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お願いですから戻らせてください…資産1億2,000万円で歓喜の早期退職を実現した59歳会社員、わずか3ヵ月後に元職場へ復職の直談判。発端はある日届いた「LINEの通知」【FPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月29日 8時15分

お願いですから戻らせてください…資産1億2,000万円で歓喜の早期退職を実現した59歳会社員、わずか3ヵ月後に元職場へ復職の直談判。発端はある日届いた「LINEの通知」【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

詐欺の被害で大金を奪われたといったニュースを見て「なんで騙されるの?」と疑問に思ったことがある人は多いでしょう。ですが、「自分は大丈夫」と自信がある人ほど注意しなくてはなりません。なぜなら、「簡単に稼げる」という誘惑に人は驚くほど弱くなるからです。行動経済学を知り尽くした詐欺師たちは、私たちの心の隙間を狙い撃ちにするよう緻密に設計された手口で、最後には全財産を奪い去ります。今回は59歳、業界歴30年のベテラン営業マンが、若手上司への憤りと早期退職への渇望から6,000万円を失った事例を、ファイナンシャル・プランナーの青山創星氏が詳しく解説します。

年下上司に追いつめられる日々に憔悴する中、見覚えのないLINE通知

瀬戸島直正(仮名、59歳)さんは、大手電機メーカーの営業部で30年以上のキャリアを積んできたベテラン社員でした。かつては部下を持つ中間管理職として活躍していましたが、会社の組織改編で若手が登用され、平社員として営業ノルマに追われる日々。

新任の上司、佐藤課長(仮名、38歳)からの容赦ないノルマ要求に、瀬戸島さんの心は折れそうになっていました。もうすぐ60歳で定年になりますが、その後も継続雇用で給料がガクンと下がるなか、この上司の下で働かなくてはならないのです。

そんなある日、瀬戸島さんのスマートフォンに見覚えのない通知が届きました。LINEのグループに勝手に追加されていたのです。

グループ名は「投資学習会」。最初は無視しようと思いましたが、グループ内でのやりとりが気になり、瀬戸島さんは少しずつ覗き見るようになりました。そこでは、投資の先生と呼ばれる人物が、生徒たちの質問に的確に答えていました。

「先生、指示通り売買したら今日の取引で10万円儲かりました!ありがとうございます!」

「素晴らしい成果ですね。これからも頑張りましょう」

生徒たちは先生に尊敬の念を示し、感謝の言葉を返していました。さらに、グループには、稼いだ資金で海外旅行に行ったり高級リゾートで過ごしたりする写真が頻繁にアップされていました。

「投資学習会」での華やかな世界を見るにつれて、瀬戸島さんの心は少しずつ揺れ始めていました。

少額取引で信頼できると確信、そして3,000万円が1億2,000万円に

瀬戸島さんは、グループ内で質問をしてみました。すると、先生のアシスタントを名乗る人物から個別のメッセージが届きました。

「瀬戸島さん、まずはデモ取引から始めてみませんか?」

アシスタントは、瀬戸島さんに専用のアプリをダウンロードさせ、デモ取引の方法を懇切丁寧に教えてくれました。アシスタントの指示通りに取引を行うと、面白いように利益が出ていきます。

「すごい! こんなに簡単に儲かるなんて……」

瀬戸島さんは早く本物のお金で取引してみたいとアシスタントに伝えました。しかし、アシスタントは「まだ早いです。もっと練習してからにしましょう」と諭しました。

2週間後、ようやく本物の取引を始める許可が下りました。瀬戸島さんは2万円で売買システムを購入し50万円を指定の口座に振り込み、先生の指示通りに売買すると、わずか1週間で95万円にまで増えたのです。

少額の売買を数回繰り返すと、やはりあっという間に利益が出ます。途中、不安になった瀬戸島さんは50万円の引き出しを依頼してみました。すると、翌日には確かに50万円が自分の口座に入金されていました。

そして、これは大丈夫だと確認した瀬戸島さんは、コツコツと貯めてきた大切な3,000万円全額を投資しました。すると、その資金は1億2,000万円にまで膨れ上がりました。

そして、ついに退職を決意したのです。

「ざまあみろ!俺は自由だ」~晴れやかな気分で去った最後の出社日

瀬戸島さんは、上司への恨み節を残して晴れやかに退職願を提出しました。

「ざまあみろ! 俺は自由だ」

心のなかで叫んでいました。これで自分の老後は悠々自適。怖いものはまったくないという気持ちになっていました。

さらに、瀬戸島さんは受け取った退職金2,000万円全額も投資に回すことにしました。資金を置いておくだけで先生の投資手法で自動的に売買してくれるシステムを勧められ、10万円で購入していたのです。そして、自動取引で投資資金はなんと1億8,000万円にまで膨らみました。

ここにきて、瀬戸島さんは「せっかく増えたお金を使って新車でも買おうか」と、1,000万円の引き出しを依頼しました。

しかし、アシスタントから「引き出しの前に納税が必要なので334万円を送金してください」と言われました。しかし、すべて投資に回していて手元にお金がありません。そこで、瀬戸島さんは両親と弟に頼み込んで300万円を調達し、送金しました。

ところが今度は「追加の証拠金420万円が必要です」と言われたのです。不安を感じましたが、消費者金融も使って何とか資金を工面し送金することができました。

しかし、その直後、先生ともアシスタントとも連絡が取れなくなってしまいました。瀬戸島さんの不安は、恐怖へと変わりました。

「どうか戻らせてください」失った約6,000万円と尊厳、そして妻の信頼

銀行や警察に連絡しました。しかし、資金は送金当日に引き出されていて追跡もできないとのこと。振り込め詐欺救済法により、口座にお金が残っていれば一部お金が戻ってくる可能性もありますが、このケースは無理とのこと。また、この種の詐欺師は海外にいる場合も多く、詐欺師を捕まえることはほとんど不可能とのことでした。

今から考えると、指定された口座の名義が個人名でその口座も何度も変わったり、少しメッセージの日本語がおかしいと感じたりしたこともありました。

貯金3,000万円と退職金2,000万円、そして、両親、弟、消費者金融から借りたお金の合計約6,000万円が一瞬にして消えてしまったのです。先生もアシスタントも生徒たちも、投資システムの画面に映し出されていた増え続ける資産も、すべて偽物だったのです。妻の優子さん(仮名、57歳)に事実を告げたとき、瀬戸島さんは妻の表情が凍りつくのを目の当たりにしました。

ついに、瀬戸島さんは意を決して、かつての勤め先を訪れ人事部長に頭を下げて懇願しました。「どうか、私を戻らせてください。どんな仕事でも構いません」

人事部長は、困惑の表情を浮かべながら「瀬戸島さん、正直に言うと難しいですね」その言葉に、瀬戸島さんの心は凍りつきました。

プロの詐欺師はこうやってあなたの心を操る―具体的な手口と防衛策

瀬戸島さんの悲劇的な体験は、決して特殊なケースではありません。誰もが同じような状況に陥る可能性があります

このような詐欺に遭わないためには、以下のポイントに注意することが重要です。

  1. 「簡単に稼げる」という話には常に疑いの目を向ける。
  2. 投資の基本知識を身につけ、リスクについて正しく理解する。
  3. 金融商品を扱う業者が金融庁に登録されているかを必ず確認する。
  4. 大きな決断をする前には、必ず家族や信頼できる人に相談する。
  5. 全財産を一つの投資に集中させることは避け、リスク分散を心がける。
  6. 退職金の運用方法については、専門家のアドバイスを受ける。
  7. SNSでの投資勧誘には特に注意を払う。

このケースでは、口座の損益状況をリアルタイムで見ているかのように錯覚させ安心させるというのが、だましのテクニックのキモです。

しかし、それだけではなく詐欺師たちは行動経済学上の心理的効果やバイアスを巧みに利用して、下の図にまとめたような流れで信頼感を高めたりニセの取引にのめり込ませたりさせています。

こうした知識を身に付けておくことがなにより大切ですが、万が一被害に遭ってしまった場合は、すぐに以下の機関に相談しましょう。

  • 警察、金融機関
  • 消費者ホットライン(188)
  • 国民生活センター
  • 金融庁(金融サービス利用者相談室)

瀬戸島さんのケースは、私たちに重要な教訓を与えてくれます。人生の転機において、焦りや不安感、開放感から冷静さを失わないこと。そして、「簡単に稼げる」という甘い誘惑に惑わされないことの大切さを教えてくれています。瀬戸島さんの苦い経験を、私たちの未来を守るための貴重な教訓として活かしていきましょう。

青山 創星 ファイナンシャル・プランナー

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