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店員さんの「~しておきましょうか」は無料?有料?…日常に潜む“ズルい”日本語表現【ふかわりょう×言語学者が対談】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月15日 15時0分

店員さんの「~しておきましょうか」は無料?有料?…日常に潜む“ズルい”日本語表現【ふかわりょう×言語学者が対談】

(※写真はイメージです/PIXTA)

相手を無意識に誘導するようなフレーズは、日常のなかにあふれています。日本語における特徴的な「匂わせ」表現についてみていきましょう。ふかわりょう氏と気鋭の言語学者・川添愛氏が、著書『日本語界隈』(ポプラ社)より対談形式で「日本語の妙味」について語ります。

「〜しておきましょうか」はどっち?

川添:ふかわさんの本に出てきた、「『~しておきましょうか』には無償化のニュアンスが含まれているのではないか」という指摘も「鋭い!」と思いました。

ふかわ:そうなんですよ! ガソリンスタンドで店員さんに「添加剤入れておきましょうか」と言われて。てっきりサービスかと思ったら、がっつり有料だったことがあって。これはズルくないですか?

川添:ズルいですねー。「しておく」というのが、いかにも「ついで感」があるじゃないですか。メインがあって、それにサブのように足すという。

ふかわ:サービスの匂いは、その「ついで感」から漂うものなんですかね? 僕の感覚は言語学的には間違えていないということですか。

川添:私もそう言われたら、サービスだと思ってしまいます。ふかわ:店員さんにしてみたら、上司に添加剤も売るように言われていて、でもなかなか売れないから、苦肉の策で生まれた言い回しなのかもしれません。

同じ例として、近所に来ていた庭師さんに「おたくの枝も道路に出ているから切っておきましょうか」って言われてお願いしたら、やはりお金を取られたという。これも「ついでにやりますよ」というサービス感が出ていますよね。

川添:これは気をつけないといけませんね。「〜しておきましょうか」は警戒ワードと思っておいていいかもしれません。

ふかわ:もし訴訟になったら、どっちが勝つんでしょうか。

川添:法律のことはよくわかりませんけど、残念ながら「相手が噓をついた」と主張するのは難しいと思います。「紛らわしい言い方をして、不誠実だ」と主張することはできるとは思うんですけど。

というのも、「~しておきましょうか」と言ったからといって、「無料です」とか「サービスです」と言ったことにはならないんですよね。その証拠に、「~しておきましょうか? ちなみに有料ですけど」と言っても、矛盾にはならない。

「あたかもサービスであるかのように匂わせる」ということと、「発した言葉そのものに『サービスだ』という意味が含まれる」ということは、似ているようで違うんです。前者のような「匂わせ」は後からいくらでも誤魔化せるので、要注意です。

ストップ!ズルい表現

川添:他にも、相手を誘導する言葉って意外とありますよね。たとえば、「いつ」。

前に、ナンパ術の本を読んだときに書いてあったことなんですけど、初めてデートをした相手と「また会いたいな」と思ったとき、「また会ってもらえる?」と言うと、「NO」が返ってくる可能性もあるじゃないですか。そういうときは「今度はいつ会う?」と言うと、相手が断りにくくなるというんです。

つまり、この言い方をした時点でまた会うことを前提にしてしまえるんですよ。

ふかわ:なるほど。すごいテクニック。心も誘導できちゃうんですね。先程も触れましたが、ネットニュースで、勝手に前提にするズルい表現を目にする機会が増えたように思います。たとえば、「〇〇が〇〇する〇〇の正体」の「正体」とか。

川添:ああ、ズルいですね。いかにも、何か大事なものが隠されている気がしますよね。これまでにも「〇〇が〇〇する本当の理由」とかはありましたけど、「正体」は新しいかもしれない。

ふかわ:新手ですよね。『ズルい言葉辞典』みたいなのを作りたいぐらいで、本当に横行している。噓までいかないけど、なんかそういう小さな狡こう猾かつがあちらこちらで散見されます。

川添:「〇〇だということをご存じでしたか」とかね。キャッチコピーでも、たとえば飲み物のCMで、「喉ごしにこだわりました」というのは普通だけど、「こだわったのは、喉ごしです」と言うと、だいぶ印象が変わりますよね。

ふかわ:全然違うなあ。どう違うんだろう。

川添:「こだわったのは、喉ごしです」のほうでは、こだわることが前提になっているんですよね。「私たち、何かにこだわるのは当たり前です」という主張が隠されていて、そのうえで「実際に、何にこだわったかというと、それは喉ごしです」と言っているんです。

ふかわ:「はじめたのは、冷やし中華です」っていう貼り紙はどうですか。

川添:それは新しいですね(笑)。そういう店を見かけたら、思わず入ってしまいそうです。

ふかわ:あとネットでいうと最近、「けしからん」という表現がポジティブに使われているんです。

川添:「けしからん」、懐かしい響きの言葉ですね。『サザエさん』の波平とかが使うイメージですが、流行っているんですか?

※ 『サザエさん』:長谷川町子の漫画を原作とした国民的アニメ。初回放送は1969年。世界で最も長く放送されているテレビアニメ番組としてギネス世界記録を更新中。

ふかわ:そうなんです。特に多いのは露出度の高い女性の画像に対して、「こんなの、けしからんな」と使っているんですけど、本心は大歓迎ということで。

川添:なるほど、そういう使い方ですね。

ふかわ:ただ、またゆきりん(三島由紀夫)なんですけど、「けしからんしるこ」という表現があって。「おいしいおしるこ」という意味で使っているので、もともと「けしからん」にはポジティブな意味があったのかなと思ったんです。

川添:あったんですかね。「こんなにうま過ぎてどうしてくれる」、みたいな? ちょっとツンデレな感じですかね。

川添 愛 言語学者

ふかわりょう お笑い芸人

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