米国第一主義になりそうなトランプ政権…米国は高関税の国に戻るのか、次期商務長官「米国は125年前、所得税がなく関税が主流であった」と発言
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月23日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
トランプ次期大統領は、国内産業の保護を目的に関税引き上げを実施するのでしょうか。商務長官に起用されることが決まった実業家のハワード・ラトニック氏は「125年前の米国は、所得税がなく関税が主流であった」という趣旨の発言をしています。国際税務の専門家が解説します。
次期商務長官は「関税引き上げ」を主張
トランプ次期大統領は、商務長官に実業家のハワード・ラトニック氏を起用すると発表しました。
同氏は、関税の引き上げを主張してきたことで知られ、選挙応援演説で「125年前の米国は、所得税がなく関税が主流であった」という趣旨の発言をしています。
トランプ氏が大統領在任中、米国IT企業の収益に対してデジタルサービス税(DST)を課すことを発表したフランスに対して、フランスからのワインに高い関税を課すことを発表して、DSTの課税を中止に追い込んだことがあります。
報道では、次期トランプ政権は米国第一主義を主張して、高関税を課すことで米国産業を保護する政策であると報道されています。
高関税の3つの効果
一般的な『税法概論』
関税の効果として、第1は国内産業の保護があります。たとえば、低価格で高品質の製品が海外から輸入されると、国内の同業は競争に負けることから関税を課して保護します。
第2は、高関税は国に税収をもたらします。令和6年度の関税収入は約9,000億円で、タバコ税とほぼ同じ水準です。
第3は、輸入品に関税が課されると、その輸入品を購入する消費者に関税分が転嫁されます。消費者は、関税を含む価格の商品を買うことになり、高関税は消費者である国民に負担を負わせることになります。
125年前の米国の税制
ラトニック氏の発言にあった125年前の米国の税制ですが、125年前というと、19世紀から20世紀にかけての時期になります。この時期は、米国憲法の第1条第2節第3項の規定が所得税(法人税を含みます)の導入を阻んできました。
その規定とは「代議員数及び直接税は連邦に加入する各州の人口に比例して各州の間に配分されることとする」で、この規定は1913年の憲法修正第16条により所得税の各州配分の規定が除去されました。
この規定にある直接税とは、財産税あるいは人頭税を想定したもので、所得税では各州配分はできません。
米国は1894年に所得税および法人税を導入しました。当時は、1890年に制定されたマッキンレー関税法が関税率を49.5%に引き上げました。
その結果、物価高騰の弊害が生じたため、1894年にウィルソン・ゴーマン関税法を制定し、関税の平均税率を39.4%に引き下げました。その税収減を補うため、1894年に所得税・法人税が導入されましたが、1895年にこれらの税は違憲判決が出て廃止されました。
1913年の憲法改正により、法人税を含む所得税が導入されました。この時期の所得税の税率は1%~6%でしたが、米国が第一次世界大戦に参戦した1917年以降、戦時税制として、所得税付加税の最高税率60%、法人税の超過利潤税最高税率60%と引き上げられて、関税から所得税に税収の主要税法がシフトしています。
物価高騰、貿易摩擦のデメリット
ラトニック氏が125年前の米国税制において関税が主要税目であったということについて、誤った内容ではありませんが、高関税が国内の物価高騰を引き起こした結果、税率の引き下げと憲法を改正して所得税を導入したという歴史的経緯があることには触れていません。
高関税は国内産業の保護というメリットはありますが、物価高騰、貿易摩擦というデメリットもあります。今後、米国次期政権がどのような政策のかじ取りをするのか注目するところです。
矢内一好
国際課税研究所首席研究員
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