「家族葬」ではなく普通の葬儀にしておけば…89歳元会社役員、尊敬する父を見送った59歳息子の「取り返しのつかない後悔」【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月22日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「家族だけで静かに送りたい」「費用を抑えたい」。そんな思いから選択されることが増えている家族葬ですが、故人の人脈や社会的立場によっては、むしろ遺族の負担が増えるケースもあります。今回は化学メーカーの元役員だった父(89歳)を家族葬で見送った真坂秀一さん(仮名・59歳)が後々大きな後悔を抱えることになった事例と共に、家族葬を選択する前に必ず確認すべきポイントをFPの三原由紀氏が解説します。
尊敬する父の葬儀「最近は家族葬が一般的」の言葉で決断
「父は亡くなる前日まで元気で、日課の散歩も欠かさずにしていたようです」
真坂秀一さんは当時を振り返ります。秀一さんが尊敬する父は、40年間勤めた化学メーカーで役員まで出世し、地域の住民からも頼られる人望厚い人柄でした。
几帳面な性格で家事にも積極的に参加する父は、ある日、翌朝の朝食のテーブルセットのルーティンを終えた20時頃、胸の痛みを訴えました。すぐに救急搬送されるも、心不全で帰らぬ人となりました。
母からの一報で秀一さんは急ぎ病院に駆けつけましたが、間に合わず……。悲しむ間もなく、数時間後に病室をあけるように暗に促されました。祖父の代からお世話になっている地元の葬儀社に電話をすると、まもなく搬送車で駆けつけてくれました。そして、そのまま葬儀社の安置室に向かい、葬儀の打ち合わせが終わったのは夜中の12時過ぎでした。
母は日常生活は送れるものの軽度の認知症を患っており、葬儀の相談をすることは難しい状況でした。「家族で最後のお別れをどうするか話し合いたかったのですが、母は日によって話が通じないこともあり、判断を任されているような重圧も感じていました」秀一さんは当時の心境を語ります。
生前、父とも葬儀の形式について具体的な話し合いをしていなかった秀一さんは、近年の傾向も考慮して家族葬を選択しました。親戚も少なく、また高齢の参列者への配慮やコロナ禍の影響も判断材料となりました。葬儀社の担当者からも「最近は家族葬が一般的です」と背中を押してもらい、その方向で準備を進めることにしたといいます。
確かに葬儀自体は、厳かに、そして無事に執り行うことができました。しかし、それは新たな問題の始まりでもあったのです。
「なぜ連絡してくれなかったのか」予想外の出費と知人からの戸惑いの声
葬儀から1ヵ月ほどが経ったある日、「お父さん、遺言書を作成していたのよ」母から突然打ち明けられました。
父は、母の認知症が進み、秀一さんと遺産分割協議ができなくなることを危惧して、生前に遺言書(公正証書)を書いていたのです。父が死後の心配までしてくれていたと知り、改めて尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。
遺言書を開封すると、秀一さんは大きな衝撃を受けました。そこには「多くの人に見送られたい」という父の希望と、「お別れの言葉を読んでほしい」という10名ほどの知人のリストが記されていたのです。
すでに執り行った家族葬では、これらの方々に参列の機会さえ提供できていませんでした。さらに、父の訃報を聞いた多くの知人や元同僚・部下から連絡が入り始めました。
「なぜ連絡してくれなかったのか」「最期のお別れができなかった」という声が相次ぎ、中には明確な非難の言葉もありました。父は地域活動にも熱心で、マンションの理事長や地元神社の氏子総代を担ったこともあります。元職場の同僚たちとも親交があり、年に一度の食事会を楽しみにしていたそうです。そんな父の人脈の広さを、秀一さんは十分に理解していませんでした。
また、家族葬だからといって費用が大幅に抑えられたわけではありませんでした。確かに料理などの費用は抑えられましたが、花祭壇(生花をあしらった祭壇)には、母の強い希望で胡蝶蘭を入れてもらいましたし、棺や骨壷なども父に相応しいものをと選びました。それらの金額は合計200万円にもなり、後から送られてきた請求書を見たときにはさすがに驚きました。
さらに、後日の個別の供養や香典返し、そして、葬儀後に弔問に来られた方々へのお礼など、想定外の出費と手間が重なりました。結果的に、一般的な葬儀をオーバーする費用がかかってしまったのです。
会社の役員まで務め上げ、父の遺産は自宅以外に4,000万円あり、高額な葬儀費用はなんとかなります。残された母も遺族年金含め月20万円もらえるようですから暮らしには困らないでしょう。
そうした金額面のことよりも、「父の最期にふさわしくなかった……」深い後悔が秀一さんに残りました。
「これだけは確認を」家族葬選択前の三つのチェックポイント
今回の秀一さんの経験から三つの重要な提言があります。
一つ目は、生前に故人の意思を確認することです。葬儀の形式や規模、参列してほしい人などについて、具体的に話し合っておくことが重要です。特に人付き合いの多い場合、家族葬が適切でない可能性もあります。重要なのが、エンディングノートの活用です。遺言書は法的な効力を持つ文書であり、主に財産分与などの記載に用いられます。
一方、葬儀の形式や参列者への希望といった詳細は、エンディングノートに記しておくのが適切です。エンディングノートは法的な拘束力はありませんが、故人の希望を細かく記録できる利点があり、葬儀の準備に役立ちます。
二つ目は、葬儀費用の事前準備です。希望に合った葬儀の予算を確認しておくこと、さらに、予期せぬ追加支出も考慮に入れておく必要があります。生命保険の死亡保険金や、預貯金もしっかりと確認しておきましょう。
三つ目は、葬儀後のケアの重要性です。故人との関係が深かった方々への個別の対応や、その後の法要なども含めて検討が必要です。場合によっては、後日、「お別れの会」などを開催することも一案です。
これから大切な人を見送る方々の参考になれば幸いです。最期の別れの形は、故人の人生に寄り添ったものであってほしい。そう強く願います。
三原 由紀 プレ定年専門FP®
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