のことを考えないといけないが、自分たちではわからないので香菜さんにやってもらいたいと話があったのです。叔母は結婚していますが子どもがいないため、孫は香菜さんと妹の2人です。
香菜さんはFPを持つ保険会社の社員ですので、数字には強く、相続の全体像も知識として持っています。結婚して実家住まいで、祖母にも毎日のように会っていますし、子どもの頃から自分の家のように出入りしてきた祖父母の家には愛着があり、祖母や母親、叔母には安心してもらいたいという気持ちから、祖母の生前対策の窓口になろうと思ったと言います。
子どもは飛ばして孫が相続?
祖母、母親、叔母、香菜さん、妹の計5人で話し合いをしたところ、全員の総意で祖母の家は香菜さんに継いでもらいたいとなり、香菜さんも自分が担当すると方向性の合意はできました。そして、母親も叔母も、祖父の時にアパートや駐車場や預金を相続していたため「これ以上はいらない」と主張。香菜さんと妹で祖母の家を引き受けてほしいということでした。
そこで、香菜さん家族は、祖母の相続人である長女(母親)と次女(叔母)に相続放棄をしてもらい、香菜さんと妹が祖母の相続人になって手続きを進めたいというのです。
相続放棄すると、孫は相続人になれる?
相続人の子どもが相続放棄をした場合、次の世代となる、相続人の子である孫に相続の権利が回っていくように思いますが、実際には、相続放棄をした相続人の子どもに、相続権はないのです。
なぜなら、子どもが相続放棄をすると、次は直系尊属の祖父母へ相続権が移りますが、すでに他界されています。そうなると次は、祖母のきょうだいになります。祖母には弟がいて、すでに亡くなっているのですが、子どもが二人が代襲相続人となるため、祖母の相続権は母親たちのいとこに回るのです。
相続放棄ではない方法が必要
仮にいとこにも相続放棄をしてもらうとすると、結果、祖母の法定相続人はいない結果となり、財産は国庫に帰属するとなるのです。こうして相続人を確認していくと、スタートの相続放棄では、相続人の子どもたちには相続権が回っていかないため、別の方法を考える必要がありました。
真っ青になっている香菜さんらに私がご提案したのは、祖母に公正証書遺言を作成してもらい、孫やひ孫に財産を遺贈する方法です。遺言書は優先されますので、相続人である母親と叔母を飛ばして、孫である香菜さんや妹、曾孫である香菜さんと妹の子どもにも財産を先渡しすることができます。相続税は2割増しになりますが、母親の相続を飛ばすことで節税になります。
公正証書遺言の必要書類
公正証書遺言を作成する際に必要な書類は、次のとおりです。公証役場での手続きには、事前に確認と準備が必要ですので、具体的な要件については管轄の公証役場に問い合わせると確実です。
公正証書遺言作成の必要書類
1.本人確認書類
遺言者の本人確認のための書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
2.遺言者の印鑑登録証明書
遺言者の印鑑登録証明書(通常、発行後3ヶ月以内のものが求められることが多い)
3.遺言の内容を裏付ける資料
財産目録(不動産の登記簿謄本、固定資産税評価証明書、預貯金通帳のコピー、証券口座の明細など)
遺言で処分する財産の内容と所在地を明確にするための資料
4.相続人や受遺者の情報
相続人や受遺者の氏名、住所、生年月日、続柄などの情報が分かる書類(戸籍謄本など)
5.証人の準備
公正証書遺言の作成には、通常2人の証人が必要です。証人となる人も本人確認書類が必要です。公証人役場で証人を手配してもらうこともできます(手数料がかかります)。
注意点
証人の要件
証人には、未成年者や相続人、受遺者、その配偶者および直系血族などはなることができません。
手数料の準備
公正証書遺言を作成する際には、公証人の手数料がかかります。手数料の金額は遺言の内容や財産の総額によって異なります。
孫、曾孫に遺贈する場合の必要書類
孫やひ孫に遺贈する場合は追加として下記の書類が必要になります。
1.受遺者(孫・曾孫)の戸籍謄本
受遺者である孫や曾孫の戸籍謄本。これにより、遺言者との親族関係(血縁関係)を証明します。
2.受遺者の住民票の写し
受遺者の現住所を確認するための住民票の写し。
3.未成年者の場合の追加書類
孫や曾孫が未成年者である場合、親権者の同意書が必要になることがあります。親権者(もしくは法定代理人)が証人として公正証書遺言に立ち会う場合、その本人確認書類も必要です。
4.遺留分に関する配慮
他の相続人(子供や配偶者など)の遺留分に配慮する必要があります。特に、孫や曾孫に多額の遺贈をする場合は、相続人の遺留分を侵害しないように遺言内容を慎重に検討する必要があります。
まとめ
香菜さんは相談に来られたことで、相続人が相続放棄をすれば孫に相続権が回ってくるということが家族の思い込みだったことに気が付けてよかった、すぐに祖母と相談して公正証書遺言を作成してもらい、自分と妹だけでなく、自分の子どもや夫にも分けて遺贈してもらう案にしてもらう、と言って帰られました。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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