家賃が払えません…〈夫婦では年金月30万円〉年上妻が死去も「遺族年金ゼロ」で危機の60代夫。路頭をさまよい、辿り着いた先で起こした「大事件」【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月28日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
年金は多くの人にとって老後の収入の柱です。しかし、夫婦での合計受給額をベースに老後のマネープランを立てていると、配偶者の一方が先に亡くなった際、遺された側は危機に陥ることも。本記事では、田村さん(仮名)の事例とともに、日本の遺族年金制度と老後の住まいの問題について、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナーである波多勇気氏が解説します。
姉さん女房が先に亡くなり、一人遺された夫
田村浩二さん(仮名/60代)は、会社員として40年間働き、定年を迎えました。妻の美智子さん(仮名/70代)は専業主婦でしたが、過去に働いていた時期があり厚生年金も受給しています。夫婦の年金収入は合わせて月30万円。生活費は月25万円程度で、少し余裕がある老後生活でした。
「息子夫婦が孫の顔を見せに来てくれるのがなによりの楽しみだった」と浩二さんは当時を振り返ります。老後資金として1,000万円の貯蓄もあり、2人とも将来の生活に不安はありませんでした。
しかし、浩二さんの定年から間もなく、美智子さんが心臓発作で他界。「こんなに早く別れがくるとは」日に日に寂しさは増すばかりです。そこへ、さらなる悲劇が……。
遺族年金0円の衝撃
妻の死後、浩二さんが受け取れる年金額は自身の年金20万円程度のみ。夫婦お互いの万一のときには遺族年金がもらえるものとばかり思っていましたが、浩二さんの場合、自身の厚生年金分が控除されてしまうことをこのとき初めて知りました。
「いままでの生活費に足りないどころか、家賃や光熱費を払ったらほとんど残らない」と、浩二さんは絶望的な表情を浮かべます。生前の美智子さんは、頑なな賃貸主義でした。持ち家だった実家でのご近所トラブルが原因で、ひとつの場所に住みつづけることを拒んだのです。浩二さんは持ち家に特段のこだわりもなかったため、妻の意見に同意し、2人は賃貸暮らしを選択しました。
なんとか固定費を減らそうと、条件に合ういまよりも家賃の安い賃貸に申し込むも、審査落ち。やむなく現状維持となり、浩二さんの物件探しの日々は続きます。日々の赤字を補填するため、貯金を切り崩して生活することになりました。
妻が亡くなったからといって、ここまで金銭的に逼迫するとは思いもよらなかったでしょう。これまでは、困ったことがあっても世話焼きで責任感の強い妻と一緒であれば、なんでも乗り越えることができていました。しかし、頼れる妻ももういません。金銭的な不安と孤独感で浩二さんは段々とふさぎこみがちになりました。
日本の遺族年金制度
遺族年金は、夫婦のどちらかが亡くなった場合に一定額を受け取れる制度です。しかし、田村家のようなケースでは、想像以上に受給額が少ないことが問題になります。厚生年金における遺族年金は、亡くなった人の年金額の最大4分の3が支給されますが、自身の老齢厚生年金分が控除されてしまいます。今回のケースでは遺族年金よりも浩二さんの老齢厚生年金のほうが多かったため、単純に妻の年金収入分が減少することとなりました。
二人暮らしが一人暮らしになったからといって、生活費も単純に半分になるというわけではありません。月の収入が10万円いきなり減ることは大きな痛手でしょう。これは、浩二さんだけに限った話ではありません。
高齢期に待ち受ける賃貸派のリスク
厚生労働省の調査では、夫婦世帯の平均年金収入が月22万円程度。一方で、単身世帯になると平均14万円程度に下がります。このギャップは住宅ローンが終わった自宅持ち世帯には比較的緩和されますが、賃貸暮らしの場合は家賃が負担となり、生活が成り立たなくなる場合もあります。
単身の高齢者は、若者と比べ、物件内での孤独死のリスクが高いとみなされやすいことから、入居審査で落ちる可能性が高まります。万が一室内で孤独死が発生してしまうと、新たな入居者を見つけるまでに経済的・時間的コストが発生するため、慎重になる貸主が少なからずいるためです。
また、年金という安定した収入があるものの、健康状態が悪化すれば、医療費や介護費などの負担もかさむことから、働いて収入を増やすことが若者より難しい高齢者を、経済的に不安視する貸主もいるようです。
医療費や介護費が増加する高齢期には、思わぬ出費が家計を圧迫します。実際、田村さんも美智子さんの医療費を補うために貯蓄の一部を使っていました。もともと1,000万円あった貯蓄は美智子さんが亡くなることにはすでに少なくなっていました。「遺族年金の制度はあるけど、生活費のすべてをカバーできるわけではない」という現実が、計画の甘さを浮き彫りにしました。
息子夫婦に同居を申し出
いよいよ貯蓄が底を尽きかけます。もうあそこしかない、と浩二さんは息子夫婦に同居を申し出ました。事情を話すと息子が快諾してくれたため、引っ越しをすることになりました。
しかし、引っ越しから数日経ったある深夜、トイレに立った浩二さんは居間で口論する声を耳にします。
「お義父さんに出て行ってと言ってよ。日中も家に居られて私は休む間もないの。それに2人目がほしいって言ったじゃない。お義父さんが部屋を一つ占拠してちゃどうにもならないわ」
「仕方ないだろ。それに行く当てがないのに放り出せないよ」
「私いやよ、この先、お義父さんがもし介護になってお世話するのなんて」
「お前、そういういい方はないだろう!」
どうやら自分のせいで息子夫婦が喧嘩になっているようです。これはまずい……。浩二さんは焦りました。「息子たちが最悪、離婚にまでなってしまったら」精神的に不安定な状態の浩二さんは悪いほうへ悪いほうへと考えてしまいます。その日からまた賃貸探しを始めました。しかしいまのところ、浩二さんの住まい問題は解決していないようです。
不測の事態への備え ゆとりある老後のために
浩二さんのようなケースを防ぐために、どのような対策が取れるでしょうか。
夫婦それぞれの年金額とシミュレーションを確認
公的年金の受給額や遺族年金の支給額を早めに確認し、「一人になった場合の生活費」を試算しておくことが重要です。ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することで、現実的な数字が見えてきます。
貯蓄と資産運用の見直し
老後の生活資金を公的年金だけに依存するのは危険です。田村さんの場合、退職金の一部を運用しておけば、妻の死後の収入減を補えた可能性があります。低リスクの投資信託や個人年金保険を利用し、安定的に収入を得る方法を検討しておくと安心です。特に、貯蓄を取り崩す速度を抑える仕組みを整えることが大切です。
生命保険の活用
生命保険も有効な選択肢です。特に、家賃や生活費に充てられるよう設計された保険を契約することで、不測の事態に備えることができます。
住まいを検討する
賃貸住まいの場合、家賃は大きな固定支出となります。配偶者が亡くなったあと、年金収入だけでは支払いが難しくなることが想定されるため、早めに住み替えを検討することも有効です。子どもがいる場合には、子どもとも万一に備えて相談しておくとよいでしょう。
波多 勇気 波多FP事務所 代表ファイナンシャルプランナー
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